【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮

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援護射撃は大歓迎の巻

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「お帰りなさい、あにうえ!」

「あにうえ~! お帰りなさい!」

「うん。ただいま」


王城から帰ってきたユスターシュにぎゅっと抱きついたのは、やんちゃなレウエル家の子どもたち、そう、ヘレナの弟たちである。


彼らの虎じろう愛が引き金となって偶然に捕縛できた謎の追跡者たち。その数が50を超えた辺りで、誘拐にまで発展しそうな空気に、ユスターシュ邸に泊まる事になってからはや十日。

現在、父、母、弟二人と、つまりレウエル一家全員が絶賛お泊まり中である。

ちなみに、あちらの家にはユスターシュが以前に手配した使用人たちが残っていて、彼らの食糧源である畑と鶏たちの世話をしてくれている。


裁定者の能力が発現してからというもの、側に置く人を極力少なくしていたユスターシュとしてはかなり思い切った判断だったのだが。


それが、なかなかの好結果となっている。



「ほらほら、あなたたち。ユスターシュさまから離れなさい。両脇から抱きつかれたら動けないでしょ」

「だって、やっと帰って来たのに」

「そうだよ、やっと帰って来たんだよ」

「「僕たちのあにうえが!」」


こういう時は息がぴったりなアストロとカイオスである。


「あなたたちのじゃありません」


ヘレナは、両手両足を使ってユスターシュの両側にしがみつく弟二人を、なんとか引っぺがそうと奮闘中だ。

そうなのだ、現在もブームが続く虎じろう愛であったが、今この二人には別のブームもやって来ている。

それは『兄上』ブームと『トムタムダンス』ブームである。


一応長男のアストロは、ずっとお兄ちゃんが欲しかったとかで、ハンサムな上にいつもにこやかで優しいユスターシュは彼の理想のお兄ちゃん像にバッチリとはまったらしい。

そして次男のカイオスであるが、彼には実の兄アストロがいるにも関わらず、「兄ちゃんは兄上じゃない」とか言う謎の『兄上』理論を展開し、これまたユスターシュに懐きまくった訳である。


という訳で、ユスターシュが帰宅する時は暫くの間はこんな感じで引っ付くのだ。

しばらく、というのがどういう事かと言うと、彼らのブームには順位がある。


ブーム一位は、もちろん我らが虎じろう。

ブーム二位が、理想の『兄上』ユスターシュ。

そしてブームの三位が、トムタムダンスである。


当たり前だが、虎じろうは殆ど屋敷内にいる。たまにふらりとどこかに出て行ってしまうが、ニ、三時間もすれば再び現れる。

だから、虎じろうに触り放題の今、基本アストロとカイオスはもふもふを思う存分堪能している。虎じろうがどこかに行ってしまった時は、二人でトムタムダンスを踊るのだ。


ところで、二人が何故トムタムダンスを知っているかと言うと、畑の野菜がたくさん収穫できた日の朝に、ヘレナが思わず踊り出したところを目撃したから。


妙な味のあるこの踊りを、弟たちも一目で気に入ってしまったのだ。


さてさて、順位としてはブーム第二位であるユスターシュだが、朝には出かけて夜まで帰ってこない彼は、弟たちからするとレア度的に一位の様なのだ。


という訳で、帰宅時のユスターシュは珍獣よろしく、弟たちがべったり張り付くのである。


当然、ヘレナも、ヘレナの両親も、二人を叱ろうとしたのだが、これを止めたのがユスターシュ。


彼らはヘレナの弟だけあって、言ってる事と考えてる事がほぼ一致しているらしい。
だから側にいても疲れないし、むしろ笑える事の方が多いのだとか。


「いやぁ、レウエル一家の真っ直ぐさは希少だよ」


と言って嬉しそうに笑うから、ヘレナもつられて嬉しくなる。


・・・でも。

そうは言っても、だ。


弟たちが両手両足を絡めて抱っこちゃん人形の様に両側にへばり付くのは、流石に止めなくてはいけない。


ユスターシュもそれなりに体を鍛えてはいるが、ムキムキのマッチョではない。ボディビルダーの様な鋼の筋肉も纏っていない。

元気でやんちゃな少年二人に両側からぶら下がれては。


「・・・お、重い・・・」


そう、その場から一歩も動けなくなってしまうのだ。


「済まないね、ユスターシュ殿」


そう言って、アストロを引っぺがして抱きかかえたのはヘレナの父オーウェンだ。


「ほら、カイオスもこっちに来なさい。ユスターシュさまが動けないでしょ」


もう一人の弟は、ヘレナが引っぺがした。


「ちぇっ!」

「ちぇっ!」


本当にこの二人は、こういう時は息がぴったりだ。

でも、こんな腕白坊主でも、ヘレナにとっては可愛い弟たちなのだ。


ユスターシュも二人を可愛がってくれている理由は謎なのだが、本当に有り難いとヘレナは思っている。


「姉ちゃん、お帰りなさいのちゅーは?」

「え?」

「そうだよ。ぎゅーっと抱きつかなきゃ」

「えええ?」

「ここは、サビシカッタワ~、アナタ!って言うとこじゃん」

「あ、あんたたち、一体なにを。もう、あっちに行きなさい!」

「・・・ヘレナ」


赤くなってわなわなと震えるヘレナの背を、ユスターシュはそっとつつく。


「はっ、ユ、ユスターシュさま? あ、あの」


あわあわと動揺するヘレナに、ユスターシュはにっこりと笑いかける。


「あの、今のは、あの子たちの冗談で」

「・・・してくれないの?」

「し、してくれない、とは?」

「お帰りなさいの、あいさつ」

「ふ、ふえ?」


真っ赤な顔で、目を白黒させるヘレナの頭の中は、色々と忙しい事になっている。


それを分かりつつもユスターシュが黙ってじっと見下ろしていると、観念したのか、ヘレナはそっとユスターシュの背に腕を回し、小さな声でお帰りなさいと呟いた。


「ふふ、ただいま」


ユスターシュもまた、ヘレナの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。


・・・いつもありがとうね、アストロくんとカイオスくん。


柱の陰に隠れてガッツポーズをしている二人に、ユスターシュは心の中で感謝の言葉を述べる。


そう、ユスターシュが彼らの滞在を歓迎しているのは、思いがけないところで援護射撃が貰えるという不埒な理由もある・・・のかもしれない。








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