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第12話 それぞれのエンディング <完>

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「私がアンジェリカ様のお茶会の席に呼ばれていないというのは真っ赤なウソです!本当は呼ばれていましたが、わざと私は呼ばれていないふりをしたのです。1人だけ仲間外れにされたと見せかけるためです!」

「何?そうだったのか?」

アイザックは一瞬こちらを見た。

「はい、学生食堂で追い払われたのは私が婚約者がいる男子学生たちと一緒に食事を取っていたからです。爵位の高いアンジェリカ様が女子学生たちに頼まれて、代わりに私達に注意したのです。『お相手のいる男子学生たちと食事をしに来るのは迷惑だから出ていって下さる?』と言われたからです」

 あ~。確かにゲームでそういうくだりがあった。成程、そういう裏事情があったのか。

「な、何だって?セリーヌ。君は他の男子学生達と懇意にしていたのか?」

アイザックは困惑気味でセリーヌに尋ねた。

「は、はい……そうです……」

うつむきながら返事をするセリーヌ。

 
 ソードマスターであり、この学院の生徒会長を務めるアイザックは忙しい。
特に昼休みは生徒会の仕事があるので、他の学生たちのように休む暇は無い。他の学生たちは昼休みにセリーヌが色々な男子学生たちと一緒にいる姿を目撃している。
 しかしセリーヌの相手が他ならぬ王太子であるアイザックだった為に、誰もが遠慮して告げ口をすることが出来ずにいたのだ。

「そ、それだけではありません……」

 セリーヌは他にも友人たちを巻き込んで、私から嫌がらせを受けたと言うでっちあげの話を次から次へと白状した。
 私に噴水に落とされたとか、教科書を破かれたり制服を汚された……等々の嘘を全て白状したのだ。

 それらを黙って聞いているアイザック。……一体彼は今何を考えているのだろう?

 初めはセリーヌの話を面白おかしく聞いていた他の学生たちは終いに眉をしかめ、ヒソヒソと小声でセリーヌの陰口を叩き始めた。

「何だ、悪女なのはセリーヌじゃないか?」
「いやね。色々な男子学生に手を出すなんて」
「最低な女ね……」

 バートもクレイブも私に同情の目を向けている。どうやら、もう私とセリーヌの立場は逆転したようだ。

「お願いです!アイザック様。アンジェリカ様は何も悪くありません!悪いのは全て私です!どうか罰するなら……私に罰を与えて下さい!」

 セリーヌはアイザックに頭を下げた。

 すると……。

「分かった。アンジェリカを罰するのはやめよう。家族と縁を切らせるのも、『ルーラル』に追放するのも……」

アイザックは静かに答えて私を見た。私は黙ってアイザックの話を聞いている。
そんなのは当然だ、よって彼に礼を述べる気もサラサラ無かった、

「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!それなら早速私に……」

 恐らくセリーヌは自分が私の代わりに断罪されて、『ルーラル』に追放されることを望んでいるのだろう。

 けれど、アイザックからは意外な言葉が飛び出した。

「セリーヌ、君が私をどれだけ愛してくれているか良く分かった。婚約者であるアンジェリカを陥れてでも私を手に入れたかったのだろう?」

 アイザックの目に怪しい光が灯った……ように見えたのは私だけだろうか?

「え?そ、それは……」

「安心しておくれ、セリーヌ。アンジェリカの罪は無かったことにするが、婚約は解消だ。何故なら君が私の婚約者になるのだからね。ただ……婚約者になるからには、二度と他の男と近付いたら許さないよ?」

彼の顔は笑っていたが、声は恐ろしいものだった。そしてセリーヌの肩を抱き寄せる。

「ヒッ!」

セリーヌからは小さな悲鳴が上げる。

「婚約は解消だ。いいだろう?アンジェリカ」

次にアイザックはセリーヌを抱きしめたまま、私に声を掛けてきた。

「ええ、謹んでアイザック様の婚約解消に応じます」

「え!そ、そんな!」

 怯えるセリーヌ。
 ははぁ~ん……彼女もアイザックの異変に気づいたようだ。

「よし、それでは今すぐにでもセリーヌとの婚約を発表しなければな。ここにいる皆が承認になってくれ!」

アイザックは集まった学生たち全員に声を掛けた。

『はい!』

勿論全ての学生たちは大きな声で返事をした。

 恐らく、学生たちもアイザックの私に対する傲慢な態度を目にし……彼を見る目が変わったことだろう。
 そしてセリーヌがアンジェリカを陥れようとした行為は全て白日のもとにさらけ出され、悪役令嬢はむしろセリーヌであったと気付かされた。

 彼らは皆、狂気の王子とお似合いだろうと思ったに違いない。
 もうここに用は無い。 
 青空の下、学生たちが2人の婚約を祝う歓声を背にした私は歩き始めた。

 
 そこへ――。

「どこへ行くんだい?アンジェリカ」

不意に声を掛けられ、振り向くとバートが立っていた。

「バートじゃないの。何か用?」

「あ……い、いや。どこへ行くのかと思って……まさか学院を辞めたりはしないよな?」

やはり彼は勘がいい。

「ええ、辞めるわよ?」

 はっきり言ってこの学院に……というか、ここの舞台に興味は無かった。何故なら私が次に目指す場所は決まっているのだから。

「辞めるって……これからどうするんだい?」

「そうね、とりあえず家に戻って両親から旅に出る許可を貰うわ。本来自分がいるべき場所に行きたいから」

「行きたい場所って……どこだよ?」

何故か食い下がってくるバート。

「『ルーラル』よ」

「え?『ルーラル』って……アンジェリカが追放されるはずだった村じゃないか!」

「ええ、そうよ。何もかも奪われて追いやられるのと、旅行で行くのとは訳が違うもの。それじゃ急ぐからもう行くわね!さよなら、バート!」

私は手を振ると、学院の門へ向かって走り始めた。


そう、私が次に目指すのは『ムーンライトの騎士』のセカンドディスクの世界。
新たな舞台は登場人物がガラリと変わって、次の話が始まる。

その始まりの地が『ルーラル』だ。

私はそこへ行き、実際目にすることの出来なかったゲームの世界を実体験する。

待っていてね。
次のヒーローとヒロイン。

今、作者である私があなた達の元へ向かうから――!


<完>

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