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漬け物とは別もの
しおりを挟むもみもみ、キュッキュッ、押してつまんで揉みほぐして。
漬け物を作っている訳ではない。
ヘレナが、神業の如き素晴らしいマッサージを受けているのである。
結婚式を前に王城へと移動したヘレナを待っていたのは、精鋭エステ部隊による怒涛のブライダルエステコース。
普通の、平々凡々な顔立ちのヘレナだが、今やむきたてのゆで卵の様にツルピカなお肌になっている。
そして、肌が綺麗になるだけで、2割くらい美人度も増す気がするのは不思議なものだ。
今のヘレナは、いつもの平凡顔ではなく、「あの子ちょっと可愛くない?」程度にまでレベルアップしていた。
こんなチートの様なエステが結婚式前日まで続くのだ。もしや式当日には、美人度が更に4割は上がりそうだ。
2割プラス4割・・・そうなったら過半数を超える。じゃあ、もしかしたら多数決で美人の部類に入れてもらえたりして。
生まれて初めてのエステ三昧に、ヘレナの思考力もすっかり揉みほぐされてぐちゃぐちゃだ。
確かにマッサージは極楽だ。しかし、こんなに腑抜けていては、実はいけなかったりする。
王城に来た初日、迎えてくれた王太子妃に、ちょっと物騒な注意を受けたのだ。
「へーちゃん、王族の居住区からなるべく出ないようにしてね。出る時は必ず護衛をつけるのを忘れないで」
ランバルディア王国初の裁定者の結婚式。
国外からも続々と客人がやって来ていると言う。そしてその中には・・・
「もう十五年以上になるかしら。国交がほぼ途絶えていた国からも客人がいらっしゃるの」
なるほど。自分たちはそんなに珍しい結婚式を挙げるという訳か。
自分たちの式がツチノコ並みにレアな扱いである事に感心していると、王太子妃は「残念ながらポイントはそこじゃなくてね」とお馬鹿な子を見る様なぬるい目をされた。
「国交が途絶える様な事件が、我が国と彼の国との間で過去に起きたという事よ。
そして、その事件にユスも関わっているの・・・正確には、ユスのお陰で最小限の被害で済ませられた訳だけど」
彼の国は、その件でまだユスターシュを恨んでいる可能性もあると言う。確かに、十五年以上も国交が途絶えたくらいだ、それなりに恨みは大きいという事だろう。
そして、そんな背景を持つ国から、今回の結婚式に参列する為に人がやって来るという事は。
・・・う~ん、確かに。
さしものヘレナも、これでお祝いに来てくれたなどと呑気には思えない。
王太子妃曰く、ユスターシュが狙われているのなら、同じかそれ以上の確率でヘレナも狙われるだろう。
心が読めない以上、ユスターシュよりもヘレナの方が手を出しやすいからだそうだ。
ランバルディア王国としても、彼の国からの参列客など想定していなかったらしく、国王や宰相を始め、皆で対応を考えるのにてんやわんやなのだとか。
しかも今回は、それとは別に獣人国からのお客さままでお迎えしている。そちらはランバルディア王国初の事で、今後の貿易とか事業提携の可能性などを考えると大事にしたい相手。
そう、つまり今は、ハッキリ言って想定外のオンパレードなのだ。
聞けば、獣人国のお客さまの方も、毎日何かしら楽しそうなハプニングを起こしているらしいし・・・
呑気にエステ三昧を楽しんでいたのが、非常に申し訳ない気分である、
言われた通り、王族専用の居住区から一歩も出ていないヘレナは、何やら賑やかで楽しそうな獣人の方々ともまだ会っていない。
それで良いのか心配ではあるのだが、ユスターシュに聞くと「ぜんぜん問題ないから」と何故かやたらとにこやかな笑顔が返ってくる。
ああ、でも後学のために国の名前を聞いておこう。
なんて軽い気持ちで、その国交がほぼ途絶えていたという国の話を振ってみた。
すると。
「プルフトス王国という国だよ」
少しばかり苦い表情で、ユスターシュは答えた。
・・・あれ?
その名前には聞き覚えがあった。
その国って確か、ロクタンの伯母さまがお嫁に行かれた国では?
確か、間に三つほど国を挟んだここからはちょっと遠い国。
なんて思ったら。
「そう、それと・・・あの元側妃の姉が嫁いだ先の国でもある」
「・・・」
ユスターシュが、やたらと深刻な顔でそう告げたのだけれど。
はて、困った。
ヘレナの頭の中は今、猛スピードでリサーチ中だ。
元側妃? ええと、元側妃ってだれのことだっけ?
「・・・ほら、あの人だよ。お茶に毒を盛って、私たち王子を殺そうとした・・・危うくハインリヒが冤罪をかけられそうになって・・・」
・・・自分で飲んで、死にかけたやつ!
「あれですか! って、ええ? あの時の話に出てきた側妃?」
あれ? 確かあの話では、後でその側妃は処刑になってた様な・・・
「そう」
ユスターシュは静かな口調で続けた。
「レア元側妃は処刑された。家も取り潰しになったけど、彼女の姉はそれよりも数年前にプルフトス国の王弟のもとに嫁いでいてね・・・今は前大公妃かな」
・・・おおう。
続々と出て来る新事実に、ヘレナはやっと王太子妃の忠告の重大さを理解する。
客が沢山いるから気をつけてね、なんて程度のものではなかったのだ。
今はお漬け物気分でエステを楽しむ様な状況ではない、そうヘレナは気持ちを引き締めた。
・・・因みに、エステで受けるマッサージは、漬け物を作る作業とは全く似ていない。
ヘレナが口に出していないから、担当の侍女たちから苦情が来ていないだけである。
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