122 / 256
謝罪など別に
しおりを挟む
それはシュリエラがアッテンボローと、ホールで踊っていたときのこと。
「謝罪・・・ですか」
シュリエラは、目の前にいる男の瞳を不思議そうにじっと見つめた。
視線に相手からの苦笑が漏れる。
「助けていただいたのはこちらですのに、貴方さまが謝罪したいとは、一体どういうことなのでしょう?」
「俺のことはアッテンボローと」
「・・・では、アッテンボローさま。貴方がわたくしに謝罪なさりたいとは、何故でしょう?」
「貴女を誤解していたからだ」
アッテンボローの言葉に軽く首を傾げつつも、黙ってその続きを待っている。
「失礼な話だが、貴女のことを権力の座を狙う野心溢れる女性かと邪推していた。それでつい先日、貴女のご友人との友情を軽んじるような発言をして、ライナスにこっぴどく叱られたのだ」
「ライナスさまに?」
「ああ、君は凄く頑張った人だ、と。もの凄い剣幕で怒られた」
「・・・そうなんですの」
そんな会話を交わしながらも、アッテンボローとシュリエラは、華麗にダンスのステップを踏んでいる。
アッテンボローの巧みなリードに従い、シュリエラは軽やかにターンした。
「貴女は、俺と同じで負けず嫌いだそうだな」
「それもライナスさまが?」
「ああ」
気がつくと微かな笑みを浮かべていた。
「その言葉を聞いたら、何故だろうな。どうしても貴女にダンスを申し込みたくなってしまって」
「変わった理由ですのね」
シュリエラが面白そうに答えると、アッテンボローもそれに同意して。
「まあ、こうでもしないと話す機会などないしな。今夜は意を決して、ぶつかってみた訳だ」
「ふふ、大成功ですわね」
「それならば嬉しいが」
「それにしても正直なお方ね。わたくしを悪く言ったことなど、黙っていれば分かりませんのに」
「・・・それでは一生、貴女はオレを知らないままだ」
シュリエラが軽く目を瞠る。
「どこか頭の片隅にでもいい。俺のことを覚えておいてくれないか」
「・・・考えてみますわ」
「ああ、頼む」
そうして曲が終わり、二人の会話も終了した。
シュリエラが友人たちの下へ歩を進めるのを何とはなしに眺めていると、後ろから声がかけられた。
振りかえれば、ケインバッハとエレアーナが並んで立っている。
「やあ、ケインバッハ・ダイスヒル。そしてそちらは確か君の婚約者の・・・」
「エレアーナ・ブライトンですわ。先日は大変お世話になりました。改めてお礼を申し上げたいと思いまして」
「それはどうもご丁寧に」
「シュリエラ嬢と踊っていたようだが、前から知り合いだったのか?」
ケインの問いに、頭を振る。
「つい先日、二度ほど会ったばかりだ。そのうちの一回は君の婚約者殿もご一緒の時だ」
「まぁ、そうですの」
「何故だか、どうにも興味が惹かれてね」
本当に、自分でもよく分からない。
最初は、ほんの小さな、小さな好奇心でしかなかったのに。
あの脆さの見え隠れする強気な態度が。
貴族社会では危うすぎるほどの素直さが。
愚直なまでの不器用さが。
何故か自分と重なって。
次の夜会でダンスでも、なんて、頭の中で呟いていただけのただの軽口だったのに。
いざその姿を目にしたら、つい足が動いて、気がつけば手を差し出していた。
曲の演奏が終わったら、あっさりと離れられてしまうような、知り合いとも言えない浅い関係で。
もう少し側にいたいと思ったのは、どうやら自分だけだったようだと、少しだけ落胆した。
エレアーナは、「興味が惹かれて」というアッテンボローの言葉に少し感心したようで。
軽く小首を傾げ、にっこりと微笑んだ。
「アッテンボローさまもお分かりになりましたのね。シュリエラさまの魅力が」
うんうんと嬉しそうに頷いている。
それまでの印象とは少しズレたどこか幼い仕草に、完璧な淑女だとばかり思っていたアッテンボローは微かに目を瞠った。
ケインはそんな婚約者を、愛おしそうに見つめていて。
そのあまりにも露わな恋心に、少しばかり気が緩む。
「ケインバッハ。君も婚約者の前だと表情が豊かになるんだな」
などと、つい軽口を叩いたりして。
途端に顔を赤らめるケインバッハを見て、なんとも貴重なものを見た気分を味わった。
「ああ、そうだ。一言付け加えさせてもらうが」
去り際に軽い口調で二人に切り出す。
「確かに俺はシュリエラ嬢に興味があるが、だからといって彼女を手に入れようとは思ってはいない」
「え?」
怪訝な表情を浮かべた二人に、誤解を与えることのないよう説明を加える。
「家格が釣り合わないものでね。かたや伝統あるライブニヒ公爵家、かたや数代前にようやく男爵から伯爵になったばかりの成り上がりだ。とてもじゃないが、お姫さまに来て欲しいとは言えない家なんだ」
目の前の二人を見ながら、少し心配になる。
俺は、ちゃんと笑えてるだろうか。
なあ、ライナス。
お前は、俺のことを褒めてくれたよな。
俺が努力の価値を知る男だと。
嬉しかったよ。
嬉しかったけど。
どれだけ努力を重ねても超えられないものはやっぱりあると、俺は思ってしまうんだ。
「謝罪・・・ですか」
シュリエラは、目の前にいる男の瞳を不思議そうにじっと見つめた。
視線に相手からの苦笑が漏れる。
「助けていただいたのはこちらですのに、貴方さまが謝罪したいとは、一体どういうことなのでしょう?」
「俺のことはアッテンボローと」
「・・・では、アッテンボローさま。貴方がわたくしに謝罪なさりたいとは、何故でしょう?」
「貴女を誤解していたからだ」
アッテンボローの言葉に軽く首を傾げつつも、黙ってその続きを待っている。
「失礼な話だが、貴女のことを権力の座を狙う野心溢れる女性かと邪推していた。それでつい先日、貴女のご友人との友情を軽んじるような発言をして、ライナスにこっぴどく叱られたのだ」
「ライナスさまに?」
「ああ、君は凄く頑張った人だ、と。もの凄い剣幕で怒られた」
「・・・そうなんですの」
そんな会話を交わしながらも、アッテンボローとシュリエラは、華麗にダンスのステップを踏んでいる。
アッテンボローの巧みなリードに従い、シュリエラは軽やかにターンした。
「貴女は、俺と同じで負けず嫌いだそうだな」
「それもライナスさまが?」
「ああ」
気がつくと微かな笑みを浮かべていた。
「その言葉を聞いたら、何故だろうな。どうしても貴女にダンスを申し込みたくなってしまって」
「変わった理由ですのね」
シュリエラが面白そうに答えると、アッテンボローもそれに同意して。
「まあ、こうでもしないと話す機会などないしな。今夜は意を決して、ぶつかってみた訳だ」
「ふふ、大成功ですわね」
「それならば嬉しいが」
「それにしても正直なお方ね。わたくしを悪く言ったことなど、黙っていれば分かりませんのに」
「・・・それでは一生、貴女はオレを知らないままだ」
シュリエラが軽く目を瞠る。
「どこか頭の片隅にでもいい。俺のことを覚えておいてくれないか」
「・・・考えてみますわ」
「ああ、頼む」
そうして曲が終わり、二人の会話も終了した。
シュリエラが友人たちの下へ歩を進めるのを何とはなしに眺めていると、後ろから声がかけられた。
振りかえれば、ケインバッハとエレアーナが並んで立っている。
「やあ、ケインバッハ・ダイスヒル。そしてそちらは確か君の婚約者の・・・」
「エレアーナ・ブライトンですわ。先日は大変お世話になりました。改めてお礼を申し上げたいと思いまして」
「それはどうもご丁寧に」
「シュリエラ嬢と踊っていたようだが、前から知り合いだったのか?」
ケインの問いに、頭を振る。
「つい先日、二度ほど会ったばかりだ。そのうちの一回は君の婚約者殿もご一緒の時だ」
「まぁ、そうですの」
「何故だか、どうにも興味が惹かれてね」
本当に、自分でもよく分からない。
最初は、ほんの小さな、小さな好奇心でしかなかったのに。
あの脆さの見え隠れする強気な態度が。
貴族社会では危うすぎるほどの素直さが。
愚直なまでの不器用さが。
何故か自分と重なって。
次の夜会でダンスでも、なんて、頭の中で呟いていただけのただの軽口だったのに。
いざその姿を目にしたら、つい足が動いて、気がつけば手を差し出していた。
曲の演奏が終わったら、あっさりと離れられてしまうような、知り合いとも言えない浅い関係で。
もう少し側にいたいと思ったのは、どうやら自分だけだったようだと、少しだけ落胆した。
エレアーナは、「興味が惹かれて」というアッテンボローの言葉に少し感心したようで。
軽く小首を傾げ、にっこりと微笑んだ。
「アッテンボローさまもお分かりになりましたのね。シュリエラさまの魅力が」
うんうんと嬉しそうに頷いている。
それまでの印象とは少しズレたどこか幼い仕草に、完璧な淑女だとばかり思っていたアッテンボローは微かに目を瞠った。
ケインはそんな婚約者を、愛おしそうに見つめていて。
そのあまりにも露わな恋心に、少しばかり気が緩む。
「ケインバッハ。君も婚約者の前だと表情が豊かになるんだな」
などと、つい軽口を叩いたりして。
途端に顔を赤らめるケインバッハを見て、なんとも貴重なものを見た気分を味わった。
「ああ、そうだ。一言付け加えさせてもらうが」
去り際に軽い口調で二人に切り出す。
「確かに俺はシュリエラ嬢に興味があるが、だからといって彼女を手に入れようとは思ってはいない」
「え?」
怪訝な表情を浮かべた二人に、誤解を与えることのないよう説明を加える。
「家格が釣り合わないものでね。かたや伝統あるライブニヒ公爵家、かたや数代前にようやく男爵から伯爵になったばかりの成り上がりだ。とてもじゃないが、お姫さまに来て欲しいとは言えない家なんだ」
目の前の二人を見ながら、少し心配になる。
俺は、ちゃんと笑えてるだろうか。
なあ、ライナス。
お前は、俺のことを褒めてくれたよな。
俺が努力の価値を知る男だと。
嬉しかったよ。
嬉しかったけど。
どれだけ努力を重ねても超えられないものはやっぱりあると、俺は思ってしまうんだ。
20
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる