上 下
15 / 29
3章

3-2

しおりを挟む
「兄貴、ぜってぇ誤解されたぜ。ものすげぇ嫉妬深い夫だと思われたね。あれは」
「……どうだっていいだろう、そんなこと」

 絶対に妻に指輪を外させたくない夫。そう見えてしまうなと気づいたのはついさっきだった。
 それに、まあ。別にそう思われてもかまわない。
 助手席から窓の外を眺める。ここは確か、謝罪に帰ろうとして、カオルを見つけたあたりだ。
 ノアはぼーっとしたまま言った。

「私は、カオルが好きなのかもしれない」
「言い方が気持ち悪い。メルヘン」
「………………貴様」
「うそうそ、冗談だって。結構なことじゃねぇの。夫婦なんだから。それに、俺もちょっとびっくりしたぜ。兄貴があの指輪を即断したのは」

 煌めくダイヤモンドはカオルの髪に、青く透き通るサファイアはカオルの瞳によく似ている。

「俺は奥さんなら、兄貴の疾患を知っても一緒にいてくれそうな気がするけどなあ」
「いてくれるとかいてくれないとか、そういう話ではない」

 彼女は知らないだけなのだから。
 善良な精神を持ち、雑踏の中ですら輝くような美貌を持ち、一般的な平民並みの知能もすでに持っている。
 彼女には、少し足を踏み出すだけで手に入る幸せが山のようにある。

「あらゆる道を見せてやる。彼女が選んだ道の応援ができれば、それで十分だ」



(いやー、吞み込みが早い早い)
 ケアラは舌を巻いていた。カオルは学習を怠けるタイプではないだろう、ぐらいは思っていたが、このペースは想定外だ。
 中等教育分の内容が、早くも終わろうとしていた。
 復習にまた時間は取るだろうが、算術の問題はすでに解けるようになっていたし、王都の地図も空で言えるようになっていた。

「カオルちゃん。……すっごいよ。本当にすごい。一週間も経たずに全部終わると思う」
「あ、ありがとうございますっ。ケアラさんのご指導のおかげです。本当に、ありがとうございます……っ」

 元からの素養か、あるいは彼女の勤勉さか。
 インクでところどころが黒くなった指を合わせて、カオルはじわじわと口元を緩める。

「楽しいです。毎日が」
「うん! 良いこと良いこと! 人生楽しくないとね」

 心の底から、そう思う。
 ただその一方で、不安に思っていることもあった。
(ノアの兄貴……。ホントに早く話をしないと、とっととノルマ終わっちゃいますよ。こっちは)
 ブチ切れると真っ青になることを平気でやるくせに、こういうときはとことんじれったい。

「カオルちゃん。兄貴がらみでもそうじゃなくても、困ったことがあったらなんでも言ってね! あたしが全力で味方するから」
「ありがとうございます。……頼りに、してます。ケアラさん」

 まあ、可愛いからいいか。



(ごめんなさい、ケアラさん)
 相談して、なんてカオルにはもったいない言葉をかけてくれたのに。
(ノア様も、ルーカスさんも、ごめんなさい)
 シーツを汚してしまう。声なんて聞かせてしまったら、罪悪感で死んでしまいそう。

「ん……っ」

 カオルは、枕を抱くようなうつ伏せで、腰を浮かせていた。
 右手を小さく噛んで、左手でゆっくりと下着をなぞる。秘部の合わせ目から溢れた蜜が、べったりと指にまとわりつく。

「んう、あ……っ!」

 夜になると、どうしようもなく、身体が疼く。
 無視して寝てしまうと、決まってあの悪夢を見てしまう。声も我慢できず、夢の中で果てて、シーツまで濡らしてしまう。
 だからせめて、と。
 恥辱に頭を焼かれながらも、カオルは濡れそぼった女陰をまさぐる。

「んう、ああ……っ! あ、はああ……っ!」

 腰が震える。しばし悩んで、下着も膝まで下ろした。滴る愛液が落ちないように両手で受けて、膣口に指をうずめる。熱く蠢く秘部を虐める。

「ああ、……っ、ぅ、ん、うう、うああ……っ」

 気持ち良い。体が溶ける。揺れる腰から、一直線に脳を快楽が貫く。
(もしこれが、ノア様の、指だったら……)
 ぴっ、と陰核に指がかかった。

「あんっ! ふ、ぅううっ!」

 もじもじと、うつ伏せでお尻だけを高く上げた格好で、カオルは肉欲に焼かれ、頂点まで運ばれていく。かろうじて、声を抑えるのが精いっぱい。今指を止めたら、きっと狂ってしまう。ぐじゅ、ぐちゅ、と溢れ出る蜜の音が部屋中に響いていた。
(ノア、様……っ。ごめ、なさ……っ!)
 大胆に右手で陰唇を開き、剝き出しになった陰核を何度もくにくにといじると、閉じた瞼の内側が、白く光った。

「んぅぅああ……っ! ~~~~~~っ!」

 掛け布団の中で、むき出しの双臀が跳ね上がった。
 ぴんと足を突っ張って、カオルは絶頂に全身を震わせる。力が抜けて、果てた瞬間に締まっていた膣口から、とろとろと愛液が流れ出る。
 それらをすべて両手で受けて、しばらく震えていた。
 そして、絶頂の波が引くと、のろのろと起き上がる。

「……手を、洗わないと」

 下着を直して、淫汁に濡れた両手を隠しながら、震える足で洗面所に向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あくまで復讐の代行者

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:15

若妻はえっちに好奇心

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:272

異世界は流されるままに

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:356

わたしが嫌いな幼馴染の執着から逃げたい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,975pt お気に入り:2,767

疑う勇者 おめーらなんぞ信用できるか!

uni
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:246

あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:37

処理中です...