【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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余裕がないのは、きっと

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一瞬、何が起きているのか、わからなくて。

夢かとも、何かの間違いかとも、思って。

そもそも、何故、レオンが俺のこの気持ちを知っているのか、とか。

レオンがエレアーナを選んだその選択が、一部の貴族たちの反発を買ったのは事実とはいえ、それはレオンが責任を感じることじゃない、とか。

仕切り直しなんて、そこまで自分を責めなくても、とか。

・・・そう思うのに。

エレアーナに、想いを伝えることが出来るのかと。
そう思ったら。

レオンへの申し訳なさと同時に、気持ちが高揚するのを感じてしまって。

その時、ふと、隣から視線を感じて。

ちらりと目線を移すと、さっきまでの真面目な態度は何処へやら、ライナスが俺の方を見てやたらとニヤニヤしている。

・・・なんだ? その顔は。

と、その時、はた、と気づいてしまった。

ライナスの考えている事を。
・・・俺の致命的な欠点を。

そうか、なるほど。お前の言いたいのは、そういうことか。

お前に、愛の告白なんてできるのかよ? だな。

・・・そうだな、正直、うまく伝えられる自信なんてない。
これっぼっちもない、が。

黙っていれば済む話をわざわざ持ち出して、仕切り直しだと宣言までして、レオンは俺にチャンスをくれた。

無口だから、口下手だから、なんて言い訳は、こんな場面で使うものではない。絶対に。

叶うならば、レオンのように美しく愛を囁きたい、と願うのは贅沢なのかもしれないが。

・・・でも、きっと、一生に一度の事だから。

「ケイン。・・・ケイン?」

俺の名を呼ぶ声に、はっと我に返る。
エレアーナの手を握っていたはずのレオンハルトが、目の前で俺の顔を覗きこんでいるではないか。

「レ、レオン?」

レオンの目が細くなる。
口元に浮かんだ笑みは、いつもと少し違って少々意地が悪そうで。

・・・こんな顔も、するのか。

王族らしい優し気な微笑みを常に崩さない、そんないつもの顔とは違う、感情が表に現れた人らしい表情に、なぜだろうか、少しほっとして。

「ねぇ、ケイン。僕の告白、ちゃんと聞いてた? さぁ、次は君の番だよ。さっさとエレアーナ嬢のところに行って、その重たい口で愛を囁いてきなよ」

そう言って、レオンは、にやりと笑う。

一皮むけたような、余計なものを脱ぎ捨てたような、そんなすっきりとした潔い顔に、うっかり見とれてしまったのは、俺だけじゃない、きっと隣にいるライナスもだ。

きっと、君は凄い王になる。

そんな、この場とは何の関係もない事が頭に浮かんで。

その挑むような目に、笑みで応え、俺はゆっくりと立ち上がった。

「ありがとう。レオン」
「どういたしまして。・・・負けるつもりはないからね。せいぜい格好いい台詞で告白しておいで」

そう言って、すれ違い様に俺の肩を、手の甲でとん、と軽く叩いた。

負けるつもりはない、か。

それは、お互い様だ。
・・・格好いい台詞が吐けるかどうかは、別だがな。

レオン、君はいつもそうだよな。
潔癖なまでに清廉で、美しい。

この借りを、君にどうやって返せばいいだろう。

秘しておくつもりが、こうもあっさりと見抜かれてしまった、俺のこの想いは。
きっと、優しい君を悩ませたに違いないのに。

あれほど焦がれていた女性ひとに、他の男が愛を告げる場を整えることまでするほどに。

・・・俺はどうやって、君の潔さに応えよう。
少し意地の悪い笑みで、俺の背中を押してくれた、一番の友に。

俺が、君に差し出せるものといえば。

心からの尊敬と感謝を。
生涯の忠誠と誓いを。

それだけだ。
たった、それだけだが。

君の好意に、優しさに、今は最大限、甘えよう。

一歩一歩、エレアーナの元へと歩を進める。

レオンハルトの告白だけで、既にいっぱいいっぱいなのだろう。
彼女の頬は朱に染まり、視線はあちこちを彷徨っていて落ち着きがない。

・・・大丈夫だ、エレアーナ。
多分、俺の方が余裕がない。

君はただ、俺の一世一代の下手な告白を黙って聞いてくれればいい。

どうか、途中で遮らないで。
最後まで言わせてほしい。

口下手な俺のことだから、どうせ、長いこと君を讃える台詞なんか吐けやしないんだ。

でも、レオンがくれた、この機会を。
どうか俺に、使わせて。
君への思いを、伝えさせてほしい。

エレアーナの目の前まで進んで、俺の足が止まる。
ゆっくりと膝を折り、目線をエレアーナに合わせ。

その名を呼びかける。・・・心を込めて。

「・・・エレアーナ嬢」
「は、はい・・・」

こんな瞬間が、来るなんて。
こんな日が、・・・俺に来るなんて。

一生、言葉にすることはないと思っていた。
それでもいいと、思っていた・・・から。

だから、せめて。
拙い言葉でも、この想いを。

愛しい君に。

「・・・あなたは、美しい」
「え、いえ、そんな・・・」

どうか、言わせてくれ。・・・最後まで。

手を、そっとエレアーナの両手に重ねる。

「・・・あなたは、優しい。・・・そして、気高い」
「あ・・・」
「あなたは、・・・純粋で・・」

言葉が、途切れる。

・・・情けない。
子どもの作文の方が、よほど出来がいいじゃないか。

「あなた、は・・・強くて・・」

言え。

「・・・賢くて・・・」

ずっと、伝えたかった言葉を。今。

「あなた、が・・・好きだ」
「・・・っ」
「心の・・底から」

重ねた手を、ぎゅっと握りしめる。

こんな時くらい、格好をつけたかったが。

・・・情けない。これで精一杯だ。

「・・・あ、あの、ケインさま・・・」

握っていた手に、思わずさらに力を込めてしまう。
俯きたくなる気持ちを、必死で抑えて。

「・・・言わないでくれ」

祈るように、エレアーナの美しい碧色の眼を見つめる。

「今は、まだ・・・決着を、つけないでくれ」
「・・・」
「君を、守ると・・・誓うから。全てが終わるまで、側に・・・いさせてくれ」

エレアーナは、そんな情けない俺をただ静かに見つめて。
それから、初めて出会った、あの薔薇園のときと同じ、あでやかな微笑みを浮かべた。

「・・・はい」
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