【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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烈女

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サロンの扉をノックする音がして。
アイスケルヒがカトリアナを連れて現れた。

「まぁ、アイスケルヒさま」
「やぁ、アリエラ嬢。貴女の妹君をお連れしたよ」
「あ、あの、ありがとうございました、アイスケルヒさま。お世話になりました・・・」

小さくなって席に戻るカトリアナを心配そうに見つめるアリエラに、アイスケルヒが声をかける。

「カトリアナ嬢は、なかなかの烈女のようだ。さすがは貴女の妹君だな」
「・・・はい?」

意味が分からず、ぽかんとするアリエラを他所に、アイスケルヒは、今度は自分の妹に向かって声をかける。

「エレ」
「はい、お兄さま」
「お前はいい友人に恵まれた。感謝するんだな」
「・・・ええ。わかっていますわ、お兄さま」

それだけ言うと、アイスケルヒは、失礼、という言葉と共にサロンから出て行った。

「烈女。烈女ですって、カトリアナ。あなた、サロンから出て行った後、何をしたの?」
「えーと、あの、それは・・・」

もごもごと口ごもるカトリアナに、エレアーナが、ふっと微笑みかける。

「殿下をご心配くださったのではなくて? ・・・最近の殿下は、どこかお辛そうでしたから」

カトリアナは驚いて目を見張る。

「あら、そうでしたの? ・・・確かに、この間、夜会でお見かけした時も、沈んでらした様には思いましたけれど」

アリエラは吃驚しながらも、どこか納得したようで。

「ええ。わたくしからは申し上げづらく、どうしたらいいかと悩んでいたところでしたの」
「エレアーナさま・・・」

問い詰められるものと思っていた相手からの思わぬ言葉に対して、カトリアナはようやく、たった一言、絞り出した。

「カトリアナさま。王家の方に意見を申し上げるのは大変勇気がいったことでしょう。なのに、わたくしのために・・・本当にありがとうございました」
「そ、そんな・・・」

頭を下げるエレアーナに対し、恐縮しつつも、どこか罪悪感を含む表情のカトリアナに、アリエラは一旦、口を開きかけ、そしてまた噤んだ。

そして、帰り道の馬車の中。
詳しく事情を聞いたアリエラが、少し呆れ気味の声を出す。

「・・・よくまぁ、殿下にそこまではっきりと申し上げたものね」
「ええ、本当に・・・自分でも驚いています・・・」

アリエラは馬車の窓枠に頬杖をつき、外を眺めながら、ふうと軽く息を吐いた。

「でも、夜会でお会いしたときに、殿下の顔色が沈んでいた訳が分かったわ。・・・籠の鳥のような状況に置かれたエレアーナさまのことで、自責の念を抱いておられたのね」
「ええ・・・」
「殿下らしいこと」

そう言って、困ったように、ふふ、と笑う。

それから、カトリアナに視線を向けて。

「それから、あなたもね。カトリアナ」
「え? わたくしが何か?」
「あきらめるなって殿下の背中を押しに行くなんて、あなたらしいわ。・・・とっても」

そう言って、目を細めた。
でも、カトリアナは、少し困ったような顔をして。

「・・・わたくし、あのとき殿下のことしか頭になくて・・・。だから、エレアーナさまからお礼をいわれたとき、なんだか苦しかったんです。エレアーナさまのことを思う余裕もなかった、ただ殿下のお心を楽にして差し上げたいと、ただそれだけで・・・」
「いいんじゃないかしら、それで」
「・・・え?」

カトリアナが、不思議そうに目を瞬く。
可愛い妹を見つめながら、アリエラはにっこりと微笑んだ。

「エレアーナさまは、殿下を心配なさってたのよ。そして、あなたはそのエレアーナさまに代わって、殿下を叱り飛ばしてあげたんだもの。エレアーナさまは、間違いなく嬉しかったはずよ」
「そ、うでしょうか・・・」
「そうに決まってるわ。だからアイスケルヒさまは、あなたのことをエレアーナさまの良い友人だっておっしゃったんじゃないの」

そう言うと、アリエラは優しく妹の肩に手を置いた。

「自信を持ちなさいな、カトリアナ・マスカルバーノ。あなたはアイスケルヒさまに烈女と称えられたのよ?」
「えぇ・・称えたんですかね・・・?」
「今回は100パーセント称えてるわ。わたくしも吃驚だもの。こんなに引っ込み思案でおとなしいあなたが、サロンを飛び出して、馬車に乗ろうとする殿下をとっ捕まえて説教するなんて」
「いえ、それ・・・やっぱり、称えてないですよね・・・?」
「何言ってるの。100パーセント誉め言葉よ。わたくしを信じなさい」

うう、と微妙な表情で唸る妹を温かい目で見守りながら、アリエラは、はた、とあることに気づいた。

「あら、いけない。なんだかバタバタしてしまって、バークリー先生の伝言を言いそびれてしまったわ」
「え? ああ、足りない薬草があるから伺いたいと仰ってた・・・」
「仕方ないわ。次にお会いできた時にお伝えしましょう。子どもたちのお薬の話だから、今度は忘れないようにしないとね」
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