双璧の退魔師

blueblack

文字の大きさ
14 / 32
2章

嫌がらせの任務

 八柱本家で持たされた怪しげな軟膏を手の中で弄び、流華は顔をしかめる。

「……はあ」
「お姉ちゃん、どうかした?」
「なんでもないよ」 

 リビングでテレビを見ながら、ダラダラと過ごしていた。
 ずっとこうしていられれば良いのに。
 だが、そんなときに限って任務が来たりする。
 仙華の頭を撫でて、流華は携帯電話を握りしめた。

    ◇

 触手型妖魔の撃退。
 廃校になった学舎を前にして、流華は大剣を構える。
 背後では、ここまで車を回してくれた事務員がボード上の資料を読み上げていた。

「校舎は老人ホームに改築予定だそうで、損壊は厳禁だそうです」
「担当おかしくねえか。武器見たらわかるだろ」
「はい、ですがその……。八柱本家の希望で」
「あーはいはい」

 とことん癪に触る老害どもめ。
 それで私が死んだらどうするつもりだと思うが、奴らにとってはそれも狙いなのかもしれない。仙華をトップに据えれば良いと思ってる節さえある。

「やってやるよ」

 事務員に手荷物を預けて、校舎に踏み入る。

    ◇

「どこもかしこも触手だらけじゃねえか」

 感覚としてはぶよぶよの洞窟に近い。
 妖魔の核を探して、流華は奥へと進んでいく。
 流華は仙華と違って、勘とかレーダー性能はからきしだが、それならそれでやりようはあった。

「おらっ」

 軽い掛け声と共に、触手を円形に切り抜く。右上から再生されていくから、核は右上だ。そうやって進む方向を決めていく。
 行き着いた先は、校長室だった。
 半開きの扉から顔を覗かせると、触手が殺到してきた。一度引いて、今度は飛び込む。扇風機のように大剣を振り回し、迫る触手を両断した。
 行儀良く椅子に座った女型の触手群が、流暢に喋る。

「いらっしゃい。招いてないけどね」
「嫌に人間っぽいな。名前とかもあったりするのか? まあ切るけど」
「ノウ」

 短く名乗ったノウという触手の言葉を、流華は聞いてもいなかった。
 床を足の裏で押す。とん、と軽い音がして、もう流華は机の上に立っていた。横薙ぎの一閃で、ノウの首を落とす。ころん、と軽い音。
 ――軽すぎる。

「不正解」

 背後から聞こえてきた声に、素直に大剣を振り回した。これも何かには当たった。しかし、水を切ったように、反発の先に手応えを感じない。
 もう考えるのも面倒臭かった。
 ――建物ごと……っ。
 そこで止まる。
 損壊厳禁、という言葉がチラつく。
 大剣を触手が絡めとる。
 振り回してぶちぶちと触手を振り払っても、今度は足に絡みつかれる。

「ちいっ!」
「馬鹿ね」

 まっさらな平地で戦っていたら、群がる触手ごと核を一閃で仕留められていただろう。
 損壊厳禁という縛りがなければ、学舎を平地に均すことも容易い。
 だが、教室という箱の中、壁という壁を起点に八方から湧き出る触手を払い続けるのは、剛剣使いの立ち回りでは至難の技だ。
 というか、不可能だった。
 大剣の柄を固定される。鈍った四肢にも、触手がまとわりついた。挙げ句の果てに、胴と首を締め上げられ、太ももと肩口から壁に飲み込まれる。

「ぐあ……っ! 離せ! 気持ち悪い……っ!」
「退魔師の磔、一丁上がりね」
「離せ……つってんだろうが!」

 それでも流華は、力任せに飲まれた四肢を引き摺り出す。大群とはいえ、所詮は底辺の触手。膂力に全振りした流華の手にかかれば、力負けすることはない。
 そのはずだった。

「ルーカちゃん」

 聞きたくもない声が聞こえて、前を向く。反対側の壁に、同じように触手に飲み込まれた彩音が笑っていた。

「は……? おま、なにやって……っ!」
「なんてね。私は擬態が得意なの」

 力が緩んだ一瞬を、狙われた。
 細くて丈夫な触手が何本も首に絡みつく。締められる。呼吸が詰まった。奇妙な心地良さが頭に広がって、四肢の力が抜けていく。
 霞む目の前で、彩音の形をしていた触手がばらけたのを最後に、流華の意識は途絶えた。

    ◇

 目を覚ますと、当然のように服は剥ぎ取られていた。ポニーテールも解けてしまって、気持ちの悪い質感の触手に垂れている。

「……ちくしょう、が」

 最低だ。
 犬猫のように四つん這いにさせられて、肘と太ももの下は触手に飲み込まれている。動かそうとしても、びくともしない。

「無駄よ。中ではさっきと同じ細いのがぎちぎちに絡んでるもの」

 あまりにも流暢な声に、顔を上げた。

「にん、げん……?」
「馬鹿ね。ノウだって。まあ、頭良い妖魔だと思ってちょうだい」

 ノウは人差し指を立てる。指は伸びて、細い触手となり、うねって流華の白い背中で炸裂する。

「ぎ、ああああああっ!」
「前哨戦に第二位を、と思ったけど、拍子抜けだわ。あなた、弱すぎない?」
「あっ! がっ、ぐう……っ! ああっ!」

 剥き出しの背を立て続けに鞭打たれ、流華は引き締まった身体を悶えさせた。

「だ……ったら、校庭、にでも、出ろよ……っ! 平地でだったら、……お前なんか……っ」
「負け犬が何言ってんのよ。……やっぱり、痛みには耐えるのね」
「ひ……っ!」

 流華を戒めている台座の一部が、触手となって胸に絡みついた。ぐるぐると、趣味の悪いブラのように乳房を飲み込んで、絞るように弄られる。

「あ……っ! くう……っあ! ああ……っ!」
「こっちの方が良い声出すじゃない。あと、これ何かしら」
「それは……っ!」

 ノウが指でつまんでいたのは、老害どもに渡された軟膏だった。日を跨ぐ任務にも対応できるように、流華が予備として持っていたもの。
 蓋を開けて、指で弄び、ノウはすぐに用途に気付いたのか、にたりと笑った。

「案外好きものなのかしら? じゃあ、楽しませてあげないと、ね」

感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。