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7-11 憂鬱なシュミットと能天気なスティーブ
「はぁ~…全く…」
エルウィンにゾーイをクビにするように命じられてダイニングルームを飛び出してきたものの、シュミットは憂鬱で仕方なかった。
「どうして私が伝えに行かなければならないのだ…」
派閥が違うエルウィンとランベールはそれぞれがあまり鉢合わせしないように城内でも離れた塔に住んでいる。そしてミカエルとウリエルの事についてはエルウィンの範疇外であり、本来であれば一切口出しはしないのが暗黙の了解となっていたからだ。
シュミットの気が重くなるのは当然のことである。
「おい、シュミットじゃないか?何処へ行くんだ?」
東塔へ向かって歩いていると不意に背後から声を掛けられた。
振り向くとそこにはスティーブがこちらへ向かって近付いてくる姿が目に入った。
「スティーブか…」
げんなりした様子のシュミットを見て追いついてきたスティーブは首を傾げた。
「どうしたんだ?朝っぱらから辛気臭い顔をして?」
「それは当然だ。たった今、憂鬱な仕事をエルウィン様に命じられたばかりなのだからな」
シュミットは歩みを止めずに語る。その後ろをついて歩きながらスティーブは尋ねてきた。
「憂鬱な仕事?一体なんだよ?それに…お前、何処に行こうとしてるんだ?ここから先はランベール達の居住空間だろう?ひょっとして…まさか東塔へ行くつもりか?」
東塔と言えばミカエルやウリエル、それにランベールの腹心達の居住空間でもあった。
「そのまさかだよ、これから私はゾーイ様にミカエル様とウリエル様の侍女はクビに決まったということを伝えに行かなければならないのだから」
シュミットはため息をついた。
「…は?ちょ、ちょっと待て。一体それはどういう意味だよ?大将がそう決めたのか?」
一瞬何のことか理解できなかったスティーブは気を取り直すと、慌ててシュミットの隣を歩く。
「実は…昨夜、ゾーイ様がエルウィン様のベッドに裸同然の姿で潜り込んでいたらしい。尤もすぐに追い払ったそうだがな」
「はぁ?何だって?!なんて命知らずなことをしたんだよ…」
スティーブもシュミット同様の考えを口にした。
「本当にお前の言う通りだ。その様な真似をしてよく無事でいられたと思うよ。実は…昨夜仕事中にオズワルドの使いからワインの差し入れがあったんだ。念の為に毒が入っていないかどうかその場で試験紙で試してみたけれども毒は混入していなかった」
「まぁ、仮に少々毒が混じっていようが大将なら平気だろう?ありとあらゆる毒の耐性は身についているのだからな」
「ああ、その通りだ。しかしエルウィン様の話ではやはりワインに何か混入されていたらしい。昨夜は体が熱くてなかなか寝ることが出来なかったと言っておられたからな」
その症状にスティーブはピンときた。
「何?体が熱くてなかなか寝られなかった…?ひょっとしてそれって…」
「ああ、恐らく…」
「「媚薬だ」」
2人は同時に答える。
「全く…よりにもよってエルウィン様に媚薬入りのワインを差し入れしてくるなんて…本当にオズワルドはあさましいやり方をするな。しかもランベール様が亡くなってすぐにだろう?」
スティーブは苦笑した。
「お前の言う通りだよ。しかし流石はエルウィン様だ。媚薬を飲まされたって正気を保っていられるのだからな」
「確かにな。しかし、そうなるとゾーイは相当赤っ恥をかかされただろうな。媚薬入りのワインを差し入れて下着姿で大将のベッドに潜り込んでおきながら、結局追い出されてしまったのだから」
「そうだ、しかもそこへ私がこれから追い打ちをかけるように侍女の任を解くことを告げに行かなければならないのだから…本当に気が重くて仕方がない。能天気なお前が羨ましい限りだよ」
しまいにシュミットは恨みがましくスティーブを見た。
「よしよし、なら俺が大切な親友の為に付き添ってやることにしよう」
「お前なぁ…」
ニコニコしながらこちらを見るスティーブにシュミットは思った。
絶対にスティーブは野次馬気分でつい来ようとしているに違いない―と。
エルウィンにゾーイをクビにするように命じられてダイニングルームを飛び出してきたものの、シュミットは憂鬱で仕方なかった。
「どうして私が伝えに行かなければならないのだ…」
派閥が違うエルウィンとランベールはそれぞれがあまり鉢合わせしないように城内でも離れた塔に住んでいる。そしてミカエルとウリエルの事についてはエルウィンの範疇外であり、本来であれば一切口出しはしないのが暗黙の了解となっていたからだ。
シュミットの気が重くなるのは当然のことである。
「おい、シュミットじゃないか?何処へ行くんだ?」
東塔へ向かって歩いていると不意に背後から声を掛けられた。
振り向くとそこにはスティーブがこちらへ向かって近付いてくる姿が目に入った。
「スティーブか…」
げんなりした様子のシュミットを見て追いついてきたスティーブは首を傾げた。
「どうしたんだ?朝っぱらから辛気臭い顔をして?」
「それは当然だ。たった今、憂鬱な仕事をエルウィン様に命じられたばかりなのだからな」
シュミットは歩みを止めずに語る。その後ろをついて歩きながらスティーブは尋ねてきた。
「憂鬱な仕事?一体なんだよ?それに…お前、何処に行こうとしてるんだ?ここから先はランベール達の居住空間だろう?ひょっとして…まさか東塔へ行くつもりか?」
東塔と言えばミカエルやウリエル、それにランベールの腹心達の居住空間でもあった。
「そのまさかだよ、これから私はゾーイ様にミカエル様とウリエル様の侍女はクビに決まったということを伝えに行かなければならないのだから」
シュミットはため息をついた。
「…は?ちょ、ちょっと待て。一体それはどういう意味だよ?大将がそう決めたのか?」
一瞬何のことか理解できなかったスティーブは気を取り直すと、慌ててシュミットの隣を歩く。
「実は…昨夜、ゾーイ様がエルウィン様のベッドに裸同然の姿で潜り込んでいたらしい。尤もすぐに追い払ったそうだがな」
「はぁ?何だって?!なんて命知らずなことをしたんだよ…」
スティーブもシュミット同様の考えを口にした。
「本当にお前の言う通りだ。その様な真似をしてよく無事でいられたと思うよ。実は…昨夜仕事中にオズワルドの使いからワインの差し入れがあったんだ。念の為に毒が入っていないかどうかその場で試験紙で試してみたけれども毒は混入していなかった」
「まぁ、仮に少々毒が混じっていようが大将なら平気だろう?ありとあらゆる毒の耐性は身についているのだからな」
「ああ、その通りだ。しかしエルウィン様の話ではやはりワインに何か混入されていたらしい。昨夜は体が熱くてなかなか寝ることが出来なかったと言っておられたからな」
その症状にスティーブはピンときた。
「何?体が熱くてなかなか寝られなかった…?ひょっとしてそれって…」
「ああ、恐らく…」
「「媚薬だ」」
2人は同時に答える。
「全く…よりにもよってエルウィン様に媚薬入りのワインを差し入れしてくるなんて…本当にオズワルドはあさましいやり方をするな。しかもランベール様が亡くなってすぐにだろう?」
スティーブは苦笑した。
「お前の言う通りだよ。しかし流石はエルウィン様だ。媚薬を飲まされたって正気を保っていられるのだからな」
「確かにな。しかし、そうなるとゾーイは相当赤っ恥をかかされただろうな。媚薬入りのワインを差し入れて下着姿で大将のベッドに潜り込んでおきながら、結局追い出されてしまったのだから」
「そうだ、しかもそこへ私がこれから追い打ちをかけるように侍女の任を解くことを告げに行かなければならないのだから…本当に気が重くて仕方がない。能天気なお前が羨ましい限りだよ」
しまいにシュミットは恨みがましくスティーブを見た。
「よしよし、なら俺が大切な親友の為に付き添ってやることにしよう」
「お前なぁ…」
ニコニコしながらこちらを見るスティーブにシュミットは思った。
絶対にスティーブは野次馬気分でつい来ようとしているに違いない―と。
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