69 / 256
遠くからこそ見えるもの
しおりを挟む
まず、殿下の護衛として最初に言い訳させてもらう。
オレね、カトリアナ嬢に頼まれてたから、ちゃんと距離は取ってたんだよ。
かなり、後ろに下がってたしさ。
でもさ、結構、あの令嬢の声が大きかったんだ。
だってもう、一生懸命に、必死に、殿下に訴えてたもんだから。
ハイ、そうなんです。
つまり聞こえちゃいました。全部。
・・・でも、正直カトリアナ嬢が、あんなに殿下の気持ちがわかってるとは思ってもいなかった。
だから、カトリアナ嬢が口を開いた時、本当に驚いたんだ。
自分から諦めようとしないでって。
何故、自分からエレアーナ嬢の手を放そうとするのかって。
そう、必死に訴えて。
ああ、よくぞ言ってくれたって。
そう思ったんだ。
・・・最近の殿下のご様子を見ていて、オレも同じ気持ちだったから。
図星を指された殿下は、案の定、その言葉に何も返すことが出来なくて。
でも、カトリアナ嬢は、殿下が黙り込んだくらいじゃ怯まなくて。
更に言葉を重ねて。
そんなに好きなのに、自分から終わらるようなことをするなって、叱ってくれた。
エレアーナ嬢が好きで堪らない、その気持ちを否定するなって、怒ってくれたんだ。
真っ赤な顔で、涙目になって、肩を震わせながら、怒ってくれた。
・・・それもきっと、すべては殿下のために。
殿下の心を、軽くするために。
あの子は、凄く殿下のことを理解ていて。
今回のことで殿下が抱えていた、ケインへのコンプレックスも、エレアーナ嬢に感じていた引け目も、何もかもお見通しで。
だから、あんな言葉が言えたんだと思う。
殿下に一番必要な言葉で。
殿下が一番要らないと思っていた言葉。
レオンハルト王太子殿下がケインバッハに劣る筈はないって。
たとえ、今、エレアーナ嬢が置かれている状況が、殿下の婚約者選びが発端になって起きたことだとしても、それは殿下の想いとは関係がないって。
そう言って、殿下の心を縛っていた枷を、解いてくれた。
メンタルは結構強いくせに、自分に厳しすぎて際限なく自らを追い込んでしまう心優しき殿下の、心の枷を。
そうして、好きで堪らないのに、罪悪感で一杯になってエレアーナ嬢の側にいることも出来なくなっていた殿下を、救ってくれた。
うっわー、もの凄い良い子じゃんって、後ろで聞いてたオレの方が泣きそうになったくらい。
それにしても、あんだけはっきりきっぱり言っておいて、後で我に返って恐縮しまくってたのは、なかなか可愛かった。
後ろで笑いを堪えるの、結構大変だったんだよ。
まぁ、殿下は実際に笑ってたけど。
オレは紳士だからね、ちゃんと堪えたよ。
確かに、自国の王太子殿下を叱りつけるなんて、普通だったら不敬罪に当たるんだろうけどさ。
でも殿下は、あの言葉を誰かに言ってもらうことが必要だった。
なのにそれは、オレが言っても、ケインが言っても、たとえエレアーナ嬢が言ったとしても、きっと殿下には届かなかった言葉だったから。
だからこそ、オレたちの中の誰ひとり、気づいていても言うことが出来なかった言葉でもあって。
決して近しい間柄ではない、一定の距離感のある、只の知り合いのご令嬢からの言葉だったからこそ、殿下の心に届いたんだと思う。
あの後、馬車での帰り道、殿下はずっと考え込んでいて。
一言も話さずに、ただじっと窓から外の景色を見ていた。
でも、今までとは違う沈黙で。
どこか前向きで明るくて。
あの綺麗な紫の眼は、もう俯いてはいなかった。
まっすぐに、前を向いていたから。
ああ、きっと、もう、大丈夫だ。
そう思えた。
だから、カトリアナ嬢には感謝しかない。
あんな風に、殿下の背中を押してくれて。
エレアーナ嬢を好きでいても大丈夫だ、頑張れって、言ってくれて。
あんなこと、普通なかなか出来ない。
本当に、・・・本当に、立派な令嬢だと思う。
だって、オレは知ってる。
オレは殿下の護衛として、いつもそばに控えてたから。
知ってるんだ。
あの令嬢が。
カトリアナ嬢が、いつも殿下の姿を目で追っていたことを。
いつも嬉しそうに、そして少し切なそうに、殿下とエレアーナ嬢が並んで話す姿を見つめていたことを。
オレね、カトリアナ嬢に頼まれてたから、ちゃんと距離は取ってたんだよ。
かなり、後ろに下がってたしさ。
でもさ、結構、あの令嬢の声が大きかったんだ。
だってもう、一生懸命に、必死に、殿下に訴えてたもんだから。
ハイ、そうなんです。
つまり聞こえちゃいました。全部。
・・・でも、正直カトリアナ嬢が、あんなに殿下の気持ちがわかってるとは思ってもいなかった。
だから、カトリアナ嬢が口を開いた時、本当に驚いたんだ。
自分から諦めようとしないでって。
何故、自分からエレアーナ嬢の手を放そうとするのかって。
そう、必死に訴えて。
ああ、よくぞ言ってくれたって。
そう思ったんだ。
・・・最近の殿下のご様子を見ていて、オレも同じ気持ちだったから。
図星を指された殿下は、案の定、その言葉に何も返すことが出来なくて。
でも、カトリアナ嬢は、殿下が黙り込んだくらいじゃ怯まなくて。
更に言葉を重ねて。
そんなに好きなのに、自分から終わらるようなことをするなって、叱ってくれた。
エレアーナ嬢が好きで堪らない、その気持ちを否定するなって、怒ってくれたんだ。
真っ赤な顔で、涙目になって、肩を震わせながら、怒ってくれた。
・・・それもきっと、すべては殿下のために。
殿下の心を、軽くするために。
あの子は、凄く殿下のことを理解ていて。
今回のことで殿下が抱えていた、ケインへのコンプレックスも、エレアーナ嬢に感じていた引け目も、何もかもお見通しで。
だから、あんな言葉が言えたんだと思う。
殿下に一番必要な言葉で。
殿下が一番要らないと思っていた言葉。
レオンハルト王太子殿下がケインバッハに劣る筈はないって。
たとえ、今、エレアーナ嬢が置かれている状況が、殿下の婚約者選びが発端になって起きたことだとしても、それは殿下の想いとは関係がないって。
そう言って、殿下の心を縛っていた枷を、解いてくれた。
メンタルは結構強いくせに、自分に厳しすぎて際限なく自らを追い込んでしまう心優しき殿下の、心の枷を。
そうして、好きで堪らないのに、罪悪感で一杯になってエレアーナ嬢の側にいることも出来なくなっていた殿下を、救ってくれた。
うっわー、もの凄い良い子じゃんって、後ろで聞いてたオレの方が泣きそうになったくらい。
それにしても、あんだけはっきりきっぱり言っておいて、後で我に返って恐縮しまくってたのは、なかなか可愛かった。
後ろで笑いを堪えるの、結構大変だったんだよ。
まぁ、殿下は実際に笑ってたけど。
オレは紳士だからね、ちゃんと堪えたよ。
確かに、自国の王太子殿下を叱りつけるなんて、普通だったら不敬罪に当たるんだろうけどさ。
でも殿下は、あの言葉を誰かに言ってもらうことが必要だった。
なのにそれは、オレが言っても、ケインが言っても、たとえエレアーナ嬢が言ったとしても、きっと殿下には届かなかった言葉だったから。
だからこそ、オレたちの中の誰ひとり、気づいていても言うことが出来なかった言葉でもあって。
決して近しい間柄ではない、一定の距離感のある、只の知り合いのご令嬢からの言葉だったからこそ、殿下の心に届いたんだと思う。
あの後、馬車での帰り道、殿下はずっと考え込んでいて。
一言も話さずに、ただじっと窓から外の景色を見ていた。
でも、今までとは違う沈黙で。
どこか前向きで明るくて。
あの綺麗な紫の眼は、もう俯いてはいなかった。
まっすぐに、前を向いていたから。
ああ、きっと、もう、大丈夫だ。
そう思えた。
だから、カトリアナ嬢には感謝しかない。
あんな風に、殿下の背中を押してくれて。
エレアーナ嬢を好きでいても大丈夫だ、頑張れって、言ってくれて。
あんなこと、普通なかなか出来ない。
本当に、・・・本当に、立派な令嬢だと思う。
だって、オレは知ってる。
オレは殿下の護衛として、いつもそばに控えてたから。
知ってるんだ。
あの令嬢が。
カトリアナ嬢が、いつも殿下の姿を目で追っていたことを。
いつも嬉しそうに、そして少し切なそうに、殿下とエレアーナ嬢が並んで話す姿を見つめていたことを。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~
景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」
「……は?」
そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!?
精霊が作りし国ローザニア王国。
セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。
【寝言の強制実行】。
彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。
精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。
そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。
セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。
それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。
自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!!
大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。
すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる