【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
65 / 256

侵入者

しおりを挟む
ケインバッハが夜警に加わるようになってから数週間後。
ブライトン邸に侵入を試みた男がいた。

少々手間取りはしたものの、無事に捕縛し、警護に当たっていた者たちは皆、とうとう賢者くずれを捕まえられたか、と一瞬、喜びかけたのだが、結局、ただの物盗りであったことが判明し、ルシウスを始め、一同はひどくがっかりしていた。

物盗りの男曰く、この邸に関して、何やら非常に魅力的な話を酒場で小耳に挟んだとか。
それで、ついつい、その気になって忍び込もうとしたものの、今思うと、なんでその気になったのかも分からない。
こんな大きな邸に、今まで手を出したことなどないのに、とぶつぶつ呟いていた。

「君はどう思うかね? ケインバッハ」
「あの男は、只の小者かと。たまたま耳にした情報に喰いついて、突発的に犯行に及んだようですが、その経緯が不自然に感じます。・・・問題は、その男に情報を吹き込んだ人物の方かと」
「うむ、私も同意見だ」

ケインバッハは、ブライトン邸のサロンで、先ほど捕らえたばかりの物盗りについての協議に参加している。

理由は簡単。
その物盗りを最終的に取り押さえたのがケインだったからだ。

騎士団員より動きが優れていたわけではない。
カーンの稽古の甲斐もあってか、遜色ない働きは出来ているが。

今回、ケインがほかの騎士たちより勝っていたものがあるとすれば、それは地の利だろう。
数回ほど訪れたことがあり、庭園の位置も、邸内部も、全体的な位置情報が大凡ではあるが頭に入っていた。

ただ、それだけ。それだけの差だった。
だが、それだけの差が、この緊急時にケインを躊躇いなく走らせた。

邸外部と邸内の警護の者たちに、まったく横の繋がりが無かったことも、マイナスに働いてしまって。
その点も、今回の協議内容に含まれ、検討されることになっている。

「酒場にいたという男について調べても、今さら何も出てこないとは思いますが・・・。念のため、数名を派遣して調査にあたらせてもよろしいでしょうか」

アイスケルヒが、厳しい表情でルシウスに許可を求める。
邸内に侵入する前にケインバッハが取り押さえることは出来たものの、外門は突破され、庭園の奥まで賊が入り込むのを許してしまった。

この物盗りの腕もそこそこ悪くなかったのかもしれないが、背後に賢者くずれがいることを考えると、捕まえられたからと言って手放しで喜べる状況では決して無いのだ。

その場にいる誰もが、緊張した面持ちで協議に加わっていた。

ケインバッハも、冷静に状況を分析しながら、己に叱咤の声を投げかけていた。

偶々だ。
今夜は、偶々、賊を捕まえることが出来た。

次はもっと。
もっと確実に、彼女を守る。

あの日、俺は愛しい女性ひおに、必ず守ると誓ったのだ。
そして、彼かの女性ひとは、笑って頷いてくれた。俺に側にいることを許してくれた。

だから、決して油断するな。
全てを捧げて彼女を守れ、と。

気を、引き締める。

その後、協議が終わり、各々が持ち場へと散開する中。
再び警護に戻ろうと、ケインは庭園を抜けようとしていた。

そのとき。
ふと、視線を感じた・・・気がして。

振り返って、でも誰もいなくて。

ふと、頭上の明かりが眼に入り、目を上げると。
エレアーナがいる筈の部屋に、明かりが付いているのに気づいた。

・・・騒ぎになったからな。
さすがに耳に入ってしまっただろう。

今頃、怖がっているかもしれない。

その明かりを見つめながら、片膝を折って跪く。

そして祈るように呟いた。
・・・どうか、この先、君が心安らかに眠れる日が来ますように、と。

ここで君を守るから。
必ず誓いを果たすから。
だから、どうか・・・怯えないで。
きっと、俺だけじゃない。
君を必要としている人は、この世界にたくさんいるのだから。

そんな願いを込めた呟きと共に、しばらくの間、その明かりをただ、じっと眺めて。

それから。
ケインはゆっくりと立ち上がると、自分の持ち場を警護するため、邸に背を向けて歩き始めた。

その後ろ姿を、彼の愛しい女性ひとが、カーテンの陰から見つめていたことには気づかずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...