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子猫の恩返し
しおりを挟む『子猫の恩返し』 ヘレナ・レウエル作
昔むかし、貧しくも心の優しい少女がおりました。
ある雨の降る午後、少女は子猫を拾いました。可哀想に、雨に濡れてミウミウと小さな声で鳴いていたのです。
よほどお腹が空いていたのでしょう。その子猫は、皿に注いだミルクをあっという間に飲んでしまいました。
雨に濡れて薄汚れていた毛並みも、お風呂で洗ってピッカピカです。温かい毛布にくるまり、子猫は幸せそうにミャウと鳴きました。
その日の夜、子猫は少女の枕元で眠りました。ですが、朝になると子猫はどこにもおらず、枕元には袋いっぱいの煮干しが・・・
子猫と思ったのは実は聖獣の子どもでした。
子どもを保護し、世話をした事へのお礼に、迎えに来た親聖獣が置いていったのです。
それからその少女の元には毎朝毎朝、袋いっぱいの煮干しが届けられる様になりました。
少女は一生、煮干しに困らない生活を送りましたとさ。
「・・・うん、まぁ良いお話? なんじゃないかな」
「・・・っ、ありがとうございます。褒めてもらえて嬉しいです」
本日、ユスターシュは帰宅するなりヘレナ渾身の絵本を手渡された。そして今、それを読み終わったところだ。
「なんで聖獣なのにお礼が煮干しなの、とか、見た目がまんま猫だよね、とか、突っ込みたいところは、まあ色々あるけどね」
なんと、わざわざ挿し絵まで描いて文章に添える程の力の入れようである。ヘレナの願いの強さが知れるというもの。
「やっぱり猫の姿をした聖獣は、違和感がありましたか?」
「いや、違和感と言うか、絵がそのまんま猫だったから。だったら最初から猫でも良かったんじゃないかな~って」
「ああ、なるほど。そうですね、言われてみればその通りです。この子を飼うのを是非とも認めて貰おうと思ったら、つい必死になって色々と付け足してしまって」
「うん、そうみたいだね。でも大丈夫、意気込みは十分に伝わったよ」
ユスターシュの言葉に、ヘレナは嬉しそうに頷いた。
ユスターシュは手元の絵本に目を落とす。
頑張ってこの絵本を作ったのは分かる。ヘレナ渾身の力作なのだろう。
それは分かるけど、しかしこれはアピールする方向が間違ってはいないだろうか。
いくら拾った子猫を飼いたいと思ったからって、ねえ。
ひと言頼めばそれで済むものを、物語を書いて、絵まで描いて、きっと随分と時間がかかったろうに。
まぁ面白いから、わざわざ止めたりはしないけれど。
ヘレナの視線の先、ミルクを飲んで今はすやすやとカゴの中で眠っている可愛い子猫に、ユスターシュもまた視線を向ける。
そう、言われなくとも分かるだろう。ヘレナの絵本の主人公である。
ヘレナの尽力もあり、その子は晴れて今日からユスターシュの家族の一員となった。
もちろん、聖獣の子どもなどではない。ちゃんと本物の子猫である。
名はまだない。
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