あなたの愛など要りません

冬馬亮

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ランスロットの恋

花笑み 5



私――ヴィオレッタの二年遅れのデビュタントは、つつがなくとはほど遠く、鮮明すぎる印象を残して終わった。

ファーストダンスから三曲続けてランスロットさまと踊り、休憩を挟んでハロルド義父さまと踊った。次がなんとランスロットさまの義父であるキンバリーさまで、また少し休憩して最後にジェラルド義兄さま。

最後は足が棒のようだったけれど頑張った。だって、これはあえて揃えた顔ぶれだから。

私とランスロットさまの婚約に両家の皆が賛成し、後ろ盾になっていると示すためだ。ジェラルド義兄さまとのダンス後半、何度か足がもつれそうになったものの、義兄さまのフォローで踊りきった。

結果は明白で、翌日から私宛ての手紙がたくさんトムスハット邸に届くようになった。

お茶会、ガーデンパーティー、朗読会、演奏会、晩餐会、夜会……と、様々な名を冠した集まりの招待状が、様々な貴族家から届く毎日。一週間も経てば、招待状の山が出来上がる。

派閥や序列、各家の交流関係などを考えないといけないから、選別はアンナ義母さまに任せることに。慣れた手つきで手紙を仕分けされ、すっと三通の手紙を私の前に置かれる。

「とりあえず、この三家に出席してみましょう。その後でまたちょうどいいのを選ぶことにするわ」

お義母さまが選んだのは侯爵家のお茶会と伯爵家のパーティー、そして子爵家が開催するお茶会だった。どれも義両親や婚約者の同伴が前提で、ほっと安堵しながら了承する。

その後、侯爵家と伯爵家がそれぞれトムスハットと縁のある家だったこともあり、どちらも和やかな空気のうちに終了。

最後の子爵家のお茶会は一週間後に予定されていた。




*** 



――時はヴィオレッタのデビュタントの日の夜に遡る。


「ねぇ、テオ。今日はあの女のデビュタントだったんでしょ? どうだった?」

退屈でベッドの上でごろごろしていた私――イライザは、近づく足音に気づいて体を起こす。

そして、扉が開くのと同時に声をかけた。

ここはテオの部屋で、自由に出入りできるのもテオだけだから、誰が入ってきたか確認なんてする必要がない。掃除やベッドメイキングは時間を指定して、私が朝、隣の浴室でシャワーを浴びている時にやらせている。

「あの女?」

誰のことか分かっているくせに、テオはわざとらしく首をかしげる。ものすごくイライラするけど、怒鳴ったりしない。

だって、テオは私を自分の部屋に匿ってくれてるから。

まあ、思うように外を出歩けなくて不自由だけど、食事はメイドに部屋に運ばせてるから普通に食べられるし、決めた時間に部屋も綺麗になるからそれなりに暮らせる。何より、私には他に行くところがない。

多少テオが面倒くさい性格でも、私の好みの顔じゃなくても我慢するしかないのだ。

首をかしげたまま、テオは私が何か言うのを待っている。空気を読んでさっさと説明したらいいのに。だから、私のお財布にしかなれなかったのよ。

「……テオ、分からないふりはやめてちょうだい。ヴィオレッタよ、ひとりだけいい思いをして公爵家で暮らしてる性悪のヴィオレッタ。今日がデビュタントだって、出かける時に言ってたじゃない」
「ああ、君の元妹の、今はトムスハット公爵家のご令嬢になったヴィオレッタ嬢のことか」
「ちょっと、何よ、その言い方……」
「とても綺麗だったよ」
「は?」
「婚約者のランスロット・バームガウラス公爵と衣装を揃えていたな」
「はあ?」
「公爵がルビーとサファイアを使った婚約指輪を贈ったって話だけど、僕は会場の端にいたから見えなかった」
「はああ~?」

頭にかっと血が上って、勢いよくベッドから立ち上がる。だって許せない、姉の私はこんなにひどい状況なのに。

「何よ、それ。何なのよ! ヴィオレッタは私から何もかも奪った女なの……っ! ランスロットさまだって、本当は私と婚約するはずだったのに……っ!」
「イライザ?」

クラヴァットを外していたテオの手が止まり、振り返って私を見る。顔はうっすら笑みを浮かべたまま、なのになぜか背筋がぞくりとする。

「君はまさか、まだランスロット卿に未練があるのかい?」
「や、やあね、未練なんてそんなの……ある訳ないでしょ? 離縁されて行く当てもなく困っていた私を助けてくれたのはテオだもの。テオにはとっても感謝しているわ」
「うんうん、そうだろう? そうでなくちゃね」

嬉しそうに頷いて着替えを再開するテオは、私のよく知る、いつもの間抜けな彼だ。

なのに、なぜかさっき見た歪な笑みが頭から離れず、心にじわりと不安が広がる。

私は機嫌を取るようにテオの背中側に回り、彼が脱いだシャツを受け取っていた。

「ありがとう、気が利くね」
「ふふ、私はテオの専属メイドでしょ?」
「僕の専属……ははっ、確かに」

私が着ているのはメイド服だ。今日に限ったことではなく、テオが私をこの部屋に連れてきた初日からずっとメイド服だ。

私の素性を隠すのと、誰かに見られた時にメイドと勘違いさせるためだと言っていたけど、徹底しすぎて毎日メイド服しか渡されないから、正直うんざりしている。

他に匿ってくれる人がいれば、テオの頬を打ってさっさと出てってやるのに。

――ぞわり。

「……っ!」

また急に悪寒が走り、思わず身を縮こめて両腕をさする。

――嫌だわ、もしかしたら体調を崩したのかしら。

「……イライザ」
「っ、な、なあに、テオ?」
「メイド服ばっかりなのは仕方ないんだよ。君が見つかったら大騒ぎになってしまうから」
「……分かってるわ。テオはこの家の当主でも後継でもないから、私を助けたくても他の人たちに言うことを聞かせられないんでしょ? それなら仕方ないわよ」
「……まあ、そうだね」

私がせっかく慰めてあげたのに返事がそれだけなんて。本当に気の利かない男ね。ここは感動して喜ぶところでしょうに。ああ、イライラする。

でも今は我慢よ。私はこれから、この男を利用して貴族に返り咲くんだから。

「……ねえ? テオ」

テオの背に寄り添うように立ち、後ろからぎゅっと抱きついて名前を呼ぶ。

テオは私が大好きだから、こうしてやれば機嫌がよくなって大抵のお願いは聞いてくれる。

「頼んでたは手に入った?」


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