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第1章 6 アパートへ帰宅
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診察と治療が終わり、たっくんは外に出されて私だけが残るように男性医師に言われた。
「あの…それで私にお話と言うのは…」
向かい側に座る男性医師に尋ねた。
「あの少年は…間違いなく暴行を受けていますね。しかも長年にわたって…」
「!そう…ですか…やっぱり…」
たっくんが可哀相になってしまい、思わず俯いた。
「病院としても…このまま見過ごすわけにはいきません。なのでこちらから児童相談所に通報しておきます。この事は…出来れば卓也君には内緒にしておいた方がいいかもしれません。通報するのを反対するお子さんが中にはいますので」
「そうですよね…親にますます怒られると思って…中には通報されるのを嫌がる子供もいますよね?」
「ええ。ですので貴女の方からもこの事は秘密にしておいてください」
「はい。分りました。先生、ありがとうございました。失礼致します」
立ち上がって、お礼を述べると私は診察室を後にした―。
パタン…
扉を閉じて正面の長椅子を見ると、そこにはうつむき加減に下を向いているたっくんの姿があった。腕や足には包帯が巻かれ、顔にも傷の手当の跡が残されている。
何て酷い…。
「たっくん」
声を掛けると、たっくんは顔を上げて私を見た。
「あ…お姉さん」
「大丈夫?まだ痛むでしょう?」
たっくんの隣に座ると尋ねた。
「ううん、もう平気…」
「そんな…強がりなんか言わないで。痛ければ痛いって正直に言って?」
「お姉ちゃん…」
その時…。
「上野さん、受付までお越しください」
受付から声を掛けられた。
「ごめんね、たっくん。ここで待っていてね」
そして私は窓口へ向かった―。
「お待たせ、たっくん。それじゃ帰ろう?」
椅子に座っているたっくんに声を掛けた。
「あの…。今、診察代払ったんだよね…?」
するとたっくんは私の事をじっと見つめると尋ねて来た。
「うん、そうだよ?」
「ぼ、僕…お金持ってなくて…」
「え?お金…?」
まさか…こんな子供のうちからお金の心配をしていたなんて…。
「何言ってるの?大丈夫よ。お姉ちゃんは社会人で働いてお給料貰っているんだから。そんな事気にしなくていいのよ?」
本当はお金は正直、きつかった。自費になるのは分っていたから多めに持って来たけれども、まさか1万円以上取られるとは思わなかった。それにタクシー代…これだけで今日は2万円近くお金が飛んでしまうことになる。
はぁ~…暫くはカップ麺になりそうだ…。
「お姉ちゃん…」
だけど、私の事を心配そうに見つめるたっくんの前でお金の話なんか出来っこない。
「さ、帰ろうか?たっくん」
私はたっくんに手を差し伸べた。
「うん」
たっくんと手を繋いで、私達はメディカルセンターを後にした―。
****
アパートの前にタクシーが到着し、お金を払うと私はたっくんを連れてタクシーを降りた。
「…」
たっくんは黙ってアパートを見上げている。彼の身体は…小刻みに震えていた。
「たっくん?どうしたの?」
「お、お父さん…もう家に…帰っているかも…」
「たっくん…」
たっくんの顔は真っ青になっている。きっと…部屋に戻るのが怖いんだ…。だから私はたっくんの手をギュッとつないだ。
「大丈夫、お姉ちゃんが一緒について行ってあげるから…。行こう?」
「う、うん…」
そして私はたっくんの小さな手を握りしめて、2人で一緒にアパートの階段を上って行った。
…本当は私も怖くてたまらなかった。子供の時に母親と母親が連れて来ていた男性から受けていた日常的な暴行の記憶が蘇って来る。
けれど、私はもうあの頃の自分とは決別して、25歳の立派な大人になったのだ。そして私の隣には…助けを必要としている少年がいる。
何としても…たっくんを守ってあげなくては―。
そしてたっくんの部屋の前に辿り着くと、私は静かに息を整えてインターホンを鳴らした―。
「あの…それで私にお話と言うのは…」
向かい側に座る男性医師に尋ねた。
「あの少年は…間違いなく暴行を受けていますね。しかも長年にわたって…」
「!そう…ですか…やっぱり…」
たっくんが可哀相になってしまい、思わず俯いた。
「病院としても…このまま見過ごすわけにはいきません。なのでこちらから児童相談所に通報しておきます。この事は…出来れば卓也君には内緒にしておいた方がいいかもしれません。通報するのを反対するお子さんが中にはいますので」
「そうですよね…親にますます怒られると思って…中には通報されるのを嫌がる子供もいますよね?」
「ええ。ですので貴女の方からもこの事は秘密にしておいてください」
「はい。分りました。先生、ありがとうございました。失礼致します」
立ち上がって、お礼を述べると私は診察室を後にした―。
パタン…
扉を閉じて正面の長椅子を見ると、そこにはうつむき加減に下を向いているたっくんの姿があった。腕や足には包帯が巻かれ、顔にも傷の手当の跡が残されている。
何て酷い…。
「たっくん」
声を掛けると、たっくんは顔を上げて私を見た。
「あ…お姉さん」
「大丈夫?まだ痛むでしょう?」
たっくんの隣に座ると尋ねた。
「ううん、もう平気…」
「そんな…強がりなんか言わないで。痛ければ痛いって正直に言って?」
「お姉ちゃん…」
その時…。
「上野さん、受付までお越しください」
受付から声を掛けられた。
「ごめんね、たっくん。ここで待っていてね」
そして私は窓口へ向かった―。
「お待たせ、たっくん。それじゃ帰ろう?」
椅子に座っているたっくんに声を掛けた。
「あの…。今、診察代払ったんだよね…?」
するとたっくんは私の事をじっと見つめると尋ねて来た。
「うん、そうだよ?」
「ぼ、僕…お金持ってなくて…」
「え?お金…?」
まさか…こんな子供のうちからお金の心配をしていたなんて…。
「何言ってるの?大丈夫よ。お姉ちゃんは社会人で働いてお給料貰っているんだから。そんな事気にしなくていいのよ?」
本当はお金は正直、きつかった。自費になるのは分っていたから多めに持って来たけれども、まさか1万円以上取られるとは思わなかった。それにタクシー代…これだけで今日は2万円近くお金が飛んでしまうことになる。
はぁ~…暫くはカップ麺になりそうだ…。
「お姉ちゃん…」
だけど、私の事を心配そうに見つめるたっくんの前でお金の話なんか出来っこない。
「さ、帰ろうか?たっくん」
私はたっくんに手を差し伸べた。
「うん」
たっくんと手を繋いで、私達はメディカルセンターを後にした―。
****
アパートの前にタクシーが到着し、お金を払うと私はたっくんを連れてタクシーを降りた。
「…」
たっくんは黙ってアパートを見上げている。彼の身体は…小刻みに震えていた。
「たっくん?どうしたの?」
「お、お父さん…もう家に…帰っているかも…」
「たっくん…」
たっくんの顔は真っ青になっている。きっと…部屋に戻るのが怖いんだ…。だから私はたっくんの手をギュッとつないだ。
「大丈夫、お姉ちゃんが一緒について行ってあげるから…。行こう?」
「う、うん…」
そして私はたっくんの小さな手を握りしめて、2人で一緒にアパートの階段を上って行った。
…本当は私も怖くてたまらなかった。子供の時に母親と母親が連れて来ていた男性から受けていた日常的な暴行の記憶が蘇って来る。
けれど、私はもうあの頃の自分とは決別して、25歳の立派な大人になったのだ。そして私の隣には…助けを必要としている少年がいる。
何としても…たっくんを守ってあげなくては―。
そしてたっくんの部屋の前に辿り着くと、私は静かに息を整えてインターホンを鳴らした―。
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