【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
114 / 256

移ろいゆくもの

しおりを挟む
婚約者となってから、ケインさまは週に一回、ブライトン邸を訪れてくれる。

それは以前と似た風景のようで、でもまったく異なるもの。

彼の傍にいた筈の人が今はいないから。

当たり前といえば、それで終わってしまう事なのだけれど、
もう子どもではなくなって、恋をした当然の結果ではあるのだけれど。

何も知らなかった頃には、戻れない。
戻りたいとも思わない。

でも、あの時にしか掴むことが出来なかった瞬間は、確かにあったから。

ときに懐かしく、ときに切なくなりながらも、私たちは前に進んでいくのだ。

「エレアーナ?」

目の前の愛しい人が、微笑みかけてくれる。

「どうかしたか? ぼんやりして」
「いえ、少し・・・思い出しておりましたの。皆で集まっていた、あの頃のことを」

殿下だけではない。
親しい友人たちとも、今はなかなか頻繁に会う時間が取れず、社交の場でようやく言葉を交わせることも珍しくない。

アリエラさまは結婚の準備でお忙しい。
でも兄の婚約者だから邸に来られる折にお顔を拝見できることもあるけれど。

カトリアナさまは、いよいよお妃教育が始まり、ほぼ毎日王城に通い詰めだ。

シュリエラさまは婚約者のいる私に気遣って、偶にしか訪ねて来ない。

分かってはいる。
納得もしている。

不満もない。
ただ、時の移ろいというものを感じているだけ。
好きなことだけをしていれば良かった時期が終わっただけ。

「・・・半年後には、アリエラさまをお義姉さまとお呼びしているのですね」
「そうだな」
「この邸もきっと華やぐことでしょう。アリエラさまは、とても明るくてお優しい方ですから」
「マスカルバーノ家は暫くの間大忙しだな。アリエラ嬢が結婚した後は、カトリアナ嬢のための準備に取りかからねばならないだろうから」
「・・・確か、カトリアナさまが十六におなりになったら、でしたでしょうか?」
「ああ、そう聞いている。それでも、待ちきれないとレオンはぼやいていたが」
「ふふ、殿下とカトリアナさまは、仲が良ろしくていらっしゃるから」
「確かに」

本当に、時の移ろいというものは、早くて、あっという間に過ぎ去ってしまう。
皆で集まってわいわいとお喋りに興じていたのが、まるで昨日のことのように感じるのに。

そんな少し物憂い気分になっているときに、ケインさまが、ふ、と顏を綻ばせた。
首を傾げて見ていると「いや、少し不思議で」と言葉を継ぐ。

「俺は一人っ子だからな。半年後には義兄と義姉が出来るのかと思うとどうにも・・・」
「ああ、そうでしたね」
「兄弟はずっと欲しいと思っていたんだ。だが母は体が弱くてな。・・・でも弟でも妹でもなくて、義兄と義姉か。なかなかくすぐったいものだ」
「そうですか? 意外とケインさまは甘え上手だと思いますよ?」
「俺が? 甘え上手?」
「はい」

くすくすと笑うと、不本意そうな表情を浮かべる。

「ご自覚はないかもしれませんね。でも、ケインさまの周りの方々は、皆、ケインさまを喜ばせることしか考えてないように思います」

筆頭は王太子殿下。
そして勿論、ダイスヒル宰相、それにカーン騎士団長やライナスさまも。
ベルフェルトさまの眼差しだって、ケインさまには特別温かい。

シュリエラさまもだ。
恋心ではなく、純粋にケインさまに敬意を払ってくれているのが分かる。

「ケインさまの持たれる魅力の一つなのでしょうね。かく言うわたくしも、魅了された一人にございますが」

そう言って微笑むと、ケインさまは困ったように首を傾げた。

「それはどうだろうか。俺の方が君にすっかり魅了されているというのに」

そう真顔で言われて。
恥ずかしくて思わず、「お戯れを」と、笑って誤魔化そうとしたけれど。

「戯れなどではない」

手をそっと重ねられて。

「俺は君の盾だと、前にも言っただろう。今は命を狙われる危険も去ったが、君を守るためならば死ぬことすら厭わない、その気持ちに変わりはない」
「・・・ありがとうございます。そのお気持ちはとても嬉しいですわ」

そう、嬉しい。でも。

「実際にそうなってしまったら、きっとわたくしも生きてはいられないでしょうけれど」
「エレアーナ・・・」
「貴方がこの世から消えてしまったとしたら、もう生きていても何の甲斐もありませんもの」

重ねられた手に、指を絡める。

「ですから、どうぞお約束くださいませ。もし何かの危険が迫ろうとも、わたくしをお守りくださること、そして貴方も無事に生き抜いてくださることを」
「・・・難易度が上がったな」
「ええ。ですがケインさまならお出来になりますわ。そうでしょう?」

じっとその眼を見つめる。
月を映したような、涼やかな銀色の瞳が私を映す。

「君の頼みだ。どうして断れようか」

絡めた手をすっと口元に引き寄せ、甲に唇を押し当て、彼はそう誓ってくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...