【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

文字の大きさ
40 / 110

偽ハンバーグ疑惑

しおりを挟む

予想以上にユスターシュの屋敷を堪能したレウエル一家は、母レナリアの体調が良かった事もあって、その日はそのまま夕食を一緒にする事になった。

メニューは勿論、ヘレナ一押しのハンバーグである。


そしてテーブルの上には、ヘレナは勿論、レウエル一家にとって目くるめく素晴らしい光景が広がった。


ハンバーグに、フライドポテトに、コールスローサラダに、フライドチキンに、グラタンに、人参のグラッセに、カボチャのポタージュに、野菜のキッシュ。

更にこの後にはデザートが出ますよ、などと言われてしまえば、弟たちのテンションも爆上がりというものだ。



さて、そんなウキウキとした空気の中、ヘレナにとっては既に過去のこととなっている案件が弟たちによって持ち出された。


「そう言えば姉ちゃん。前に姉ちゃんが作ったハンバーグってあれ、真っ赤なニセモノだったぞ」


ぎくり。


「新しく来たコックさんがハンバーグを出してくれたんだ。ものすごく美味しくて、しかも初めて食べる味だったから、これなに?って聞いて、ハンバーグですよって言われた時は、僕たち何かもう色々とビックリしちゃったよ」


ぎくり、ぎくり。


「姉ちゃんが作ったのは見た目だけはそっくりだったけど、味も違うし、匂いも違うし、かかってたソースも全然違うし・・・あれさ、写真か絵か見てそれだけで作っただろ?」


ぎくぎくぎっくり。


「まあでも、姉ちゃんの作ったやつも、あれはあれでスパイシー?で美味しかったけどさ」

「・・・スパイシー」

「肉はやたらと噛みごたえがあって顎が疲れたけど、その分早くお腹いっぱいになったしな」

「・・・やたらと噛みごたえ」

「ソースもさ、ニンニクの効いたパンチのある香りで良かったよな。匂いだけでご飯一杯はたべられたもん」

「・・・ニンニクの効いたソース」

「まぁでも、ハンバーグじゃないよな~?」

「ないよな~」

「・・・なんか、逆にどんな味だったのか興味が湧いて来たんだけど」


途中から弟たちの会話にいちいち反応していたのはユスターシュである。


彼は昼間からずっとヘレナを含めた全員の心の声が聞こえているが、それを彼らには隠しているため、ヘレナはいつもの様に軽快なツッコミが貰えない。

それが普通の日常なのだろうけれど。
ヘレナはすっかりユスターシュとの日常に慣れ親しんでしまったから、それが少し寂しい。


今だってきっと彼の頭の中では、ヘレナの作った偽ハンバーグがぐるぐると飛び回っていることだろう。
ユスターシュの様な能力がない限り、覗く事も出来ないが。

ああ、非常に残念だ。

頭の中を沢山のハンバーグが飛び回るなんて羨ましすぎである。浪漫だ、楽園だ、桃源郷だ。


ヘレナは、夕日の見える海辺の砂浜で、鉄板でジュージューと美味しそうに焼かれたハンバーグの絵を思い浮かべる。

しかも、一つどころではない。鉄板の上を隙間なく敷き詰める様にして、ハンバーグがぎゅうぎゅうに焼かれているのだ。


食べても食べても、わんこそばの様にハンバーグが焼き足される。
まさに、肉汁のエンドレスパレードだ。


「・・・いや、私が想像するとしたら、本物じゃなくて、ヘレナが作った偽物のハンバーグの方じゃないかな」


ユスターシュにこそっと耳打ちをされ、ヘレナは自分の大いなる間違いに気がついた。


「へへ、そうでしたね」


だが、ちょっとだけだがやっとユスターシュからのツッコミが貰えて、何だかヘレナは嬉しくなって。


そんなヘレナが溢した照れ笑いを弟たちが目撃して、「ソウシソーアイだ」と囃し立てるのはこのすぐ後の事である。


しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

処理中です...