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偽ハンバーグ疑惑
しおりを挟む予想以上にユスターシュの屋敷を堪能したレウエル一家は、母レナリアの体調が良かった事もあって、その日はそのまま夕食を一緒にする事になった。
メニューは勿論、ヘレナ一押しのハンバーグである。
そしてテーブルの上には、ヘレナは勿論、レウエル一家にとって目くるめく素晴らしい光景が広がった。
ハンバーグに、フライドポテトに、コールスローサラダに、フライドチキンに、グラタンに、人参のグラッセに、カボチャのポタージュに、野菜のキッシュ。
更にこの後にはデザートが出ますよ、などと言われてしまえば、弟たちのテンションも爆上がりというものだ。
さて、そんなウキウキとした空気の中、ヘレナにとっては既に過去のこととなっている案件が弟たちによって持ち出された。
「そう言えば姉ちゃん。前に姉ちゃんが作ったハンバーグってあれ、真っ赤なニセモノだったぞ」
ぎくり。
「新しく来たコックさんがハンバーグを出してくれたんだ。ものすごく美味しくて、しかも初めて食べる味だったから、これなに?って聞いて、ハンバーグですよって言われた時は、僕たち何かもう色々とビックリしちゃったよ」
ぎくり、ぎくり。
「姉ちゃんが作ったのは見た目だけはそっくりだったけど、味も違うし、匂いも違うし、かかってたソースも全然違うし・・・あれさ、写真か絵か見てそれだけで作っただろ?」
ぎくぎくぎっくり。
「まあでも、姉ちゃんの作ったやつも、あれはあれでスパイシー?で美味しかったけどさ」
「・・・スパイシー」
「肉はやたらと噛みごたえがあって顎が疲れたけど、その分早くお腹いっぱいになったしな」
「・・・やたらと噛みごたえ」
「ソースもさ、ニンニクの効いたパンチのある香りで良かったよな。匂いだけでご飯一杯はたべられたもん」
「・・・ニンニクの効いたソース」
「まぁでも、ハンバーグじゃないよな~?」
「ないよな~」
「・・・なんか、逆にどんな味だったのか興味が湧いて来たんだけど」
途中から弟たちの会話にいちいち反応していたのはユスターシュである。
彼は昼間からずっとヘレナを含めた全員の心の声が聞こえているが、それを彼らには隠しているため、ヘレナはいつもの様に軽快なツッコミが貰えない。
それが普通の日常なのだろうけれど。
ヘレナはすっかりユスターシュとの日常に慣れ親しんでしまったから、それが少し寂しい。
今だってきっと彼の頭の中では、ヘレナの作った偽ハンバーグがぐるぐると飛び回っていることだろう。
ユスターシュの様な能力がない限り、覗く事も出来ないが。
ああ、非常に残念だ。
頭の中を沢山のハンバーグが飛び回るなんて羨ましすぎである。浪漫だ、楽園だ、桃源郷だ。
ヘレナは、夕日の見える海辺の砂浜で、鉄板でジュージューと美味しそうに焼かれたハンバーグの絵を思い浮かべる。
しかも、一つどころではない。鉄板の上を隙間なく敷き詰める様にして、ハンバーグがぎゅうぎゅうに焼かれているのだ。
食べても食べても、わんこそばの様にハンバーグが焼き足される。
まさに、肉汁のエンドレスパレードだ。
「・・・いや、私が想像するとしたら、本物じゃなくて、ヘレナが作った偽物のハンバーグの方じゃないかな」
ユスターシュにこそっと耳打ちをされ、ヘレナは自分の大いなる間違いに気がついた。
「へへ、そうでしたね」
だが、ちょっとだけだがやっとユスターシュからのツッコミが貰えて、何だかヘレナは嬉しくなって。
そんなヘレナが溢した照れ笑いを弟たちが目撃して、「ソウシソーアイだ」と囃し立てるのはこのすぐ後の事である。
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