【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
137 / 256

手合わせ

しおりを挟む
流石だな。

ライナスと剣を交えて、素直にそう思った。

鋭い太刀筋、正確な突き、軽快な足さばき。
どれをとっても凄い。

・・・常勝の男だもんな、お前は。

目の前で模造剣を構える男を見つめ、アッテンボローは手元の剣を構え直す。

試合形式の手合わせが始まって、既に五分以上経っている。
が、試合は拮抗していて、今も尚、決着がつかないまま、激しい打ち合いが続いていた。

「・・・はっ・・・」

集中を要する激しい試合内容に、流石に肩が軽く上下する。

だが、これまで常に感じていた煩わしい気負いはない。
そのせいだろうか、体が凄く軽く感じた。

「アッテン。お前、腕あげたな」

汗を拭いもせず、ライナスが呟く。
その口元には微笑が浮かび、何故だかとても嬉しそうだ。

「・・・お前もな」

アッテンボローは腰を低く落とし、地面を蹴ってライナスの懐に飛び込む。
すかさず下から剣を振り上げるが、上段から抑え込まれる。

それを斜め下に流して、横から打ちかかると、返す剣ではじかれる。

「はっ、相変わらず、腹が立つほどの反射神経だな」
「そりゃどーも」

憎まれ口を叩くも、お互い妙に楽しそうだ。

手合わせは夕刻から始まったが、既に日は落ち、辺りは暗くなっている。
各所に設置された松明の灯りだけが、二人を照らしている。

「あー、駄目だ。決着つかないや」

はぁはぁ、と肩で息をしながら、ライナスはばたりと地面に横になる。
アッテンボローも膝を地面につき、呼吸が激しく乱れている。

「・・・どのくらい経った・・・?」
「んー、分かんね。・・・一時間くらい?」
「・・・引き分け、か・・・」
「そだな」

仰向けに寝転がり、もうすでに真っ暗になった空を見上げ、ライナスが笑う。
それにつられて、珍しくアッテンボローも笑みを浮かべている。

「・・・なぁ、ライナス。一つ聞いていいか」
「んー?」
「お前、本当にシュリエラ嬢のこと、何とも思ってないのか」
「ん? いや別に何とも思ってなくはないぞ。あの子、強気で可愛いもんな。あんな妹がいたら面白いだろうなって、思ったりするけど」
「・・・そうか。本当に俺の考えすぎだったんだな」

苦笑を漏らすアッテンボローに、ライナスはきょとんとした目を向ける。

「? 何の話だ?」
「いや・・・」

ライナスは、思わず零れた笑みを噛み殺して誤魔化したアッテンを胡散臭そうに見て、あ、と声を上げる。

「お前な、シュリエラ嬢に告白するんだったら、リュークザインに気をつけろよ」
「リュークザイン? ・・・ライプニヒの現当主か」
「そ。シュリエラ嬢の兄ちゃんだ。あの人、何だかんだ言って家族を大事にしてるから、怒らすとややこしい事になるからな」

ライナスの言葉に、ふむ、と頷いて。

「・・・まだ会ったことがないが、肝に命じとくよ」
「ああ。せいぜい頑張れよ。オレとしては、お前みたいな男だったら安心だけどな」
「・・・お前は」
「ん?」

一瞬、躊躇ったが、アッテンは言葉を継いだ。

「お前は恋人とか、結婚とか、考えないのか?」

その質問は意外だったようで、ライナスは目を丸くしている。

「あー、まぁ、恋人? ・・・はいたらいいな、とは思う時もあるけど。結婚は考えてないかな。ほら、オレ三男だし、爵位も領地もないしね」
「・・・」
「騎士が性に合ってるから、一生独身で騎士やれたらいいなって思ってる」
「・・・そうか」
「従妹との婚約を勧められたこともあったけどさ、なんか、その子も妹にしか思えないんだよねー」

あはは、と明るく笑う。

「殿下やケインみたいな一生の恋ってのにも憧れるけど、そんなのって、そうそうある訳じゃないじゃん? まぁ、幸い、オレは跡継ぎでもないしさ。どうするかは気長に考えるよ」
「そうか」

なんか、コイツらしい。

気負わない考え方に、素直にそう感心した。

「そろそろ寮に戻るか」
「ああ」

暫く夜空を眺めた後、ようやく立ち上がって、鍛錬場を後にした。
寮に戻るまでの道、二人がしたのは他愛もない話ばかりで。

それこそ、好きな食べ物とか、お気に入りの食堂とか、行きつけの道具屋とか。

でも最後に部屋の前で別れる時。
ライナスはアッテンボローの肩を、ぽん、と叩いて。

「お前のは、一生に一度の恋だといいな」

ライナスは、いつもの、あの眩しいばかりの明るい笑顔で、アッテンボローにそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...