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第2章 77 15年ぶりの2人の食卓

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「ここが彩花の部屋か…」

 玄関から上がり込むと台所を通り抜けて隣の6畳間の部屋に移動した。
部屋は畳の上にカーペットが敷かれ、右側の壁の隅にパイプベッドが置かれている。そのパイプベッドの前には電気炬燵にもなる真四角のテーブル。
左の壁の隅には小さな棚が置かれ、上にはテレビが乗っている。そして彩花は押し入れの中に衣装ケースを入れていたっけ…。

 部屋の何もかもが当たり前だけど、15年前の彩花の部屋の記憶と合致する。
懐かしさのあまり、胸に熱いものがこみ上げて来た。

その時――。

「あ、あの……本当に古くて狭いし、粗末な物しか置いてないの。恥ずかしいから…あまり見ないで欲しいかな‥…?」

エプロンをしめた彩花が恥ずかしそうに声を掛けてきた。

「あ…ご、ごめん。女性の部屋がつい、珍しくて‥‥」

当然だが、15年前には言われたことの無い台詞だった。

「え…?それじゃ、拓哉さんて…」

そこで何故か彩花は言葉を切ってしまった。

「何?どうかした?」

「う、ううん。何でもないよ。それじゃ食事の用意してくるから待っていてくれる?」

彩花は背を向けると台所へと戻ってしまった。

「俺も何か手伝おうか?」

背後から声を掛けるも、彩花はこちらを振り向くと首を振った。

「ううん、いいよ。だってタクシー代全額払って貰っているし、この食材だって拓也さんが買ってくれたじゃない。だからせめて料理位は私が作るよ。拓哉さんは休んでて?」

「ありがとう。それじゃお言葉に甘えて待たせてもらうよ」

そこで俺は床に座ると、料理をしている彩花の後姿を観察することにした。

それにしても…こうして大人になって彩花に接すると新たに感じることがある。

彩花は大人になった俺の前では本当に色々な表情を見せてくれると。
子供の中の記憶に残る彩花はいつも笑っていた。
きっとあれは俺を不安な気持ちにさせない為に、いつも彩花は笑っていてくれたのかもしれない。

そんな優しいところが…俺は大好きだったんだ―。


****

「はい、お待たせ」

彩花が出来上がった料理をお盆の上に乗せて運んできた。

「拓也さんの口にあえばいいんだけど」

照れながら彩花は俺の前に料理を並べていく。
御飯に豆腐と若芽に油揚げの味噌汁。肉じゃがにアボカドサラダ、そしてきゅうりの浅漬け。

「凄いな、どれも美味そうだ。それにこんな短時間で料理が出来るなんて凄いよ、肉じゃながんて時間がかかるのに」

すると向かい側に座った彩花が教えてくれた。

「実はね、私時短料理をする為に思いきって高圧鍋を買ったのよ。それで早く肉じゃがにも火が通るんだよ?」

「へ~‥…すごいんだな。彩花は料理が好きなんだ?」

「そういう訳じゃないけど…でも自炊した方が安上がりでしょう?それより、食べよう?温かいうちが美味しいから」

「よし、そうだな。食べよう」

「うん」

そして俺と彩花は15年ぶりに彩花の部屋で食事をした――。
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