6月9日はきっと晴れるから

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
43 / 200

第1章 43 外の誰かと…

しおりを挟む
 私とたっくんは水族館で1時間たっぷり見学して館内を出た。

「あ~面白かった」

たっくんが嬉しそうに笑っている。そんな彼を見ていると自分の心が温かくなっていく気がする。

「ねぇ、たっくん。それじゃ博物館に行こうか?たっくんは昆虫が大好きだよね?この博物館には昆虫も展示してあるんだよ?」

「本当?!僕…行きたいっ!」

「よし、それじゃ行こうか?」

そして私とたっくんは博物館へと足を向けた―。



****

「うわ~っ!すっごいっ!」

あちこち色々な昆虫の標本や展示物を見て回り…私たちはこの博物館のメインブースの温室にやってきていた。この場所は学校の体育館程の広さのドーム型の温室で、天井の高さは見上げるほど高い。おそらくマンションの3階部分位の高さに匹敵?するかもしれない。
そしてここでは熱帯地域に生息する美しい蝶や珍しい昆虫たちが植物や木々の周りを飛び回ったり、葉っぱや木の上を動き回っていた。

「あっ!あの蝶は『ユリシス』だっ!」

たっくんが青く、美しい蝶を指さすと興奮したように声を上げた。

「へ~あの綺麗な蝶は『ユリシス』って言うんだ。名前も素敵だね」

私は目の前をヒラヒラと飛んで行った青い蝶を見ながら、たっくんに尋ねた。

「うん、『ユリシス』って言う蝶はね、一度見ると、幸せになれるという伝説があるんだよ。しかも自分の身体に止まったら、もっと幸せが訪れるんだって!」

たっくんの興奮は止まらない。

「本当?それじゃ私とたっくんも幸せになれるかな?」

「うん、多分なれるよ」

ニコリと笑うたっくん。でもその笑顔は少し寂しげに見えた。

たっくん…。

私はたっくんの手を握りしめた。

「それじゃ、先に進もうか?」

「うん!」

たっくんと温室を歩きながら私は心に誓った。

大丈夫、私が…たっくんを守って幸せにしてあげるんだから―と。


****

 午後2時―

 私とたっくんはコンビニで買ったおにぎりとお茶で公園のベンチに座り、遅めのランチを食べていた。

「ねぇ、たっくん。本当にプラネタリウムには行かなくて良かったの?」

鮭おにぎりを美味しそうに食べているたっくんに尋ねた。

「うん、いいよ。時間もあまり無いし」

「そう…?」

私の予定では2人でプラネタリウムも見る予定だったのだけれども、昆虫館で思いもかけず、長い時間過ごしていたから時間が無くなってしまったのだ。

「プラネタリウムは今度お兄ちゃんと一緒に2人でデートでくればいいよ」

たっくんが笑顔で私に言う。

「え?え?デート?!」

その言葉に思わず顔が真っ赤になる。

「うん、デートしないの?お兄ちゃんと。好きなんだよね?お兄ちゃんの事」

「た、たっくん…い、いきなり何言いだすの…?」

突然の事で動揺が止まらない。

「え?違うの?」

「う、ううん…。好き、だよ…。拓也さんの事」

無邪気に聞かれ、正直に答えてしまった。

「良かった~。お兄ちゃん、お姉ちゃんと両思いだったんだ」

その言葉に仰天する。

「拓也さん…私の事何か言ってたの?」

こんな子供に何恋愛話をしているのだろうと思いつつ、つい尋ねてしまった。

「うん、お兄ちゃん言ってたよ。お姉ちゃんは初恋の人なんだって。ずーっと前から好きだったって言ってたよ?」

「え…?」

その言葉に私の身体から一気に熱が冷めていく。

初恋の人…?ずっと前から好きだった…?

どういうことなの?私と拓也さんはまだ出会ったばかりなのに…?


ひょっとすると…拓也さんは私と誰かを勘違いしているのではないだろうか―?



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...