孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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12-24 別れの前の願い

 アドニスに連れられて部屋の前に
戻ったサフィニア。

アドニスが扉を開けると、
床の上にはサフィニアの
キャリーケースが置かれていた。

「……あれは、私の……」

「ヘスティアが用意してくれていたのかも
しれないな」

背後からアドニスが優しく声をかける。

二人で室内に入ると、
テーブルの上に一枚のメモが
置かれていることに気づいた。

サフィニアがそっと手に取ると、
丁寧な文字でこう綴られていた。

「出立の準備をさせていただきました。
侍女として最後の仕事です。
王女教育、頑張ってください」

「ヘスティア……」

サフィニアはメモを胸に抱きしめ、
再び涙が滲んだ。

「……ヘスティアは最後まで、
よくできた侍女だったな」

「はい……」

サフィニアは小さく頷く。

「それじゃ、荷物は俺が持つ。
最後に父に挨拶しに行こう」

「はい、アドニス様」

サフィニアは涙を拭い、
アドニスと共に部屋を後にした。


****

明るい日差しが差し込む執務室。
そこには国王、サフィニア、
アドニスの姿があった。

「出立前によく来てくれたな、サフィニア」

国王は穏やかな笑みを向ける。

「いいえ、こちらこそお忙しいところ、
お時間を頂きありがとうございます。
あ、あの……それで、
エストマン公爵家の人々は……
どうなったのでしょうか?」

サフィニアは言いにくそうに口を開いた。
どうしてもあの後の彼らの様子が気になって
いたのだった。

「あぁ、彼らのことか」

国王は表情を変えずに続ける。

「まずエストマン公爵だが、
あの後すぐに地下牢へ入れることもなく、
忘却牢獄へ連れていかれた。
何しろ、狂ったように暴れるのでな。
そのまま放り込むことにしたのだ。
今ごろはもう日の光も差さない牢獄だ。
二度と出てくることはない」

「そ、そうですか……」

国王の淡々とした口調に、
サフィニアは少しだけ身をすくませた。

「それでは……セイラ様は……?」

「あの者は今日の明け方に
護送されていったそうだ。
私は立ち会っていないから
何とも言えないがな」

「陛下、ラファエルはどうなりましたか」

今度はアドニスが尋ねる。

「ラファエルなら、あの後すぐに城を発ったそうだ。
自分の足でな」

「どこへ行くかは話されていましたか?」

「いや、誰も何も聞いてはいない」

国王は首を振った。

「そうですか……」

「気になるか? ラファエルのことが」

サフィニアに尋ねる国王。

「は、はい……」

サフィニアは正直に頷いた。

「だが、あの者の心配はする必要はなかろう。
個人名義の資産だけは残してやったのだ。
後のことは自分で始末をつけるだろう」

国王はそう言うと、
ふっと表情を和らげた。

「それよりも、そろそろ港へ
向かった方が良いだろう。
セレウス殿はもう先に
向かっているしな」

「え? そうだったのですか。
それでは私も港へ向かいます」

サフィニアが慌てて頭を
下げたその時――

アドニスが一歩前に出た。

「陛下。
い、いえ……父上!
お願いがあります!」

国王が目を細める。

「なんだ、アドニス」

アドニスは深く息を吸い、
真剣な眼差しで言った。

「サフィニアの付き添いとして、
『オケアリオン』王国へ同行する
許可を頂けないでしょうか!」

「え!? アドニス様?」

サフィニアは驚き、目を丸くする。

しかし……。

「ならぬ」

国王は即座に首を振った――

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