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15-4 波乱の夜会 1
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午後6時――
夜会が開催されるのは午後7時からだった。
アリアドネの部屋では3人のメイド達が彼女の為に夜会の準備をしていた。
「よくお似合いですよ?アリアドネ様」
「本当、色白だから良く映えますね」
「金の髪に良くお似合いです」
「あ、ありがとうございます。皆さん……」
アリアドネは恥ずかしそうに3人のメイド達に礼を述べた。
大きな姿見の中にはまるで別人の姿のアリアドネが映りこんでいた。
青いドレスは胸元が目立たないよデザインで、首から袖部分は青いチュールの布で覆われている。大きなリボンは胸元からドレスの裾迄続くデザインで床に広がる裾部分は淡いブルーカラーになっていた。
緩く結い上げた金の髪から、アリアドネのほっそりとした項が見えている。
ネックレスもイヤリングも揃いの青い石が使われていた。
(本当にこれが私なのかしら……信じられないわ)
アリアドネはこのような美しいドレスを身に着けるのは生まれて初めてだった。
まさか自分の人生でドレスを着て夜会に参加する日が来るとは夢にも思っていなかったのだ。
「これなら他の殿方たちもきっとアリアドネ様の美しさに言葉を無くすでしょうね」
一人のメイドの言葉にアリアドネは首を振った。
「いいえ、そんなことにはならないと思います。第一、私は貴族女性としての嗜みを一切知りませんし……」
そしてアリアドネは自分の手を見た。
その手には青い手袋がはめられている。
「私の手は……赤切れがありますから。こんな手を他の人達にもし見られたら……」
アリアドネは寂しげに笑った。
幾ら身なりを整えても、教育を一切受けた事が無いアリアドネにとって族ばかりが集まる場には出来るだけ参加したくないのが本音だった。
けれど国王の命令に背くわけにはいかないし、何故か夜会に参加するのを渋っていたエルウィンまでもが参加意欲を顕わにしている。
(一体エルウィン様は何を考えているのかしら……)
するとアリアドネが元気のない様子に気付いたメイド達が次々に声を掛けて来た。
「大丈夫ですよ。アリアドネ様」
「そうです。手袋をとらなければいいんです」
「そんなに長い手袋なら脱げることもありませんよ」
「ありがとう、皆さん」
アリアドネがメイド達に笑みを浮かべた時――。
『アリアドネ、準備は出来たか?』
ノックの音と同時にエルウィンの声が扉越しに聞こえて来た。
「は、はい!出来ております!」
すると扉が開かれ、アイゼンシュタットの正装軍服姿のエルウィンが現れた。その背後にはマティアスもついていた。
彼はエルウィンのことが心配で無理を言って、ここまでついてきたのだ。
アリアドネの姿を一目見た途端、エルウィンは目を見開いてその場に立ち尽くしてしまった。
「あ、あの……エルウィン様……?」
(どうしよう……やっぱり私のような者には分不相応な姿だったのだわ)
自分に自信が無いアリアドネはエルウィンが無言なのはドレスが似合っていないからなのだと思い込んでいた。
けれど、実はそうではない。
エルウィンはアリアドネの美しさに見惚れて言葉を失っていただけであった。
そして、マティアスはその事実に気付いていた。
「エルウィン様。アリアドネ様に声を掛けて差し上げて下さい」
そっと耳打ちする。
「声を掛けると言われても……何と言えばいいのだ?」
焦った様子で小声で尋ねるエルウィン。
「思ったことを言えばいいのですよ。良く似合っているとか、あまりの美しさに言葉を失ってしまったとか、会場で人目を引くに違いないとか…‥色々ですよ」
マティアスがエルウィンにアドバイスした。その言葉にエルウィンは頷くと、アリアドネに声を掛けた。
「ア……アリアドネ!」
「は、はい!」
エルウィンの大きく呼びかける声にアリアドネは返事をした。
「そのドレス、良く似合っているぞ。あまりの美しさに言葉を失ってしまった。きっと会場で人目を引くに違いない……他にもその……色々だ!」
女性に対し、良い言葉の掛け方を知らないエルウィンはマティアスの言葉をそのまま伝えたのは言うまでも無かった――。
夜会が開催されるのは午後7時からだった。
アリアドネの部屋では3人のメイド達が彼女の為に夜会の準備をしていた。
「よくお似合いですよ?アリアドネ様」
「本当、色白だから良く映えますね」
「金の髪に良くお似合いです」
「あ、ありがとうございます。皆さん……」
アリアドネは恥ずかしそうに3人のメイド達に礼を述べた。
大きな姿見の中にはまるで別人の姿のアリアドネが映りこんでいた。
青いドレスは胸元が目立たないよデザインで、首から袖部分は青いチュールの布で覆われている。大きなリボンは胸元からドレスの裾迄続くデザインで床に広がる裾部分は淡いブルーカラーになっていた。
緩く結い上げた金の髪から、アリアドネのほっそりとした項が見えている。
ネックレスもイヤリングも揃いの青い石が使われていた。
(本当にこれが私なのかしら……信じられないわ)
アリアドネはこのような美しいドレスを身に着けるのは生まれて初めてだった。
まさか自分の人生でドレスを着て夜会に参加する日が来るとは夢にも思っていなかったのだ。
「これなら他の殿方たちもきっとアリアドネ様の美しさに言葉を無くすでしょうね」
一人のメイドの言葉にアリアドネは首を振った。
「いいえ、そんなことにはならないと思います。第一、私は貴族女性としての嗜みを一切知りませんし……」
そしてアリアドネは自分の手を見た。
その手には青い手袋がはめられている。
「私の手は……赤切れがありますから。こんな手を他の人達にもし見られたら……」
アリアドネは寂しげに笑った。
幾ら身なりを整えても、教育を一切受けた事が無いアリアドネにとって族ばかりが集まる場には出来るだけ参加したくないのが本音だった。
けれど国王の命令に背くわけにはいかないし、何故か夜会に参加するのを渋っていたエルウィンまでもが参加意欲を顕わにしている。
(一体エルウィン様は何を考えているのかしら……)
するとアリアドネが元気のない様子に気付いたメイド達が次々に声を掛けて来た。
「大丈夫ですよ。アリアドネ様」
「そうです。手袋をとらなければいいんです」
「そんなに長い手袋なら脱げることもありませんよ」
「ありがとう、皆さん」
アリアドネがメイド達に笑みを浮かべた時――。
『アリアドネ、準備は出来たか?』
ノックの音と同時にエルウィンの声が扉越しに聞こえて来た。
「は、はい!出来ております!」
すると扉が開かれ、アイゼンシュタットの正装軍服姿のエルウィンが現れた。その背後にはマティアスもついていた。
彼はエルウィンのことが心配で無理を言って、ここまでついてきたのだ。
アリアドネの姿を一目見た途端、エルウィンは目を見開いてその場に立ち尽くしてしまった。
「あ、あの……エルウィン様……?」
(どうしよう……やっぱり私のような者には分不相応な姿だったのだわ)
自分に自信が無いアリアドネはエルウィンが無言なのはドレスが似合っていないからなのだと思い込んでいた。
けれど、実はそうではない。
エルウィンはアリアドネの美しさに見惚れて言葉を失っていただけであった。
そして、マティアスはその事実に気付いていた。
「エルウィン様。アリアドネ様に声を掛けて差し上げて下さい」
そっと耳打ちする。
「声を掛けると言われても……何と言えばいいのだ?」
焦った様子で小声で尋ねるエルウィン。
「思ったことを言えばいいのですよ。良く似合っているとか、あまりの美しさに言葉を失ってしまったとか、会場で人目を引くに違いないとか…‥色々ですよ」
マティアスがエルウィンにアドバイスした。その言葉にエルウィンは頷くと、アリアドネに声を掛けた。
「ア……アリアドネ!」
「は、はい!」
エルウィンの大きく呼びかける声にアリアドネは返事をした。
「そのドレス、良く似合っているぞ。あまりの美しさに言葉を失ってしまった。きっと会場で人目を引くに違いない……他にもその……色々だ!」
女性に対し、良い言葉の掛け方を知らないエルウィンはマティアスの言葉をそのまま伝えたのは言うまでも無かった――。
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