【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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頭部が涼しい疑惑

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ジュスト・・・?


挨拶が出来なかったと思っていたら、まさかのここ?

と、その時ヘレナは閃く。


ヘルプとはいえ、ジュストも図書館職員の一人だ、という事は。

亡国の王子ユスターシュと彼の愉快な同士たちのひとりの筈。なるほど、だからここに居るのか。

・・・などという訳はない。あれはあくまでも自分のくだらない想像の中での話だ。では、どうして。


「ええと、ヘレナ。あのね、君に話があるんだ」


いつもは緩く上がっているジュストの口角が、珍しくきつく引き結ばれている。何だか雰囲気が固い。


あら、でもこの声・・・


と、逸れかけた意識が、ジュストの声で引き戻される。


「ヘレナ。まずは、これをしっかり見てほしい」


ジュストはおもむろに自分の髪を掴むと、そのまま勢いよく引っ張った。


「え、そんな事をしたら髪が抜け・・・」


あ。

本当に抜けた。

ごっそり、すっぽり、髪が丸ごと抜けた。
ずるりと、大きな塊のまま。


ヘレナの目はジュストの右手に釘づけになった。そこには、先ほどまでジュストの頭にあった筈の茶色の髪の塊が、もっさりと掴まれている。


こ、これは・・・まさかの、カツラ・・・?

では、ジュ、ジュストは・・・


「うん。そうなんだ、ヘレナ」


ヘレナは震える手を口に当てた。


ジュストの手にカツラがあるということは、今のジュストの頭はどんな状態なのか、想像に難くない。



なんてことだ。知らなかった。

ジュストは、頭部が涼しい人だったのだ。


「・・・え? なんでそうなる?」


慌てたような声が聞こえた。


だが、ヘレナは固く目を瞑り、首を左右に振る。


大丈夫。

カツラだろうと地毛だろうと、私は態度を変えたりしない。
あなたの穏やかな内面が好きだったのだ。外見は関係ない。


どんな意図で、ジュストが自分の目の前でカツラを取ったのかは分からない。
けれど、普段わざわざカツラを着けていたくらいだ、本当は見せたくなかったのだろう。


だから、ヘレナは目を瞑ったままでいる。
これは、大事な秘密を明かしてくれたジュストへの友情の証だ。

どんな時も、どんな姿でも、ジュストが大事な友だちである事は変わらない。

そう、彼のカツラが取れてしまった時でも。


「あのね、ヘレナ。そうじゃないんだ」


それに、頭部が涼しいのは一つの個性だとお父さまが仰っていた。
そう、お父さまもあのままでとっても素敵な人なのだから。

だからジュストだってきっと。

ジュストなら、どんな頭部でも素敵に違いない。


「う~ん。どんな私でも素敵だと言ってもらえたのは嬉しいんだけどね。それは出来たら、本当の私の時に言ってもらいたいな」

「・・・はい?」


本当の私って・・・あれ?


目を瞑った状態のまま声を聞いて、あることに気づく。


ジュストの筈の声が、いや、確かにジュストの声なのだが。


なんだか、すごく良く、似てる・・・?


「似てるというより本人だ。私だよ、ユスターシュだ。ヘレナ」

「・・・え?」


驚いて、思わず開けそうになった瞼に、ぎゅっと力を込める。


大事なことだ。見る前に、言わなくては。


「・・・では、涼しいのは、ユスターシュさまの頭部だったのですね? 大丈夫です、私は・・・」

「・・・何でそうなるの」


コツコツと近づく足音が、聞こえる。

その音はヘレナの前でぴたりと止まると、今度は両頬を温かいぬくもりが覆う。


「ええと、今私に触れているのは、ユスターシュ、さま? なんですよね?」


ヘレナはおずおずと口を開く。

なんとなく、理由も分からないまま、けれど縫い止められたかの様に、目を開けられずにいる。


「そうだよ、ユスターシュだ。ほら、目を開けて?」

「ジュストじゃなくて、ユスターシュさま。ええとそれは、どういう」

「いや、だからそれを説明しようと思ってこの格好にしたんだけど。証拠があった方が分かりやすいと思って」

「証拠」

「でも、ヘレナの発想は、いつも私の予想の斜め上を行くから」


ふ、という笑い声と同時に、ヘレナの両頬がむにむにとつままれる。
どうやらこの温かいぬくもりは、ユスターシュの手のようだ。


なんだか嬉しくて、くすぐったくて、ふふ、とヘレナも笑った。


「ヘレナ? そろそろ目を開けてくれないかな?」

「あ・・・すみません。なんだか目を開けちゃいけない様な気がして、つい」

「仕方のない子だね。ヘレナは、婚約者の前で目を閉じる意味を知らないのかな」


頬に触れている手が、彼の指が、するりと動いて瞼を撫でる。


「意味、ですか?」

「そうだよ。ほら、いい加減に開けてくれないと、口づけてしまうよ?」

「・・・え? えええ? え?」


意味って・・・意味って、そういう意味?


慌てて音がしそうなくらいに勢いよく目を開けると、目の前でユスターシュが楽しそうに笑っていた。


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