身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
311 / 376

17-4 口に出せない気持ち

しおりを挟む
 その頃、アリアドネはメイド服に着替えて既にミカエルとウリエルの世話を焼いていた。


「ミカエル様、ウリエル様。おやつをお持ちしました」

 今日の授業の復習をしている2人の元へアリアドネはお茶とケーキを乗せたワゴンを運んできた。

「ありがとう、リア」
「ありがとう。うわ~美味しそう」

 早速ミカエルとウリエルはケーキを食べ始め、アリアドネは側で紅茶を注ぎながら2人の様子を見つめていた。

(フフフ……本当にお2人とも可愛らしいわ。出来ればもっと一緒にいたかったわ。だけどエルウィン様から退職金を頂いたら、ここを去らないといけないものね……)

 既にアリアドネの中ではエルウィンから貰う300万レニーという大金は退職金なのだろうと結論づけてしまっていた。

 (後、どれくらいこのお城にいられるか分からないけれども……ここを去るまでは出来るだけお2人の側にいたいわ……)


 けれど、アリアドネの願いはすぐに断たれることになる――。



****

 
 午後6時――


 アリアドネはミカエルとウリエルの食事を運ぶ為、料理の積まれたワゴンを押して廊下を歩いていた。
 その時、向かい側からエルウィンが髪を乱し、慌てた様子で駆けつけてきた。

「アリアドネッ!こんなところにいたのか?随分探したぞ!」

「エルウィン様?どうされたのですか?」

「どうしたもこうしたもあるか。まさか城に戻ってからすぐにメイドの仕事をしていたのか?」

「はい、すぐにではありませんが……」

「何故、そんな真似を。お前はもうそんなことはしなくたっていいんだぞ?」

アリアドネの何処かのんびりした口調に苛立ちを感じながらエルウィンはため息をついた。

(何しろ……お前はいずれ俺の妻に……)

けれど、エルウィンにはそんな台詞を口にすることが出来るはずも無かった。何しろ未だに自分の気持ちを告げてもいないのだ。

「余計なことをしてしまい、申し訳ございません」

エルウィンの言葉にアリアドネは慌てて頭を下げた。

一方のアリアドネは今のエルウィンの言葉を別の意味で捉えてしまったのだ。自分はもう用済みなのだと思い込んでしまったのだ。

「いや、別に謝る必要はないが……ところでそれは何だ?」

 エルウィンは扉付きのワゴンを指さした。

「はい、このワゴンにはミカエル様とウリエル様のお食事が積まれています。今から運ぶところです」

「そうか……ミカエルとウリエルの食事を運んでいるのか……。なら仕方あるまい。分かった。それなら食事を運び終えたら俺の執務室に来てくれ。大事な話がある」

「分かりました……。それでは後ほど伺います」

 アリアドネはお辞儀をすると、再びワゴンを押してミカエル達の元へ向かった。

 いよいよ自分は解雇されるのだろうという思いを胸に――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ
恋愛
メローズ王国の姫として生まれたミリアリアだったが、国王がメイドに手を出した末に誕生したこともあり、冷遇されて育った。そんなある時、テンペランス帝国から花嫁候補として王家の娘を差し出すように要求されたのだ。弱小国家であるメローズ王国が、大陸一の国力を持つテンペランス帝国に逆らえる訳もなく、国王は娘を差し出すことを決めた。 しかし、テンペランス帝国の皇帝は、銀狼と恐れられる存在だった。そんな恐ろしい男の元に可愛い娘を差し出すことに抵抗があったメローズ王国は、何かあったときの予備として手元に置いていたミリアリアを差し出すことにしたのだ。 ミリアリアは、テンペランス帝国で花嫁候補の一人として暮らすことに中、一人の騎士と出会うのだった。 これは、残酷な運命に翻弄されるミリアリアが幸せを掴むまでの物語。 本編74話 番外編15話 ※番外編は、『ジークフリートとシューニャ』以外ノリと思い付きで書いているところがあるので時系列がバラバラになっています。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

処理中です...