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希望は甘い毒のように

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 それからの一週間は、アリアにとっては無間地獄に等しかった。
 考え得る拷問のすべてを受けた。想像もしていなかった責め苦も受けた。
 ある日は土下座のまま排便を強要された。
 ある日は今までの調教動画で強請られ、みっともなく淫語を叫びながら尻を振らされ、強制的に果てさせられた。
 またある日は、条件も何もなく、ただひたすらに殴られ続け胃液を吐かされた。
 膣内への責めも頻繁に行なわれ、媚薬と他人の愛液を子宮に浴びせられて、アリアは泣き喚いて、そして絶頂した。
 そして今日も、アリアへの責めは続く。

    ◇

「浅ましく腰を振って、無様ねぇ」
「あ、あぁ……あぁあっ」

 ナスチャの言葉に顔を歪めながら、夥しい汗に濡れた体をくねらせる。
 両手首を戒められて天井から吊られているアリアは、腋下を惜しげもなく晒して前後に腰を振っていた。
 その股の間には、うねうねと女の急所を責め立てる触手が通っている。
 股縄自慰に等しい踊りに、ナスチャはけらけらと笑ってカメラの位置を調整した。

「ほら、どうしたのかしら。腰の動きが遅くなってるわよ、ハイエルフ」
「うるさ、いぃぃ、あああ、ああっ!」

 やつれて蒼ざめた顔は、一週間の恥辱の激しさを物語っていた。そしてその恥辱で、アリアの羞恥心や自制心も、容赦なく削り取られていた。
 かたかたと歯を鳴らしながら、アリアはナスチャを弱弱しく睨む。
 震えながらも、言う。

「一三回、目……イきま、すっ! イき、ますっ! あああああっ!」

 ぐぐ、と尻から腰にかけて官能的なカーブをつくり、天井を見上げてつんざくような嬌声を上げる。触手でも吸いきれなかった愛液がぽたりと石牢に落ちる。
 しかし、休みはない。
 ぐじゅぐじゅ、と熟れた果肉を刺激されて、そしてナスチャが懐中時計をこれ見よがしに提示したのを見て、アリアは再び腰を振る。

「く、んっ、ああっ! はあ……っ!」
「一分に一回。わかってるわよね」

 そのペースで果てなければ、アリアには罰を与えることにしている。
 必死に快楽を貪るアリアに、ナスチャは追い打ちをかけるように言った。

「ねえ、気になっていたのだけれど。奴隷の分際で、絶頂を報告するだけで許されるってのはちょっと甘いんじゃない」
「なに、を……はあ、あんっ、言っているの、ですか……っ!」
「『イかせていただきます』ぐらい言ってみなさいよ」
「な……っ!」

 腰振りダンスを続けたまま愕然とした表情を浮かべるアリアに噴き出して、ナスチャはぴん、と触手に振れる。
 女体を責める動きがたちまち無くなっていく。

「あ、あぁ……っ」
「そう。イきたくないのね。じゃあ休めば? 一分後に地獄を見るのはあなただけど」
「……………う、からっ」
「聞こえないわねぇ」

 迷っている暇なんてなかった。
 憤辱に全身がかあ、と熱くなる。そんなはしたないことを叫ぶ自分が信じられない。
 でも、そうしないと、また……。
 凍り付くような恐怖に突き動かされて、アリアは腰を突き出して叫んだ。

「言うからっ、もっと、責めてっ、イ、かせてぇぇええっ!」
「しょうがないわね。ほら、狂いなさい」

 途端に激しく再開した触手の責めに、アリアは薄く肉の乗った太腿を内股にして痙攣した。

「ひゃあああっ! ああああああああっ!」

 凌辱を受けているのに、肉は喜んで喜悦を頭で爆発させる。下肢はもうアリアの意思を離れていた。つま先までぴんと力が籠ったかと思えば、かくりと膝が折れて全体重が局部にかかる。
 たちまち全身を駆け巡る絶頂の予感にのたくりながら、前を向く。

「一四回、め、ぇ……っ、あ、くはあっ」

 こちらを見下ろし、嗜虐の悦に浸るナスチャの整った顔に、淫猥な言葉を差し出させられる。

「イが、せて、いただき、ます、っ! く、ひゃあ、あああっ! イくイっく、ひぐぅぅううっ!」

 もう、調教に沈んだ体は壊れきっていた。
 恥辱にまみれるほど、淫語を叫ぶほど灼熱に巻かれるようになってしまったアリアの体は、屈辱的な台詞と共に、盛大に愛液をしぶかせる。

「残念」

 ぱちん、と懐中時計を仕舞って、ナスチャは言う。

「一分三秒。三発ね」
「ひっ、……い、いや、いやっ」

 アリアの周りを漂う水が、細く、長く、まるで鞭のような形をつくってしなる。
 そして、ぶるぶると震えるアリアの尻で炸裂した。

「がっ、あああああああああっ!」

 絹を引き裂くような悲痛な音が石牢に反響して、アリアは絶叫する。

「あと二発」

 その絶叫をかき消すように、腹と背中に追加で鞭打ちを受けて、アリアは痛みに震えて顔をうつむかせる。
 漏れるうめき声は、すすり泣いているような音も混じっていて、それがナスチャの耳に心地いい。

「さあ、次の一分よ」
「やす、ま、ぜ……てっ」
「馬鹿ね。あなたに休みなんてないわよ。一生ね」

 痛みと快楽に呑まれてぐちゃぐちゃになったアリアに、ナスチャは無慈悲な口調で言った。

「次は、そうねぇ。『私は淫乱な雌豚です』にしましょうかしら」

    ◇

「へんた、いハイエ、ルフの、アリアは、ぃっ、ナスチャ、さまの責め、で……あっ、ぐぁ、みっとも、なく、イかせ、ていただ、きま、すっ、ああっ! イぐ、イっくぅぅううっ!」
「あっはは。でも残念、五秒超過ね」
「ひいっ! いああっ! ぐぎゃ、あああああああああああっ!」

 立て続けに受けたむち打ちの五発目でついに失禁して、アリアはがくりと膝を折る。
 手首に全体重がかかって刺すような痛みが走るが、体勢を戻せない。
 そのとき、ナスチャの懐から軽い電子音がした。

「はい、もしもし。ああ、ヘルディ?」
「へ、る……ディ?」
「反応するんじゃないわよ、この雌豚」
「あぐっ!」

 ぱあん、と頬を叩かれてうつむく。その間もナスチャとヘルディの会話がしばらく続く。

「明日? まあ、構わないけれど。ええ。わかったわ。……え? なんでよ。……はあ、しょうがないわねぇ。じゃあ、今夜はもっと激しくして頂戴ね」

 ため息をついて、ナスチャは無線をアリアの耳に押し付けた。

「え、あ?」
「ヘルディからだって」

 そして、久しぶりに聴くヘルディの声が、アリアのおぼろげな意識に突き刺さった。

『ハロー。こちらヘルディ。どうだい、ナスチャの責めは。僕の方がマシだったんじゃない?』

 こんなにされるならもっとちゃんと教えていてほしかった。
 最初の段階で、殺していてくれれば、こんなに汚されることもなかった。
 だいたい、無駄に余裕をひけらかす口調に腹が立つ。なんだハローって。
 どうもこうもない。最低だ。

「うぅ……っく、ずっ、うぅ」

 しかし、それらは何一つ言葉にならなかった。
 ただ、井戸の底に落とすようなすすり泣きしか返せなかった。

『あーあ。その様子だと相当やられたみたいだね。時間も限られているし、手短に行こう』

 そして、何の侮蔑もないただの問いかけが無線の向こうから飛んでくる。

『もう一度、甘い林檎が食べたいかい?』

 言われて、もう遠い昔のように感じていた夢の世界を思い出す。
 何もかもがこことは違った。
 空気は綺麗だった。開放的な景色だった。陽は明るく、風は優しく、湖で汗を流すこともできた。草笛を吹けた。ハープも弾けた。
 それに。
 飄々として憎たらしいけれど、邪気のない声をかけてくれる人も、いた。
 冷たく凍った涙腺が、熱を持つ。
 快楽責めの反動で出てくる生理現象とは違う、暖かい涙をぽろぽろと流しながら、アリアは無線に返した。

「…………は、い…………っ」
『オーケイ。眠れる時間はよく眠っているといい。そう遠くないうちに、また会おう』

 ががっ、と無線はそれきり切れた。
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