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3-6 寂しい気持ち
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ヘスティアのお茶の淹れ方はサフィニアから見てもとても素晴らしかった。
セザールもそれを感じていたのか、真剣な眼差しで様子を見つめている。
「さ、どうぞ飲んでみてください」
カップに注がれたお茶を前にヘスティアが2人に声をかけた。
「ええ、いただくわ」
「いただきます」
2人は早速お茶を飲んでみた。ほんのりとした爽やかな香りに、甘みがある。今までにサフィニアが口にしたことのないお茶で、とても美味しく感じられた。
「とても美味しいわ。それに初めて飲む味よ」
「ええ。僕もそう思います。これは何のお茶ですか?」
セザールは身を乗り出すようにヘスティアに尋ねた。
「はい、このハーブティーはリコリスとローズヒップを合わせたハーブティーなのです。我が家の温室で育てて、ハーブに詳しいお母さまが作っています。このハーブ入りクッキーもお母さまから教わって焼いたクッキーなんですよ?」
「そうなのですか? それは何よりですね」
相槌を打ちながらセザールは話を聞いているが、サフィニアの様子が気になってならなかった。サフィニアは母を亡くしているので、出来ればこの話を避けたかったのだ。
ヘスティアが嬉しそうに母親の話をする様子を、サフィニアは寂しい気持ちで聞いていた。
(ヘスティアには、素敵なお母さんがいるのね……。でも、私には……)
思わず俯くと、セザールが言った。
「ヘスティア様。美味しいお茶とクッキーをありがとうございました。そろそろ僕は戻りますね。まだ屋敷の仕事が残っておりますので」
そして次にセザールはサフィニアに視線を移した。
「サフィニア様、あまり長居することが出来ずに申し訳ございませんでした」
「いえ、いいのよ。セザールが忙しいことは分かっているから」
「また、近いうちに伺いますね」
セザールが席を立つと、ヘスティアも素早く席を立った。
「セザール様! 馬車でお屋敷まで送らせて下さい!」
「え? い、いえ。何もそこまでしていただかなくても大丈夫ですよ。僕のことよりりもサフィニア様をお願いします。ヘスティア嬢はサフィニア様の侍女なのですから」
困惑の表情を浮かべるセザール。
「なら、サフィニア様の許可を貰えれば良いのですね?」
「「え?」」
ヘスティアの言葉にセザールとサフィニアが同時に驚く。
「サフィニア様、本邸までセザール様をお見送りさせていただいてもよろしいですか?」
真剣な眼差しでサフィニアを見つめるヘスティア。
「そ、そうね。私は……別に構わないわよ」
特に反対する理由は無かったし、それに何よりこれからヘスティアは自分の侍女になってくれる少女なのだ。ここで反対をして、ヘスティアの反感を買いたくは無かったのだ。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
サフィニアの許可を貰い、ヘスティアの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「いいのよ、それではセザールをお見送りしてきてくれる?」
「はい、お任せください! セザール様、それでは早速参りましょう?」
ヘスティアはセザールに駆け寄ると、自分から手を繋いでいく。
「それではサフィニア様。失礼いたします」
「ええ、またね。セザール」
寂しい気持ちを押し殺して笑顔で手を振るサフィニア。
セザールは一度会釈すると、ヘスティアと一緒にリビングを出て行った。
「……セザール……」
2人が部屋からいなくなると、途端にサフィニアの顔から笑顔が消える。今までいつもサフィニアを最優先してくれたセザール。
だけど誰よりも一番セザールの傍にいられるのは姉のセイラであり、その次に自分だった……はずだった。
改めて1人になったサフィニアは、すっかり様変わりしてしまったリビングを再度見渡す。
「……あのカーテン……ママと2人で作ったのに……。それにチェストや戸棚は……ママがペンキを塗って奇麗にしたのに……」
思わず目に涙が浮かびそうになり、サフィニアはグッと堪えた。
(ううん、泣いたら駄目よ。私が泣いたらママが悲しむって、神父さんと約束したのだから)
驚いたことにサフィニアは4年経過した今も神父との約束を守り、泣かないようにしていたのだった――
セザールもそれを感じていたのか、真剣な眼差しで様子を見つめている。
「さ、どうぞ飲んでみてください」
カップに注がれたお茶を前にヘスティアが2人に声をかけた。
「ええ、いただくわ」
「いただきます」
2人は早速お茶を飲んでみた。ほんのりとした爽やかな香りに、甘みがある。今までにサフィニアが口にしたことのないお茶で、とても美味しく感じられた。
「とても美味しいわ。それに初めて飲む味よ」
「ええ。僕もそう思います。これは何のお茶ですか?」
セザールは身を乗り出すようにヘスティアに尋ねた。
「はい、このハーブティーはリコリスとローズヒップを合わせたハーブティーなのです。我が家の温室で育てて、ハーブに詳しいお母さまが作っています。このハーブ入りクッキーもお母さまから教わって焼いたクッキーなんですよ?」
「そうなのですか? それは何よりですね」
相槌を打ちながらセザールは話を聞いているが、サフィニアの様子が気になってならなかった。サフィニアは母を亡くしているので、出来ればこの話を避けたかったのだ。
ヘスティアが嬉しそうに母親の話をする様子を、サフィニアは寂しい気持ちで聞いていた。
(ヘスティアには、素敵なお母さんがいるのね……。でも、私には……)
思わず俯くと、セザールが言った。
「ヘスティア様。美味しいお茶とクッキーをありがとうございました。そろそろ僕は戻りますね。まだ屋敷の仕事が残っておりますので」
そして次にセザールはサフィニアに視線を移した。
「サフィニア様、あまり長居することが出来ずに申し訳ございませんでした」
「いえ、いいのよ。セザールが忙しいことは分かっているから」
「また、近いうちに伺いますね」
セザールが席を立つと、ヘスティアも素早く席を立った。
「セザール様! 馬車でお屋敷まで送らせて下さい!」
「え? い、いえ。何もそこまでしていただかなくても大丈夫ですよ。僕のことよりりもサフィニア様をお願いします。ヘスティア嬢はサフィニア様の侍女なのですから」
困惑の表情を浮かべるセザール。
「なら、サフィニア様の許可を貰えれば良いのですね?」
「「え?」」
ヘスティアの言葉にセザールとサフィニアが同時に驚く。
「サフィニア様、本邸までセザール様をお見送りさせていただいてもよろしいですか?」
真剣な眼差しでサフィニアを見つめるヘスティア。
「そ、そうね。私は……別に構わないわよ」
特に反対する理由は無かったし、それに何よりこれからヘスティアは自分の侍女になってくれる少女なのだ。ここで反対をして、ヘスティアの反感を買いたくは無かったのだ。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
サフィニアの許可を貰い、ヘスティアの顔に満面の笑みが浮かぶ。
「いいのよ、それではセザールをお見送りしてきてくれる?」
「はい、お任せください! セザール様、それでは早速参りましょう?」
ヘスティアはセザールに駆け寄ると、自分から手を繋いでいく。
「それではサフィニア様。失礼いたします」
「ええ、またね。セザール」
寂しい気持ちを押し殺して笑顔で手を振るサフィニア。
セザールは一度会釈すると、ヘスティアと一緒にリビングを出て行った。
「……セザール……」
2人が部屋からいなくなると、途端にサフィニアの顔から笑顔が消える。今までいつもサフィニアを最優先してくれたセザール。
だけど誰よりも一番セザールの傍にいられるのは姉のセイラであり、その次に自分だった……はずだった。
改めて1人になったサフィニアは、すっかり様変わりしてしまったリビングを再度見渡す。
「……あのカーテン……ママと2人で作ったのに……。それにチェストや戸棚は……ママがペンキを塗って奇麗にしたのに……」
思わず目に涙が浮かびそうになり、サフィニアはグッと堪えた。
(ううん、泣いたら駄目よ。私が泣いたらママが悲しむって、神父さんと約束したのだから)
驚いたことにサフィニアは4年経過した今も神父との約束を守り、泣かないようにしていたのだった――
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