【完結】お前さえいなければ

冬馬亮

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双子

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 カーライルとシンシアが結婚して半年後、シンシアは妊娠した。

 臨月を迎えた後に生まれたのは、奇しくも双子の兄弟だった。
 カーライルは複雑な思いで生まれてきた子を見た。それはまたシンシアも同様だった。


 双子は、父親似だった。

 それは、シンシアが失意のうちに結婚させられた相手に似ているという事であり、シンシアが愛したエッカルトにもまたよく似ているという事で。


 必然、シンシアは上の子―――後から生まれた子を愛し、カーライルは下の子―――先に生まれた子を気にかけた。



「子は平等に扱え」

「あら、家督を継ぐ子の方に、より注意を向けるのは当然でございましょう? 何かと下の子を擁護する旦那さまこそおかしいのでは?」


 カーライルと婚約した時からずっと、黙って従う態度を見せていたシンシアは、双子の息子たちに関しては、カーライルの意見に異を唱えた。


 虐待まではしない、下の子にもちゃんと愛情は示しているし、無視もしない。だが明らかに扱いに差があって、シンシアが誰の姿を上の子に重ねているかは一目瞭然で、カーライルは腹立たしくて仕方ない。
 なのに、周囲もシンシアの意見に同調するのだ。上の子を―――双子の兄の方を優先させるべきだと。


 それが間違っている、とカーライルは苛立った。

 アルカン帝国以外では、どこも先に生まれた方が兄とされる。カーライルが苦労したのもそのせいなのに。


 カーライルは、議会に法改正を働きかける事にした。

 意外な事に、カーライルの意見に賛成する者たちは一定数いた。

 彼らは国外から妻を娶った、あるいは親祖父母がそうだった者たちで、場合によっては爵位継承に関わる問題に発展しかねず、外国に住む親族たちが混乱したらしい。判断基準が諸外国と同じである方が望ましいという考えだ。

 それでも過半数には足らず、法改正案は通らなかった。だがカーライルは諦めるつもりはない。繰り返し働きかけるつもりだ、悪法は撤廃すべきなのだから。


 だがこれは、カーライルが上の子に情が湧いていない訳ではない。彼もまた自分の血を引く大事な息子だ。

 そう、上の子―――カークライトだって、ちゃんと可愛い。

 だがどうしても、生まれながらに何もかも約束された人生を保証されたカークライトがズルく見えてしまう。エッカルトの姿に重なってしまう。


 ―――ナゼ、オマエダケガ。


 気がつけば、カーライルの頭の中でそんな声が囁いてくるのだ。


 そうして、表向きは仲の良い夫婦を演じながら六年。


 最近、カーライルはシンシアの変化に気づいた。


 シンシアが、下の子―――カールハインツを大切にするようになったのだ。


 いつから態度を改めたのかは分からない。きっかけとなる出来事に思い当たるものもない。

 だが、常にカークライト優先だったシンシアが、カールハインツと二人で散歩したり、お茶を飲んだりする光景をよく見かける。


 それは純粋にカーライルを喜ばせた。

 シンシアがカールハインツを気にかける様は、子どもの頃の自分が気にかけてもらえているようにも思えたからだ。


 ずっと、ずっと、エッカルトだけを見つめ続けていたシンシア。


 エッカルトと同じカルという愛称で呼ばせようが、エッカルトのような短髪にしようが、シンシアがカーライルを本当の意味で見てくれる事はなかった。


 だが、やっとシンシアはエッカルトを忘れる事が出来たと、そう思ったのだ。


 愚かだった。カーライルは何も分かっていなかった。


 物事には全て理由がある。


 シンシアが変わったのなら、そうなった理由があって当然なのに。








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