【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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例のロクタン

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「とうとう私は妖精王にまでなってしまったか」


王城へと向かう馬車の中、流れる景色に目を遣りながら、ユスターシュは誰とはなしに呟いた。
その口元は嬉しそうに弧を描いている。


亡国の王子さまになったり、ヘレナの代わりに花嫁衣装を着せられたり、マタタビに飛びつく猫もどきになってみたり。


ヘレナの頭の中では、ユスターシュは変幻自在の七変化だ。


「・・・ああ、でもあれはちょっと、なんであんな事になったのか聞きたかったな」


ユスターシュが思い浮かべたのは、昨夜帰った時にヘレナの頭に浮かんでいた映像。そして今朝、出発時に再び浮かび上がったものだ。


「まさか、本当にあんな感じで仕事してるとか思われてないよね・・・」


そんな不安を覚えてしまうような想像とは、もちろん例の高笑いである。


椅子の上に立ち、机の端に片足を乗せ、「わーっはっはっ!」と高笑いをしながら、処理済みの書類を吹雪のように撒き散らす。
そしてなぜか「もっと私に仕事を寄越せぇ!」などと叫んでいるのだ。


あれはあれだろうか。仕事ばっかりしてて寂しい、悔しいとかいう気持ちの裏返しなのだろうか。それとも本当に仕事好きで家にも帰って来ない男だと思われたのだろうか。
前者だったら嬉しいが、後者だったら全くの冤罪だ。


だって、昨日は仕方なかったのだ。本当はもっと早く帰れたのに、ユスターシュとしては帰りたかったのに、とある事情・・・・・で帰れなくなってしまった。


「・・・はぁ」


ユスターシュは溜息を吐く。


きっと、今日もアレが来るだろう。

まあ、ヘレナ情報によるとアレは早起きが出来なくて午前中いっぱいは寝てるみたいだから、今日もまた来るとしても、やっぱり午後からになるんだろうけど。


「確かにアレは強烈だ・・・と言うか、思考回路が意味不明すぎてよく分からない」


心の声が聞こえて、それで尚且つ意味不明と言うのはなかなかに珍種だと思う。


図書館でジュストとして働いていた時に、少しは分かっていたつもりだったのだ。

なにせヘレナの心の中は、アレに対する不安や落胆、それから文句とかでいっぱいだったから。
何度も何度も聞いたし、映像を見てもいた。


「けどやっぱり、自分で体験してみるとさらにその凄さが増すと言うか」


王城に近づくにつれ、ユスターシュはちょっぴり憂鬱になる。はっきり言って面倒なのだ。アレと対峙するのが。


「・・・あんなに大らかなヘレナが嫌がる相手だから、まあよっぽどだとは分かっていたけど」


3日。

3日で良いから屋敷から出ないでとお願いした。

けどきっと、アレは3日やそこらじゃ諦めないだろう。


「でも、アレ対策に頼んだやつ。急がせてるけど3日じゃ無理かな」


少なくとも、ヘレナが平穏に安全にお出かけ出来るようにしてあげないと。


望んで、望んで、欲しくて堪らなくて。
けれど自分なんかが手を伸ばしてはいけないと堪えて。
それでもやっと思い切って、嘘まで吐いて手に入れた子。


・・・今さら手放すものか。


ガタン、という音と共に、ユスターシュの乗った馬車が馬車停まりに止まる。


御者が扉を開け、ユスターシュが降りると、空を見上げて息を一つ吐く。


気を引き締めないとね。


きっとまた、午後からは仕事にならない。
午前のうちに全部片付けて。


そしたら午後はアレと対決だ。


アレ。


それは、『王命』も『裁定者』も、そんな最大権力ワードなど何のそのの相手。


そう、例のロクタンである。


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