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「そういうことですので、どうぞお引き取りください。私は5年ぶりに休暇を取ることが出来たので、これからバケーションを楽しみに出掛けるのですから」
「な、何だって! バケーションだと!? 仕事はどうするんだよ! お前がいないと終わらないんだよ!」
ついにトビアスが情けない声を上げた。
「そんなこと知りませんよ。私はもう婚約者ではないのですから」
「だからといって、お前は5年間仕事をしてきたんだろう!? いきなり辞めるにしても、せめて引き継ぎをするのは当然だ! 勝手なことをして責任を放棄するな!」
「勝手なこと……?」
流石にその言葉は聞き捨てならない。
「な、なんだよ……」
「勝手なのはどちらですか? 全く望まない相手と無理やり婚約させられ、全く仕事をしない婚約者の変わりに無給で働かせることを勝手ではないと言うのですか?」
「そ、それは……」
「だいたい、昨日私に婚約破棄を告げたのはトビアス様です、そして私に言いましたよね? 後のことは知るものか、お前の方で勝手にしろと。だから勝手にさせていただきました。仕事を辞めることも、無給で働かされてきたことを訴えるのも」
もはや、トビアスは反論する気力すら失っているようだ。
「それよりもトビアス様、直ぐにでもお帰りになられたほうが良いですよ。仕事以外にあなたにはするべきことがあるのですから」
「す、するべきこと……一体、それって何だよ……?」
「あら? 本当に分かっていらっしゃらないのですか? 全く脳天気な方ですね。仕方ありません……脳内お花畑のトビアス様、よくお聞きください。私はトビアス様の名前で5ヶ月後に行われる予定だった結婚式の招待状を500名の方々に送っています。婚約破棄したのですから、結婚も取りやめ。その連絡を500名の方々にしてくださいね。それに式場の予約の取り消しも全て行ってください」
「何だって!! 俺にやらせようっていうのか!? そんなことはお前がやれ!」
この場に及んで、トビアスはまだ私に仕事をさせようとしている。呆れたものだ。
「はぁ……本っ当に救いようがない、バカなのですね……」
「な、何っ!? バカだと!? 今、俺をバカ呼ばわりしたな!?」
「ええ、そうですよ。バカをバカと言って何が悪いのです? 婚約破棄を勝手にしたのはトビアス様です。当然すべての責任を追うべきでしょう? 大体、一度だって私の手伝いをしてくださったことはありますか? 無いですよね!?」
「お、お前……そんなによく喋る女だったのか……?」
震えながら私を見るトビアス。
「ええ、必要とあれば喋りますよ。結婚式の招待状は全てトビアス様の名前で出してあります。あ、言っておきますが私の名前は頭文字しか記載してありませんので、招待状を受け取った方々は私を問い詰めることは出来ないでしょうね。招待状を出した中には口うるさい人々も大勢いますので、エイド伯爵家の評判を落としたくなければ、早急に結婚式の中止を知らせる手紙を出したほうが良いですよ」
「何だと! ミシェル……お前、俺をハメたのか!?」
「そんなことするはずないじゃありませんか。私はトビアス様をハメるほど暇人では無かったのですから。1人で無理ならジュリア様にも手伝って貰ったらいかがです? さっさとお帰りになって行動に移さないと間に合いませんよ?」
「ち、畜生……! お、覚えていろよ!」
トビアスは捨て台詞を言い残すと、半泣きになって応接室を飛び出していった。
「……本当にバカな男」
覚えていろよと言ったところで、恐らくもうトビアスには何も手は打てないだろう。
何しろエイド家の会社はもう終わりなのだから。
一切の仕事を手伝っていなかったトビアスは知らないだろうが、エイド家の事業は失敗し、内情は火の車だった。
伯爵は外遊だと言っていたようだが、実際は違う。金策に走り回っているのだ。
もっと早くトビアスが仕事を手伝って入れば、気付いただろうが……もう手遅れだ。
恐らく来月には、破産手続きが行われるだろう。
「本当に、エイド家と手を切って良かったわ」
ソファから立ち上がった。
明日から家族水入らずで、海辺のリゾート地にバケーションに向かうことになっているのだ。
「フフ……楽しみだわ。それに何だか新しい出会いも起きるような気がするし」
私は足取りも軽やかに、自室へと向かった。
もちろん、リゾート地に向かう準備をする為に――
<終>
「な、何だって! バケーションだと!? 仕事はどうするんだよ! お前がいないと終わらないんだよ!」
ついにトビアスが情けない声を上げた。
「そんなこと知りませんよ。私はもう婚約者ではないのですから」
「だからといって、お前は5年間仕事をしてきたんだろう!? いきなり辞めるにしても、せめて引き継ぎをするのは当然だ! 勝手なことをして責任を放棄するな!」
「勝手なこと……?」
流石にその言葉は聞き捨てならない。
「な、なんだよ……」
「勝手なのはどちらですか? 全く望まない相手と無理やり婚約させられ、全く仕事をしない婚約者の変わりに無給で働かせることを勝手ではないと言うのですか?」
「そ、それは……」
「だいたい、昨日私に婚約破棄を告げたのはトビアス様です、そして私に言いましたよね? 後のことは知るものか、お前の方で勝手にしろと。だから勝手にさせていただきました。仕事を辞めることも、無給で働かされてきたことを訴えるのも」
もはや、トビアスは反論する気力すら失っているようだ。
「それよりもトビアス様、直ぐにでもお帰りになられたほうが良いですよ。仕事以外にあなたにはするべきことがあるのですから」
「す、するべきこと……一体、それって何だよ……?」
「あら? 本当に分かっていらっしゃらないのですか? 全く脳天気な方ですね。仕方ありません……脳内お花畑のトビアス様、よくお聞きください。私はトビアス様の名前で5ヶ月後に行われる予定だった結婚式の招待状を500名の方々に送っています。婚約破棄したのですから、結婚も取りやめ。その連絡を500名の方々にしてくださいね。それに式場の予約の取り消しも全て行ってください」
「何だって!! 俺にやらせようっていうのか!? そんなことはお前がやれ!」
この場に及んで、トビアスはまだ私に仕事をさせようとしている。呆れたものだ。
「はぁ……本っ当に救いようがない、バカなのですね……」
「な、何っ!? バカだと!? 今、俺をバカ呼ばわりしたな!?」
「ええ、そうですよ。バカをバカと言って何が悪いのです? 婚約破棄を勝手にしたのはトビアス様です。当然すべての責任を追うべきでしょう? 大体、一度だって私の手伝いをしてくださったことはありますか? 無いですよね!?」
「お、お前……そんなによく喋る女だったのか……?」
震えながら私を見るトビアス。
「ええ、必要とあれば喋りますよ。結婚式の招待状は全てトビアス様の名前で出してあります。あ、言っておきますが私の名前は頭文字しか記載してありませんので、招待状を受け取った方々は私を問い詰めることは出来ないでしょうね。招待状を出した中には口うるさい人々も大勢いますので、エイド伯爵家の評判を落としたくなければ、早急に結婚式の中止を知らせる手紙を出したほうが良いですよ」
「何だと! ミシェル……お前、俺をハメたのか!?」
「そんなことするはずないじゃありませんか。私はトビアス様をハメるほど暇人では無かったのですから。1人で無理ならジュリア様にも手伝って貰ったらいかがです? さっさとお帰りになって行動に移さないと間に合いませんよ?」
「ち、畜生……! お、覚えていろよ!」
トビアスは捨て台詞を言い残すと、半泣きになって応接室を飛び出していった。
「……本当にバカな男」
覚えていろよと言ったところで、恐らくもうトビアスには何も手は打てないだろう。
何しろエイド家の会社はもう終わりなのだから。
一切の仕事を手伝っていなかったトビアスは知らないだろうが、エイド家の事業は失敗し、内情は火の車だった。
伯爵は外遊だと言っていたようだが、実際は違う。金策に走り回っているのだ。
もっと早くトビアスが仕事を手伝って入れば、気付いただろうが……もう手遅れだ。
恐らく来月には、破産手続きが行われるだろう。
「本当に、エイド家と手を切って良かったわ」
ソファから立ち上がった。
明日から家族水入らずで、海辺のリゾート地にバケーションに向かうことになっているのだ。
「フフ……楽しみだわ。それに何だか新しい出会いも起きるような気がするし」
私は足取りも軽やかに、自室へと向かった。
もちろん、リゾート地に向かう準備をする為に――
<終>
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