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謝罪など別に
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それはシュリエラがアッテンボローと、ホールで踊っていたときのこと。
「謝罪・・・ですか」
シュリエラは、目の前にいる男の瞳を不思議そうにじっと見つめた。
視線に相手からの苦笑が漏れる。
「助けていただいたのはこちらですのに、貴方さまが謝罪したいとは、一体どういうことなのでしょう?」
「俺のことはアッテンボローと」
「・・・では、アッテンボローさま。貴方がわたくしに謝罪なさりたいとは、何故でしょう?」
「貴女を誤解していたからだ」
アッテンボローの言葉に軽く首を傾げつつも、黙ってその続きを待っている。
「失礼な話だが、貴女のことを権力の座を狙う野心溢れる女性かと邪推していた。それでつい先日、貴女のご友人との友情を軽んじるような発言をして、ライナスにこっぴどく叱られたのだ」
「ライナスさまに?」
「ああ、君は凄く頑張った人だ、と。もの凄い剣幕で怒られた」
「・・・そうなんですの」
そんな会話を交わしながらも、アッテンボローとシュリエラは、華麗にダンスのステップを踏んでいる。
アッテンボローの巧みなリードに従い、シュリエラは軽やかにターンした。
「貴女は、俺と同じで負けず嫌いだそうだな」
「それもライナスさまが?」
「ああ」
気がつくと微かな笑みを浮かべていた。
「その言葉を聞いたら、何故だろうな。どうしても貴女にダンスを申し込みたくなってしまって」
「変わった理由ですのね」
シュリエラが面白そうに答えると、アッテンボローもそれに同意して。
「まあ、こうでもしないと話す機会などないしな。今夜は意を決して、ぶつかってみた訳だ」
「ふふ、大成功ですわね」
「それならば嬉しいが」
「それにしても正直なお方ね。わたくしを悪く言ったことなど、黙っていれば分かりませんのに」
「・・・それでは一生、貴女はオレを知らないままだ」
シュリエラが軽く目を瞠る。
「どこか頭の片隅にでもいい。俺のことを覚えておいてくれないか」
「・・・考えてみますわ」
「ああ、頼む」
そうして曲が終わり、二人の会話も終了した。
シュリエラが友人たちの下へ歩を進めるのを何とはなしに眺めていると、後ろから声がかけられた。
振りかえれば、ケインバッハとエレアーナが並んで立っている。
「やあ、ケインバッハ・ダイスヒル。そしてそちらは確か君の婚約者の・・・」
「エレアーナ・ブライトンですわ。先日は大変お世話になりました。改めてお礼を申し上げたいと思いまして」
「それはどうもご丁寧に」
「シュリエラ嬢と踊っていたようだが、前から知り合いだったのか?」
ケインの問いに、頭を振る。
「つい先日、二度ほど会ったばかりだ。そのうちの一回は君の婚約者殿もご一緒の時だ」
「まぁ、そうですの」
「何故だか、どうにも興味が惹かれてね」
本当に、自分でもよく分からない。
最初は、ほんの小さな、小さな好奇心でしかなかったのに。
あの脆さの見え隠れする強気な態度が。
貴族社会では危うすぎるほどの素直さが。
愚直なまでの不器用さが。
何故か自分と重なって。
次の夜会でダンスでも、なんて、頭の中で呟いていただけのただの軽口だったのに。
いざその姿を目にしたら、つい足が動いて、気がつけば手を差し出していた。
曲の演奏が終わったら、あっさりと離れられてしまうような、知り合いとも言えない浅い関係で。
もう少し側にいたいと思ったのは、どうやら自分だけだったようだと、少しだけ落胆した。
エレアーナは、「興味が惹かれて」というアッテンボローの言葉に少し感心したようで。
軽く小首を傾げ、にっこりと微笑んだ。
「アッテンボローさまもお分かりになりましたのね。シュリエラさまの魅力が」
うんうんと嬉しそうに頷いている。
それまでの印象とは少しズレたどこか幼い仕草に、完璧な淑女だとばかり思っていたアッテンボローは微かに目を瞠った。
ケインはそんな婚約者を、愛おしそうに見つめていて。
そのあまりにも露わな恋心に、少しばかり気が緩む。
「ケインバッハ。君も婚約者の前だと表情が豊かになるんだな」
などと、つい軽口を叩いたりして。
途端に顔を赤らめるケインバッハを見て、なんとも貴重なものを見た気分を味わった。
「ああ、そうだ。一言付け加えさせてもらうが」
去り際に軽い口調で二人に切り出す。
「確かに俺はシュリエラ嬢に興味があるが、だからといって彼女を手に入れようとは思ってはいない」
「え?」
怪訝な表情を浮かべた二人に、誤解を与えることのないよう説明を加える。
「家格が釣り合わないものでね。かたや伝統あるライブニヒ公爵家、かたや数代前にようやく男爵から伯爵になったばかりの成り上がりだ。とてもじゃないが、お姫さまに来て欲しいとは言えない家なんだ」
目の前の二人を見ながら、少し心配になる。
俺は、ちゃんと笑えてるだろうか。
なあ、ライナス。
お前は、俺のことを褒めてくれたよな。
俺が努力の価値を知る男だと。
嬉しかったよ。
嬉しかったけど。
どれだけ努力を重ねても超えられないものはやっぱりあると、俺は思ってしまうんだ。
「謝罪・・・ですか」
シュリエラは、目の前にいる男の瞳を不思議そうにじっと見つめた。
視線に相手からの苦笑が漏れる。
「助けていただいたのはこちらですのに、貴方さまが謝罪したいとは、一体どういうことなのでしょう?」
「俺のことはアッテンボローと」
「・・・では、アッテンボローさま。貴方がわたくしに謝罪なさりたいとは、何故でしょう?」
「貴女を誤解していたからだ」
アッテンボローの言葉に軽く首を傾げつつも、黙ってその続きを待っている。
「失礼な話だが、貴女のことを権力の座を狙う野心溢れる女性かと邪推していた。それでつい先日、貴女のご友人との友情を軽んじるような発言をして、ライナスにこっぴどく叱られたのだ」
「ライナスさまに?」
「ああ、君は凄く頑張った人だ、と。もの凄い剣幕で怒られた」
「・・・そうなんですの」
そんな会話を交わしながらも、アッテンボローとシュリエラは、華麗にダンスのステップを踏んでいる。
アッテンボローの巧みなリードに従い、シュリエラは軽やかにターンした。
「貴女は、俺と同じで負けず嫌いだそうだな」
「それもライナスさまが?」
「ああ」
気がつくと微かな笑みを浮かべていた。
「その言葉を聞いたら、何故だろうな。どうしても貴女にダンスを申し込みたくなってしまって」
「変わった理由ですのね」
シュリエラが面白そうに答えると、アッテンボローもそれに同意して。
「まあ、こうでもしないと話す機会などないしな。今夜は意を決して、ぶつかってみた訳だ」
「ふふ、大成功ですわね」
「それならば嬉しいが」
「それにしても正直なお方ね。わたくしを悪く言ったことなど、黙っていれば分かりませんのに」
「・・・それでは一生、貴女はオレを知らないままだ」
シュリエラが軽く目を瞠る。
「どこか頭の片隅にでもいい。俺のことを覚えておいてくれないか」
「・・・考えてみますわ」
「ああ、頼む」
そうして曲が終わり、二人の会話も終了した。
シュリエラが友人たちの下へ歩を進めるのを何とはなしに眺めていると、後ろから声がかけられた。
振りかえれば、ケインバッハとエレアーナが並んで立っている。
「やあ、ケインバッハ・ダイスヒル。そしてそちらは確か君の婚約者の・・・」
「エレアーナ・ブライトンですわ。先日は大変お世話になりました。改めてお礼を申し上げたいと思いまして」
「それはどうもご丁寧に」
「シュリエラ嬢と踊っていたようだが、前から知り合いだったのか?」
ケインの問いに、頭を振る。
「つい先日、二度ほど会ったばかりだ。そのうちの一回は君の婚約者殿もご一緒の時だ」
「まぁ、そうですの」
「何故だか、どうにも興味が惹かれてね」
本当に、自分でもよく分からない。
最初は、ほんの小さな、小さな好奇心でしかなかったのに。
あの脆さの見え隠れする強気な態度が。
貴族社会では危うすぎるほどの素直さが。
愚直なまでの不器用さが。
何故か自分と重なって。
次の夜会でダンスでも、なんて、頭の中で呟いていただけのただの軽口だったのに。
いざその姿を目にしたら、つい足が動いて、気がつけば手を差し出していた。
曲の演奏が終わったら、あっさりと離れられてしまうような、知り合いとも言えない浅い関係で。
もう少し側にいたいと思ったのは、どうやら自分だけだったようだと、少しだけ落胆した。
エレアーナは、「興味が惹かれて」というアッテンボローの言葉に少し感心したようで。
軽く小首を傾げ、にっこりと微笑んだ。
「アッテンボローさまもお分かりになりましたのね。シュリエラさまの魅力が」
うんうんと嬉しそうに頷いている。
それまでの印象とは少しズレたどこか幼い仕草に、完璧な淑女だとばかり思っていたアッテンボローは微かに目を瞠った。
ケインはそんな婚約者を、愛おしそうに見つめていて。
そのあまりにも露わな恋心に、少しばかり気が緩む。
「ケインバッハ。君も婚約者の前だと表情が豊かになるんだな」
などと、つい軽口を叩いたりして。
途端に顔を赤らめるケインバッハを見て、なんとも貴重なものを見た気分を味わった。
「ああ、そうだ。一言付け加えさせてもらうが」
去り際に軽い口調で二人に切り出す。
「確かに俺はシュリエラ嬢に興味があるが、だからといって彼女を手に入れようとは思ってはいない」
「え?」
怪訝な表情を浮かべた二人に、誤解を与えることのないよう説明を加える。
「家格が釣り合わないものでね。かたや伝統あるライブニヒ公爵家、かたや数代前にようやく男爵から伯爵になったばかりの成り上がりだ。とてもじゃないが、お姫さまに来て欲しいとは言えない家なんだ」
目の前の二人を見ながら、少し心配になる。
俺は、ちゃんと笑えてるだろうか。
なあ、ライナス。
お前は、俺のことを褒めてくれたよな。
俺が努力の価値を知る男だと。
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どれだけ努力を重ねても超えられないものはやっぱりあると、俺は思ってしまうんだ。
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