【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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賢者からの贈り物

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その後、エレアーナたちは、国王の言葉を受け、別室へと向かっていた。

渡すものがある、そう告げられて。

指示された部屋の扉を開けると、そこには王と共にシュタインゼン・ダイスヒル、そしてルシウスとリュークザインもいた。

シュタインゼンは、並び立つケインバッハとエレアーナを見て、なにやら嬉しそうだ。

「これはこれは、今夜は一段と綺麗だねぇ。ファーストダンスは上手に踊れたかい? 未来の私の義娘むすめさん」

未来の義娘むすめ、という言葉に反応して頰を染めるエレアーナだったが、それにも増して赤くなったのはケインバッハだ。

これまで何をしても無表情だった息子が、エレアーナに関する事では色々と表情が変化するため、面白がった父親からこうして会うたびにオモチャにされる。

「・・・何故、父上がここに?」
「嫌だなぁ、そんなに嫌そうな顔をしないでよ。私はお前の父親じゃないか。ほら、ルシウスたちも同じく呼ばれているだろう?」

ケインは、二人に軽く会釈をしてから、周囲を見回し「それではシュリエラ嬢も?」と聞き返した。

「ああ、今、ライナスバージに呼びに行ってもらってる」

その言葉通り、程なくしてシュリエラもやって来たところで、シャールベルムは息子のレオンハルトに、箱を二つ持ってこさせた。

「これを、そなたたちにと」

そう言って、二人に箱を手渡した。
それは、両掌に収まるほどの大きさで、光沢のある柔らかな布地で包まれていた。

「開けてみよ」

言われるがままに布を解くと、中からは周りに彫刻が施された木箱が現れた。

そっと蓋を開ける。

「・・・?」

木箱の中にあったのは、一輪の花。
それは見覚えのある薄紫色の花だった。

「これは・・・」
「あの時の花?」

エレアーナの呟きと、シュリエラの言葉が重なる。

シュリエラから送られたリースに使われていた花。
賢者くずれの来訪を探知してくれたリースの花だ。

「これは・・・もしや賢者さまが?」

エレアーナの問いに、シャールベルムが頷く。

「今朝がた、王城に届けられたのだ。そなたたち二人にあてたその箱も中に入っておってな。日付が日付だけに、今夜の夜会で渡すように、という事だろうと考え、ここに来てもらった訳だ」

そう言って、シャールベルムは穏やかな笑みを浮かべた。

「デビュタントのことなど知る筈もないのに、賢者さまは何でもお見通しだな。相変わらず不思議なお方だ」

どこか懐かしそうに、呟いた。

エレアーナの命を救った花。
シュリエラがリースに差し込んで送った花。

手紙も何もない、一輪だけ贈られたきた薄紫色のその花が、ラファイエラスとの特別な絆を約束してくれているようで。

ただただ花を見つめるだけで、二人は何も言葉に出来なかった。

「ワイジャーマさまから花を贈られた者など、世界広しと言えども、そなたたちくらいしかおらぬだろう。・・・愛されているのだな」

国王陛下は、笑いながらそう言った。

今、この場にいる者たちは皆、ラファイエラスに助けられた者たちばかり。
だが、多少天邪鬼なところのある彼は、碌に感謝の言葉も言わせぬまま去ってしまって。

寂しさも癒えぬまま日々を過ごす中、デビュタントの日に贈られてきた一輪の花に、改めて偉大なる賢者の優しさを感じることになった。

そして、賢者に関しては不思議なことがもう一つ。

賢者から贈られた花は、いつまで経っても枯れることがなかった。

ラファイエラスの力によるのだろう、花弁の一片すら落ちることなく、いつまでも美しく咲き続けた。

時を超えて咲き続けるその花は、後に『賢者の花』として代々受け継がれる家宝となる。

だが、それは後代になってからの話で。
今夜、それを受け取ったばかりの二人は、そのことを知る由もない。



邸へと戻る馬車の中、エレアーナはずっと贈り物の花を眺めていた。
そんな婚約者の姿を、ケインバッハも笑みを浮かべて見守っている。

「嬉しそうだな、エレアーナ嬢」
「ええ、とても嬉しいのです。この花を見ていると、なんだかラファイエラスさまに見守られているような気がしますの」

花を見つめるその眼は、優し気に揺れている。

「このお花の名前は、いくら調べても分からなかったのです。本にも図鑑にも載っていなくて、最後には学者さまの所にまで伺ったのですが、やはり何も分からずじまいでしたのよ」

そこで言葉が途切れ、エレアーナの口元が綺麗な弧を描く。

「もしかしたら、何か秘密の・・・賢者さまの特別な花なのかもしれませんわ」

エレアーナの言葉に、改めてその手にある花に視線を落とす。
不思議なことに、ベトエルルから贈られた頃よりずっと箱の中に入れられたままだというのに、その花は生き生きとしたまま萎れる気配もない。

まるで、今もしっかりと根を張り、大地とつながっているかのようで。

「・・・ああ、そうなのかもしれないな。きっと、賢者さまは世にも珍しい贈り物をしてくださったのだ」
「ええ、わたくしもそう思います」

薄紫色の一輪の花。

それはエレアーナたちとラファイエラスとを繋ぐ絆でもあり、大切な思い出でもあり。

「わたくしの宝物にしますわ」

まだ花の秘密も知らないうちから、エレアーナはこの花を自分の一生の宝とすることを誓った。
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