【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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私はマタタビ

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ジュストは、カツラを被っていた。そして、その下の頭皮は涼しくなかった。

カツラを外したジュストは、何故かユスターシュの顔をしていた。

つまり、ジュストはユスターシュだった。


・・・では、もしやユスターシュのこの髪も・・・?


「え、なに、ちょっと今、なに考えた?」


慌てるユスターシュにヘレナは手を伸ばし、くいっと灰色の髪を引っ張る。だがそれは頭から落ちなかった。


「・・・抜けない・・・」

「当たり前でしょ」


呆けたように呟くヘレナに、ユスターシュは何故か誇らしげにそう答える。


「ではこちらは・・・本物の髪の毛なのですね」

「そう。これはちゃんと私の髪だからね」

「灰色は・・・裁定者の色ですものね。灰色の髪と灰色の眼の二つが」

「そうだね。今は、世界で私だけが持つ、裁定者の証の色だ」


ユスターシュは、茶髪のカツラと眼鏡をそれぞれの手に持ち、くるくると回しながら安堵した様に息を吐いた。


「あ~、やっと言えた。証拠を見せてからじゃないと、絶対に変な勘違いをされると思ってたんだ。でもまさか、証拠を見せてもあんな事を言い出すなんてさ」


そう言いながらも、さっきからユスターシュはずっと楽しそうだ。口元は緩み、目にはうっすらと涙まで浮かべている。

どうしてそんなに楽し気なのか、もしやこれが番の効果というものか。
側に居るだけで気分が良くなるみたいな、そんな番限定のマタタビ効果があるのかも。


そこで、ヘレナは納得した。


そうか、私はマタタビなのだ。


ヘレナは、前に図鑑で見たマタタビの木を思い浮かべた。
枝になるマタタビの実にまじって、ヘレナが枝にぶら下がっている。その下で、ユスターシュが手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねるのだ。


「ははっ」


刹那、笑い声と共に、ヘレナの視界が遮られる。
ユスターシュが腕を伸ばし、ヘレナの身体を抱き込んだのだ。


身体全体で感じるユスターシュの温もりに、一瞬でヘレナの頭の中は真っ白になる。


「そうか。ヘレナは私専用のマタタビなんだね。だからあなたと居ると、こんなに楽しい気分になるのか。ふふっ、納得したよ」

「・・・? ユスターシュさま?」


ユスターシュの腕の中にいるせいで、彼の顔は見えない。いや、今は恥ずかしくて顔なんて見られないから、これはこれで丁度良いのかもしれないけれども。

ユスターシュの胸は、思っていたよりも広くて逞しかった。優しく、だがそれでも固く抱きしめられて、ヘレナの胸の鼓動はいよいよ激しくなる。
だというのに、何故か安心してしまうのだ。


「恥ずかしい、ドキドキする、でも安心する、か・・・それって、私は期待して良いってことかな・・・?」

「・・・っ」


・・・あれ?

マタタビのことも、ドキドキしてることも、抱きしめられて何故か安心したことも・・・

私、口に出してたっけ?


「・・・やっと気づいた?」

「ユスターシュ、さま?」

「2年半一緒にいて、ずっと気づかないんだもんな。気が抜けるって言うか、逆に心配になるって言うか」


・・・それは、どういう事でしょう。

もしかして、いえ、まさか。


瞬間、ヘレナを抱く腕に力がこもる。


「・・・ヘレナ、私の番。私はあなたのことが大好きだよ」

「ユスターシュさま・・・?」


乞うような声に、何故か胸が痛くなる。


「・・・ねえ、ヘレナ。あなたに裁定者の秘密を教えてあげる」


囁くような小さな声で、ユスターシュはそう言った。


秘密・・・?


「そうだよ。裁定者が裁定者たる理由を教えてあげる」


ヘレナの心の呟きに、そのままユスターシュが答える。けれど、もうヘレナはそれに疑問を抱かなかった。


「話を聞いたら、ヘレナは私のことを嫌いになるのかな・・・」


それでも、ユスターシュの声は少し震えていたけれど。


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