【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
113 / 256

お前はその道を選ぶのか

しおりを挟む
「全くお前という男は。他人に興味などありません、という顔をしながら、その実、誰よりも気にかけているのだからな。損な性格だ」
「・・・ライプニヒ家の闇を一人で背負っていた男に言われたくはないな」

デュールを傾けながら、互いに言葉の応酬を楽しむ二人の姿があった。
ベルフェルト・エイモスとリュークザイン・ライプニヒだ。

今や、それぞれの家の滅門の危機を乗り越え、ミハイルシュッツの下、諜報機関のトップに立つ二人だが、リュークザインには目下の心配事があった。

それは、ほかならぬベルフェルトのことだ。

親戚筋でもある二人は幼いころから何かと行動を共にする機会が多かったが、それでもどこか一定の距離を互いに置いていた。

それは恐らく、自家の抱えていた危うさを幼心にも感じ取っていたからで。
何か起きた際に他家を巻き込むことのないように、と、無意識のうちにかけていたブレーキのようなものであったのかもしれない。

やがて二人はミハイルシュッツに見いだされ、有能な諜報員としてめきめきと頭角を現していく。
そうしてワイジャーマの助けもあり、自家の反乱の種を取り除くことにも成功した今、ようやく平穏な生活を楽しめる時期が来たというのに。

ベルフェルトは、今も自分を敢えて危険な立場に置こうとしている。
しかも、私の安全を図るために画策までして。

リュークザインは、そう考えていた。

「何故、私が表向きのトップにならねばならないのだ。いつのまにやら王弟殿下と話をつけおって」
「向いているからさ。そう睨みつけるな、ただそれだけだよ。他に理由などある筈もなかろう?」
「私である必要はない。むしろお前の方が向いている。そうだ、お前がやればいい」
「オレは裏でこそこそ策を弄する方が向いているのさ。部下への配慮も細やかで観察眼の鋭いお前こそ適任だろうが」

・・・相変わらず人を食ったような言い方ばかりだな。

「まさか、そんな理由で暗部の長に就きたかったわけではあるまいな?」
「はは、まさかのその理由だ。オレほどの適任者はいまい?」

くっと片方の口角を引き上げて笑う。

空になったグラスの中で、カラン、と氷がぶつかる音が響いた。

リュークザインは、この男ほど機転の利く奴を知らない。

変装が上手く、あらゆる場所にすっと溶け込んで。
細身の体から受ける印象とは真逆の腕っぷしの強さを持つ。

必要とあらば口八丁で相手を丸め込み。
正面攻撃も搦め手も得意で。

・・・だからといって、お前がわざわざ汚れ役を引き受ける理由にはならないのに。

どれだけの意地を張るつもりでいるのか、こいつは先日、暗部の長の座をミハイルシュッツさまに志願したのだ。

渋るミハイルシュッツさまを強硬に説得して。
盟友である筈の私だけを、安全な表舞台に連れ出して。

「・・・私たちは運命共同体だった筈だろう。何故、お前ひとりが泥をかぶろうとするのだ?」
「羨ましいのか? 譲ってはやらんぞ」
「行くのなら私も連れて行けと言っている」
「おやおや、熱烈な口説き文句だな。どうやらオレは男にもモテるらしい。まあ、この美貌だ、それも仕方ないと言えば仕方ない」
「・・・ベルフェルト」

どうしてお前は、自分には優しくしない?
お前は、幸せになっていい人間だろう。

私の眼に宿る苛立ちを見て取ったのか、ふ、と笑むとデュールの瓶を手に取りグラスに注ぐ。

「そう怒りなさんな、我が友よ。単に適性の問題なのだからな」
「ベル、お前は・・・」
「ラファイエラスさまを見て思ったのだよ」

ベルフェルトは私の言葉を遮り、グラスに口をつけると、言葉を継いだ。

「お前が一番よく知っているだろう、あのお方のことを。・・・あの方は、とてつもなく優しい。そして、汚れ役を進んで引き受ける方でもあった。さも何でもない事のような振りをしながら、嫌な役目をさらりとこなして」

その眼は懐かしさで細められ、口元も自然と綻んで。
懐かしい名に、それまで強張っていた自分の体も、ふっとほぐれていく。

「ああ、勿論、よく覚えているとも。我らの恩人でもあるのだからな」

私を救い、シュリエラを救い、ライプニヒ家の家門を救ってくださった。
デュールを少しずつ口に含んでいたベルフェルトは、ことり、と音をたててグラスをテーブルに置いた。

「あの方はな、オレにも聞いてくださったのだよ。『お前は大丈夫なのか』と。『バカ親父との決着をつけられるか』とな」
「・・・」
「恐らくは手を貸して下さるおつもりだったのだろうよ。・・・だがオレは断った。もうあの方は十二分にこの国のために動いてくださっていたからな」
「ベル」
「オレは嬉しかったのだよ」

とくとく、とデュールを注ぐ音が、室内に響いた。

「あの方の存在に震えた。嬉しくて、感動してしまってな。・・・おかしいだろう? このオレが、そんな感情を持つなんて」
「おかしい事なんてあるか」
「あの方には到底かなわない。なにせ賢者さまだからな、そもそも持っている実力が違う。・・・だがな、その真似事でもいいからやってみたいのだよ。いや、やってみたくなったのだよ。己の手を汚してでも、誰かを助けるという行為を」
「それで、なのか。今も縁談を断り続け、遊び人の風を装っているのは」

私の言葉に、いつもの人を食ったような笑みを浮かべる。

「仕事柄、人の恨みも多く買っているからな。守り切れる自信がない」
「エイモス家の当主はお前だ。他に継げる兄弟もいないのを忘れるな」
「・・・後継者は必要だが、それが今である必要はない。まあ、いずれ良き相手に恵まれるかもしれんし・・・そうだな、あるいは養子をもらってもいいのではないか?」

お前は昔からそういう奴だった。

優しすぎて、苦しんでいる人たちを見てられなくて、すぐに自分を犠牲にしてしまうのだ。

「そんな顔をしてくれるな。我が友よ」

苦笑しながらグラスに口をつける友の姿は、どこか自信に溢れていて。

だからだろうか。
こんな風に思ったりもしたのだ。

そんなお前の優しい志を犠牲という一言で片づけては失礼なのかもしれない、と。

「・・・そうか、お前はその道を選ぶのか」
「はは、だからといって油断するなよ。こんなことを言っておいて、お前より先に結婚するかもしれんぞ。案外、すぐにでもオレの運命の相手が現れたりしてな」

ベルの出まかせに笑いながら、一気にデュールを呷る。

なるほど。
お前がそこまで腹を括ったのであれば、私は応援するしかないのだろうな。

ラファイエラスさまは幸せそうなお顔をしてらしたし、今のお前も、そうだな、物凄く幸せそうに私には見えるのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...