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それは却下で
しおりを挟む最近はいつも疲れた顔で帰って来るユスターシュが、今日はとても嬉しそうに見えたのは、どうやら気のせいではなかったらしい。
「結婚式の日どりが決まったんだ」
馬車から降りてヘレナの顔を見るなり、ユスターシュはそう言った。
裁定者ユスターシュとその番ヘレナの婚約は、既に国内各地にお布れの使者が送られ、津々浦々に知れ渡っている。
歴史上初の裁定者の結婚という事で、早くもあちこちでお祭りムードらしい。
ユスターシュにも、ヘレナにも全く縁もゆかりもない場所で、『番まんじゅう』だの『番ドーナツ』だの、果ては『裁定者のつるぎ』などと称した房飾りの付いた木刀が売り出されているそうなのだ。
「・・・まあ、お祝い気分でやってるんだろうし、我が国の経済効果的には何の文句もないんだけどね」
どうやら自分の知らないところで、いつの間にか客寄せパンダになっていた様だ。
しかし、番まんじゅうに番ドーナツとは。
何という身も蓋もないネーミングだろう。
思いっきりまんまの名前ではないか。
もうちょっと捻りの効いた商品名にしなくて良かったのだろうか、とヘレナは他人事(?)ながら心配になる。
「まあ、分かりやすくて良いんじゃないかな」
では、お味はどうなのだろうか。
あまりお金の余裕がなくて食べられなかったが、実は甘味はヘレナの大好物だ。
ちょっと興味がある。
「・・・食べてみたいの?」
至極冷静な声で聞かれ、ヘレナはハッと我に帰る。
「いえ、ちょっと不思議に思っただけです。ほら、『番』なんて名前を商品に付ける訳ですから、他の普通のおまんじゅうやドーナツと、どう違うのかな~なんて」
「うん、なるほど。食べてみたいんだね」
「う・・・はい、マアソウデス」
ユスターシュ相手に当たり前だが誤魔化しが効く筈もなく、ヘレナは恥ずかしそうに頷いた。
「・・・取り寄せてあげようか?」
「え?」
「二つともちょっと王都からは離れた領地で売り出してるからね。気軽に買いに行こうとは言えないんだ。でもお取り寄せは出来るよ」
やはりユスターシュはヘレナに甘い。
すぐにそんな甘い提案をしてくれた。
「じゃ、じゃあ、お願いしても良いですか? 実は、番まんじゅうも、番ドーナツもどんなお味なのか興味があるのです」
「分かったよ。じゃあ、連絡しておこう。むしろ向こうも喜ぶんじゃないかな。本人から注文があったなんて、良い話題になるからね」
「まあ、本当ですか? それなら、あの、ユスターシュさま」
国の経済効果に更に貢献するとなれば、ヘレナの気も大きくなる。そして、絶対にあの子たちはアレを気にいる筈なのだ。
「え、あの子たちって」
「はい、あの子たちです。実家の、生意気盛りの腕白小僧たちに」
「・・・アレを?」
「はい。アレを、『裁定者のつるぎ』という名前の木刀を、ぜひとも」
「・・・」
だって、元気な男の子たちなのだ。
今までだって、落ちてる枝を見つければいつも振り回していた。
木刀なんてあげたら大喜び間違いなしなのである。
「・・・本当にいいの?」
「もちろんです!」
「普通の木刀じゃないよ? 私たちの結婚記念品だよ?」
「・・・? それが何か?」
何故か念を押す様に聞いてくるユスターシュに、ヘレナは不思議そうに首を傾げる。
「刀身の部分に、私とあなたの似顔絵が焼き付けられている・・・と聞いたけど」
「・・・は、はい? 私と、ユスターシュさまの・・・似顔絵・・・?」
「うん。それもけっこう大きくバーンと」
「大きくバーンと・・・」
「そう。打ち合いとかに使う用ではなく、装飾品として作ったみたいだよ」
「な・・・な、な・・・」
それまでヘレナの頭に浮かんでいた、木刀を振り回してチャンバラ遊びをする弟たちの姿がサラサラと消えて行く。
そして、ヘレナとユスターシュの似顔絵を焼き付けた木刀を棚に飾り、正座をしてそれを見上げる弟たちが見えた気がした。
・・・駄目、絶対にダメだ。
「で、どうする? 私たちの似顔絵付きの『裁定者のつるぎ』。これも注文しておこうか?」
「・・・っ! い、いえ、それは却下で、ナシでお願いします・・・っ」
「分かった。じゃあ、おまんじゅうとドーナツだけね」
「はい。それでよろしくお願いします・・・っ」
こうして、弟たちへのプレゼント話は、彼らの知らぬ間に、あっという間に闇に消え去ったのだった。
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