【完結】お前さえいなければ

冬馬亮

文字の大きさ
8 / 12

孤独

しおりを挟む



「いい加減、真面目に執務に取り組め。出生順の変更事案などにいつまでこだわる気だ。もっとやるべき事があるだろう」


 カーライルの父が吐き捨てるように言った。


「ですが父上。これは帝国の未来の為にも必要な・・・」

「必要ないと見なされたから、却下されたのだ。懲りもせず何度も同じ議案を提出しおって、陛下も呆れておられるわ。はあ、エッカルトならこんな馬鹿をせぬものを」

「・・・っ」


 確かに、却下された変更事案をその後も提出し続けたのはまずかったのかもしれない。だがカーライルにとっては大切な事だった。いつか帝国の未来にも貢献した筈。なのに、議会進行を妨げていると非難されるようになった。

 一定数いた賛成派も減っていき、今はカーライルだけ。議会で会っても彼らとは目すら合わない。


 ―――なんで、どうして。エッカルトはあんなに人に囲まれていた。望まれ、必要とされていた。それはあいつが跡取りで、次期公爵だったから。今は俺がそうなのに。


 エッカルトの影ではない、カーライル自身の価値、存在意義、それが遂に認められたのではなかったか。



 だがなぜか父や母は、カーライルの言動にいちいち失望の表情を浮かべる。

 シンシアは双子が生まれてから、妻としての義務は果たしたとカーライルとの閨を一切拒否した。

 双子の兄であるカークライトは、周囲から何を吹き込まれたのか、カーライルを見ると酷く怯えた顔をする。

 執事も、従者も、側近たちも、メイドも、誰もかれも、表立っては口にしないがカーライルに不満を持っているのは明らかだ。

 どうしてお前はエッカルトではないのだと、あの日スペアこそ死ぬべきだったと、視線で、態度で伝えてくる。



 ―――せっかくあいつを殺した・・・のに。


 今でも、いつまでもエッカルトの影がカーライルを追ってくる。明るくて、社交的で、人当たりが良くて、話上手で、優秀で、皆から好かれるエッカルト。


 誰も、カーライルを見てはいない。カーライルを通してエッカルトを見て、像が綺麗に重ならないと勝手に落胆する。



 ―――ああ嫌になる。こんな時、エディントンなら・・・


 ここ最近、カーライルはエディントンを度々思い出すようになっていた。


 エッカルトがいた時も、カーライルを見て、カーライルの良さを見つけて評価してくれたエディントンが、今懐かしくて堪らない。


 だが彼とは絶交した。シンシアとの婚姻式の日に。望むものを全て手に入れたとカーライルが確信した日に。

 どうしてか、あの日・・・のカーライルの罪を感じ取ってしまったエディントンは、カーライルから離れていった。


 あの後、エディントンは公爵家の新たな後継者となったカーライルとの親交を絶った事を彼の家族に詰られ、縁を切られた。

 それでも、エディントンは自力で文官試験に合格し、コツコツと実績を積み、宰相府で宰相補佐の下についた。
 宰相からの覚えも目でたく、将来性を感じた家族は復籍を望んだが、今度はエディントンの方が拒否したのだ。



 ―――前を向けよ、カーライル。


 ―――愛してくれない奴らの事なんか、気にするな。


 ―――俺はお前の方がずっと好きだぜ、人間臭くてさ。





「・・・煩い。もう今さら戻れないんだ」


 後悔したって何の役にも立たない。エッカルトは帰って来ないし、カーライルの密かな罪も消えない。





 カーライルは執務中、酒を注いだグラスを傾けつつ、書類の処理をするようになった。


 両親や妻、側近、使用人たちからの視線がいよいよ冷たくなろうとも、もはや気にもならない。


 だって、カーラエッルを脅す存在カルトはもういない。


 彼らがどれだけエッカルトを惜しもうとも恋しがろうとも、ここにはカーライルしかいない。

 彼らは、カーライルで我慢するしかないのだから。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

処理中です...