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6-11 迎えに来た人物
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「ありがとうございました、スティーブ様」
アリアドネはエルウィンと別れると、隣を歩くスティーブに声を掛けた。
「え?何故俺にお礼を言うんだ?」
スティーブは首を傾げた。
「それは私がエルウィン様の前でリアと名乗った時に、すぐに気がついてくれたことです」
「ああ、あれか?大将にアリアドネのことが知られてしまったら大変だからな。もしバレたら越冬期間が終わり次第、あの大将のことだ。アイゼンシュタット城を追い出してしまうかもしれないからな」
半分冗談めかしてスティーブは言ったのだが、アリアドネはその言葉をまともに受け止めていた。
「追い出す…」
アリアドネはポツリと呟いた。その時、一瞬ダリウスの言葉が耳に蘇ってきた。
『越冬期間が終ったら、一緒に俺の国へ行かないか?』
(もし、そうなったら…本当に行き場が無くなってしまったら…いっそダリウスの国へ行って見るのもいいのかも…。でも…)
アリアドネは思った。
もし、ダリウスと一緒に国へ行けば、世話になってしまうことになる。そうすると惑をかけてしまうのではないだろうか…と。
アリアドネは誰にも迷惑をかけずに、これから先もず生きていきたいと考えていたのだ。
「どうしたんだ?アリアドネ」
不意にアリアドネが口を閉ざしてしまったのでスティーブが声を掛けてきた。
「あ…い、いえ。でも…エルウィン様に私がアリアドネだとバレてしまえば…やはり出ていかざるを得ないかと思いまして…」
その言葉にスティーブは焦った。アリアドネがこの城から出ていくことなど、考えてもいなかったからだ。
「えぇっ?!な、何だって?!本気でそんな事言っているのか?!大体行く宛なんかあるのか?!」
「それはこれから考えます。でも、もし出ていかなければならなくなった時はヨゼフさんにも声を掛けて、このまま城に残ることをヨゼフさんが希望すれば、その時は私1人でここを出ていこうかと思います」
スティーブはその言葉に耳を疑った。
「アリアドネ…それは…駄目だっ!」
「何が駄目なんですか?」
その時、地下通路の奥で声が響いた。その声の主は…。
「まぁ…ダリウス」
アリアドネは声を掛けた。
「ダリウス…?」
スティーブは心の中で舌打ちした。
(またあいつか…?いつもいつも俺がアリアドネと一緒にいると、どこからともなく神出鬼没に現れて…)
しかし、アリアドネはそんなスティーブの胸の内に気付くこともなく、こちらへ向かって近づいてくるダリウスに声を掛けた。
「どうしたの?ダリウス。お城と仕事場をつなぐ連絡通路までわざわざやってくるなんて」
「ああ。今朝、仕事場に行ってみればアリアドネの姿が見えないからマリアさんに尋ねたんだよ。そうしたらアリアドネはエルウィン様の礼服を選ぶ為に城に行っているって聞かされたから様子を見に行こうかと思ってここまで来たのさ」
ダリウスはアリアドネの正面に立つと言った。
「何だって?」
その言葉にスティーブの眉が険しくなる。
(領民が城の者たちに許可も得ずに城へ入ってこようとしたのか?)
通常であればそれは考えられないことだった。そこでスティーブは一言注意しようとスティーブに声を掛けた。
「おい、お前…確か、ダリウスとか言ったな?」
「はい、そうです。あ、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。こんにちは、騎士団長スティーブ様」
ダリウスはスティーブに頭を下げると続けた。
「勝手に地下通路を通り抜けて城内へ入ろうとした事、大変申し訳ございませんでした。ただ…どうしてもアリアドネが心配になってしまって、いても立ってもいられなくなってしまったのです。何しろ彼女が向かった先はこちらの城主様でしたから…つい気がかりで様子を見に行こうとしてしまったのです」
「…何だって?」
妙に意味ありげな言葉に、更にスティーブの眉が険しくなった―。
アリアドネはエルウィンと別れると、隣を歩くスティーブに声を掛けた。
「え?何故俺にお礼を言うんだ?」
スティーブは首を傾げた。
「それは私がエルウィン様の前でリアと名乗った時に、すぐに気がついてくれたことです」
「ああ、あれか?大将にアリアドネのことが知られてしまったら大変だからな。もしバレたら越冬期間が終わり次第、あの大将のことだ。アイゼンシュタット城を追い出してしまうかもしれないからな」
半分冗談めかしてスティーブは言ったのだが、アリアドネはその言葉をまともに受け止めていた。
「追い出す…」
アリアドネはポツリと呟いた。その時、一瞬ダリウスの言葉が耳に蘇ってきた。
『越冬期間が終ったら、一緒に俺の国へ行かないか?』
(もし、そうなったら…本当に行き場が無くなってしまったら…いっそダリウスの国へ行って見るのもいいのかも…。でも…)
アリアドネは思った。
もし、ダリウスと一緒に国へ行けば、世話になってしまうことになる。そうすると惑をかけてしまうのではないだろうか…と。
アリアドネは誰にも迷惑をかけずに、これから先もず生きていきたいと考えていたのだ。
「どうしたんだ?アリアドネ」
不意にアリアドネが口を閉ざしてしまったのでスティーブが声を掛けてきた。
「あ…い、いえ。でも…エルウィン様に私がアリアドネだとバレてしまえば…やはり出ていかざるを得ないかと思いまして…」
その言葉にスティーブは焦った。アリアドネがこの城から出ていくことなど、考えてもいなかったからだ。
「えぇっ?!な、何だって?!本気でそんな事言っているのか?!大体行く宛なんかあるのか?!」
「それはこれから考えます。でも、もし出ていかなければならなくなった時はヨゼフさんにも声を掛けて、このまま城に残ることをヨゼフさんが希望すれば、その時は私1人でここを出ていこうかと思います」
スティーブはその言葉に耳を疑った。
「アリアドネ…それは…駄目だっ!」
「何が駄目なんですか?」
その時、地下通路の奥で声が響いた。その声の主は…。
「まぁ…ダリウス」
アリアドネは声を掛けた。
「ダリウス…?」
スティーブは心の中で舌打ちした。
(またあいつか…?いつもいつも俺がアリアドネと一緒にいると、どこからともなく神出鬼没に現れて…)
しかし、アリアドネはそんなスティーブの胸の内に気付くこともなく、こちらへ向かって近づいてくるダリウスに声を掛けた。
「どうしたの?ダリウス。お城と仕事場をつなぐ連絡通路までわざわざやってくるなんて」
「ああ。今朝、仕事場に行ってみればアリアドネの姿が見えないからマリアさんに尋ねたんだよ。そうしたらアリアドネはエルウィン様の礼服を選ぶ為に城に行っているって聞かされたから様子を見に行こうかと思ってここまで来たのさ」
ダリウスはアリアドネの正面に立つと言った。
「何だって?」
その言葉にスティーブの眉が険しくなる。
(領民が城の者たちに許可も得ずに城へ入ってこようとしたのか?)
通常であればそれは考えられないことだった。そこでスティーブは一言注意しようとスティーブに声を掛けた。
「おい、お前…確か、ダリウスとか言ったな?」
「はい、そうです。あ、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。こんにちは、騎士団長スティーブ様」
ダリウスはスティーブに頭を下げると続けた。
「勝手に地下通路を通り抜けて城内へ入ろうとした事、大変申し訳ございませんでした。ただ…どうしてもアリアドネが心配になってしまって、いても立ってもいられなくなってしまったのです。何しろ彼女が向かった先はこちらの城主様でしたから…つい気がかりで様子を見に行こうとしてしまったのです」
「…何だって?」
妙に意味ありげな言葉に、更にスティーブの眉が険しくなった―。
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