【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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焦燥

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自分は生来、かなり我慢強い方だと思っている。
そして、感情のコントロールも出来る人間だ、とも。

だが、そんなリュークザインの苛立ちは、今、限りなく頂点に近づいていた。

原因はもちろん、父、ファーブライエンだ。

王城の使者より届けられた書状を読むなりビリビリに破り捨て、見当違いの処分だと喚きたて始めて。
王家に欲を持って近づく輩を排そうとした自分こそが忠臣である、と主張して譲らない。

今も、リュークザインの目の前で、我こそが陛下の一の臣下であると、騒いでいるところだ。

「・・・それほどまでに陛下の処断に不服があるようでしたらば、直接王城に出向いて直訴なさってはいかがでしょう」

そう言うと、喚きたてる声がピタリと止まる。
・・・それでも、どうせ半刻後には再び騒ぎだすのだが。

処断には不服でも自分から王に文句を言うほどの気概はなく、ただこうして長々とリュークザインに不平をぶつけ、あわよくば息子から王に話がいきはしないかと、思っているのだ。

そうはいきませんよ。
私は、あなたと心中するつもりは、さらさらありませんので。
絞めるのは自分の首だけにして下さい。

「こうやって長々とおっしゃられても、私にはどうしようもありません。使者の話によれば、後継に爵位を譲らずに、父上の代で爵位を永久剥奪とする道を選ぶことも出来るとのことでした。どうしてもとおっしゃるのであれあば、私は父上の決定に従うこともやぶさかではありませんので、いっそ平民になり下がるかどうか、ご自分でよくお考えになってください」

ファーブライエンの渋面に怯むことなく、リュークザインはそんな言葉を投げかけた。

ライプニヒ公爵家の断絶も免れたかと一時は安堵したものの、この男の勘違いを何とかしない限り、危機が再び訪れることになるのは、間違いない。

・・・それにしても、何処をどうすれば、ここまで自分を高く評価できるのだろうか。

レベルが低くなればなるほど自己評価が高くなっていくような、そんな意味不明の反比例システムがファーブライエンの脳内に植え付けられているのだろうかと、考えたくなるほどの支離滅裂さに頭が痛くなる。

一方のシャルムは、意外なことに、書状に従って素直に自室に移り大人しく謹慎生活を送っている。

「爵位の永久剥奪」という言葉に怯え、今の生活が維持できるならば、と、自身の廃嫡にも、リュークザインが後継として立つことにも、何の意義も唱えることはなく。
用具小屋での生活がよほど堪えたのか、自身の愚かさにやっと思い至ったのか、はたまたリュークの配慮に素直に感謝したのかは分からないが、今はファーブライエンよりもリュークの言葉の方を信用するようになって。

事ここに至っても悪あがきをするファーブライエンの姿を目の当たりにして、さすがにその思考の歪みに気づいたのか、シャルムもいろいろと考えるようになってきた。

元より、シャルムは直情的かつ短絡的ではあるものの、素直な性格ではあったのだ。
ファーブライエンとブルンゲンの影響下から離れられたことも、大きいのだろう。

シャルムの犯した罪が、綺麗さっぱり拭い去られるわけではない。
廃嫡され、この先、社交界でも肩身の狭い思いをするだろう。

それでも、現国王陛下は人を過去だけで断じられる方ではない、と。
何か贖罪する道を開いてくださるだろう、と。

その希望だけが、リュークの、今のライプニヒ家の拠り所となっているのだ。

それでもなお、リュークには、気がかりなことがもう一つあって。
妹、シュリエラのことだ。

ケインバッハと話をした後、確かにシュリエラの表情は明るくなった。
なにか吹っ切れたようで。

それは良かった。
そこまでは、良かったのだが。

最近、よく庭先まで出て来ては、話をするようになったのだ。・・・あの男、ファイと。

自分の中にファイを訝しむ気持ちはあるものの、決定的な何かをつかんだわけでもなく、よって、こんな心配はお門違いも甚だしいのかもしれない、・・・が。

どうにも引っかかるのだ。
なにやら普通の男ではないように思えて。

ふたりの様子を伺っている限りでは、ただの世間話やニュースなど、当たり障りのない話しかしていない。
なにより、シュリエラの顔に、生気が戻りつつある。

最近は、笑顔が浮かぶ時もある。

シュリエラに対するファイの態度は、穏やかそのもので。
今のこのタイミングでなければ、話し相手を務めるファイに対し、感謝しかないのだろうが。

だが、今は。
・・・必死に、あの男の行方を捜している今は。

判断を誤れば。
取り返しのつかない事態になるやもしれん。

リュークザインの心には、焦燥ばかりが募ってくるのだ。
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