【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

文字の大きさ
151 / 183

転移

しおりを挟む

そして予定通り、ヴァルハリラが執務室を訪れた日から3日後の朝、身支度を整えたカルセイランは密かに国王に挨拶に向かう。


国王は静かに息子を見つめ、王妃は必死で涙を堪える。


すぐ横には、アーサフィルドの姿もあった。


2日前、カルセイランはジークヴァインにだけ、共に村に行きたいかと意向を尋ねた。


今はアウンゼンの認識阻害で躱しているものの、いつどこでジークヴァインにヴァルハリラの敵意が向けられないとも限らない。


加えて愛娘にも会いたいだろうと慮っての事だったが、これをジークヴァインは断った。


「カルセイランさまは王太子として国民を守るために向かわれるのです。ならば私も、ここで私がなすべき事をするのみです」


そう言ってジークヴァインは笑みを浮かべた。


「辺境の村に行ったとて、私が何の役に立てましょう。ただ護衛対象を増やして終わりです。ならば私はここで、アーサフィルドさまの執務をお支えします」


ジークヴァインは胸を張ってこう続けた。


「私は3年前までこの国の宰相を務めていた男ですぞ? アーサフィルドさまをお支えするのに、これほどの適役はおりますまい」
「・・・ああ、違いない」


ジークヴァインの思いに応えるべく、カルセイランは笑顔で答えた。


それぞれが懸命に自分が出来ることを模索している、その事実がカルセイランを勇気づけた。


愛娘ユリアティエルには3年近くも会えていない。

しかもその間、彼自身も投獄され、ヴァルハリラの敵意に晒されていた。

そして今、近隣領地からの兵団がユリアティエルへとさしむけられている。


それでもジークヴァインはここに残り、アーサフィルドを支えてくれると言ってくれた。



「王太子殿下、これを」
「アルパクシャド」
「お約束した腕一杯には、少々足りませんが」
「・・・十分だ。ありがとう」


アルパクシャドはこの3日間、何度も魔力切れを起こしかけ、アウンゼンの回復魔法を受けながら防御の魔道具を作り続けてくれた。


魔法陣に向かうカルセイランの手には、23個もの魔道具が入った包みがある。


そしてアウンゼンは、カルセイランが転移魔法陣を使って移動した後、彼に姿を変えてヴァルハリラの元へ行き、公務でこの城を出ていく姿を偽装してくれる。


そして。


「兄上・・・」


我が弟アーサフィルド。


「お気をつけて」
「・・・ああ」


笑って見送ってくれるのだな。

なんの前触れもなく、いきなり自分の代わりに立てと無茶振りをしてきた兄のために。


「ありがとう」


前にアルパクシャドが書いて渡した転移魔法陣の紙は、なるべく多く持っていた方がいいと言われたため、今回は使用しない。


代わりに直接、アウンゼンが術を展開する。


国王の私室内に眩い光が溢れ始め、カルセイランの体を覆い始めた。


「・・・カルセイラン・・・ッ!」


声のした方向を振り返る。

国王トルストフだ。


「陛下・・・父上・・・」
「・・・帰って来い、必ずだ・・・!」
「・・・」


カルセイランは眼を眇める。


部屋全体を眩い光が包み込み、やがて消えていく。


彼らの視界には、もう王太子の姿はなかった。


「・・・」


静寂が室内を包み込む。


耳に微かに聞こえた「はい」という返事は、願望が作り出したものだったのだろうか。


確かに、そう聞こえた気がしたけれど。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

夫は家族を捨てたのです。

クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない…… 夫の帰りを待っ家族の話しです。 誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

処理中です...