14 / 110
便利ですよ
しおりを挟む「私を嫌いになっても、離してなんかあげられないよ。だって番なんだから」
・・・ん?
「ヘレナも知ってるでしょ? 番同士は離れて生きられないんだ」
あの、ユスターシュさま、ちょっと待って。
何となくの確認で、ヘレナは心の中でそう呟いてみた。きっと返事をくれそうな気がしたから。
「・・・なに? もしかして話を聞きたくないとか?」
え、いや、あのですね。
「・・・うん」
どうしてこんな深刻な雰囲気になってるのか、不思議に思いまして。
「・・・うん?」
そして、なぜ私がユスターシュさまと離れるとか離れないとか、離さないとかの話になってるんでしょうか?
「・・・んんん?」
ユスターシュの腕がするりと解け、ヘレナの視界が広がる。
見上げると、ユスターシュもヘレナを見つめていた。眉尻をぐぐっと下げて。
その表情が、年上なのに何だか可愛いな、なんて思っていると。
「・・・」
無言。けれどユスターシュは少しムッとした顔をする。
可愛いって、褒め言葉ですよ?
「・・・男にはそうじゃない・・・って、違うでしょ。なんで平気な顔してるの?」
「・・・はい?」
うっかりと声が出た。
しまった、せっかく楽してたのに。
「楽って・・・ヘレナ、ちょっと反応おかしくない?」
「そうですか?」
「だって、ヘレナももう分かってるでしょ? 私はあなたの心の声が聞こえるんだよ? 普通、嫌がらない?」
ヘレナは首を傾げる。
まるで、何を言ってるのか分からないという風に。
そして実際、ヘレナはこう返したのだ。
どうして嫌がるんですか? と。
もちろん、心の中で。
それから、ああ、と手を叩く。
なるほど確かに。
私の変な想像を見せられたら嫌になるかも。
「・・・っ、いや、あなたの想像はいつもとても面白くて、嫌がるのは私よりも寧ろ、心を覗かれた方で。つまり、あなたが」
私? 勿論、驚きましたけど。
その言葉に、分かりやすくユスターシュの眼が揺れる。
でも、私の心を覗いて、どんな馬鹿な妄想をしてるか分かっても、それでも好きだと言って下さったんでしょう?
「・・・っ」
なら、この先に嫌われる心配をしなくて済みそうで良かったです。
「・・・そんな風に、思うんだ」
あ、それに便利ですし。
「・・・便利?」
まるで珍しい生き物を発見したかの様に、ユスターシュはヘレナを凝視する。ヘレナは、何となく対抗する様に見つめ返した。
すると何故か、ユスターシュが赤面して顔を逸らす。
「・・・そんな風に見つめないで・・・いや、今はそんな事を言ってる場合じゃ・・・でも・・・はぁ、便利か。便利なのか、この力は」
例えば、私が海で遭難してもユスターシュさまなら見つけて貰えるんですよ。きっと、私が欲しがってた飲み物とか食べ物とかまでピンポイントで用意して。
ガッツポーズ付きで熱弁する。
「・・・」
あ、でも心の声が届かなかった場合、干からびて死んでしまいますね。どこまでなら離れてても聞こえますか?
「・・・そこが気になるんだ?」
生死に関わる事ですよ?
通じてるつもりが聞こえてなかったりしたら、私は海に漂うイカダの上でひとり寂しく死んじゃうんですから。
「・・・イカダに乗って海で遭難って、滅多にないと思うけど」
まあ、それはそうかもしれませんが。
ヘレナはうーんと首を傾げる。
でもですね、コミュニケーションは大事です。
ユスターシュさまに通じてると思って、実はそうでなかったとか、誤解の元です。
夫婦喧嘩って、コミュニケーション不足か誤解から始まることが多いんですって。
「夫婦、げんか」
ユスターシュがぽつりと溢す。
「夫婦喧嘩か・・・そうか」
そうして、ひとり頷いた。
「ヘレナは、この力を知っても私と夫婦になると・・・そう言ってくれるんだね」
その言葉に、今度はヘレナの方が目を丸くする。
当たり前です。だって私たちは番じゃないですか。
「番、そうか。ああ、うん、そうだよね。私がそう言ったのに・・・はは」
何故か泣き笑いの表情を浮かべたユスターシュは、けれど姿勢を正し、真正面からヘレナを見る。
「ありがとう。ヘレナは、いつも私の予想の斜め上を行くね。本当に得難い人だよ」
・・・褒めてます?
ユスターシュは、こくりと頷いた。
「大真面目に褒めてる。だって私は・・・5歳で裁定者の力を発現してから、いろんな人の心を覗いて来たからね。随分と嫌なものを見てきたんだよ」
ヘレナはうん?と首を傾げた。
・・・5歳?
「裁定者の秘密を教えてあげるって言ったでしょ?」
ああ、そうそう、そうでした。話が随分と逸れてしまったから、もう無しになったかと。
「・・・逸れたのは、主にヘレナのせいだから。まあいいや、ええとそうだな。実は私は、5歳まで銀髪銀眼で」
はい?
「その年までは、普通にただの王族だったんだよ」
・・・普通にただの王族。
いや、今はそのワードに反応している場合ではない。
つまり、5歳の時に銀髪銀眼から灰色の髪と眼に変わった、と。
「そういうこと。色の変化はまあ徐々にだったけど、能力の方は・・・割と突然だったな」
そう言うと、ユスターシュはどこか遠い目をした。
先ほどの反応からして、きっとその能力でたくさん嫌な思いをしたのだろうか。
「まあ、そうだね。実際、この能力が発現したのは、そういう嫌なことを知る為だったんだから」
109
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
【完結】レイハート公爵夫人の時戻し
風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。
そんな母が私宛に残していたものがあった。
青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。
一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。
父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。
十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。
けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。
殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる