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リュークザインの見合いについて その4
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「はぁ・・・」
馬車に乗った瞬間、ラエラは大きな溜息を吐いた。
「良かった。私に触れてもご不快にはならなかったようだわ・・・」
まだ胸の鼓動は収まらないまま。
抱きしめられた時、あんなに近くでリュークザインさまのお顔を見ることになって、心臓が止まってしまうんじゃないかって思ったけど。
「・・・リュークザインさまの頬が少し赤らんで見えたのは、きっと気のせいよね・・・」
思い上がってはいけない。
これは政略結婚なのだ。
リュークザインさまの出した条件に適合する令嬢が、私だった、それだけのこと。
・・・まだ、今は。
「でも思っていた通り、とても真面目な方ね。・・・あんな時でさえも」
触れてくれと頼んだ時の驚愕した顔。
不快な思いをさせないようにと恐る恐る伸ばした手。
大丈夫かと不安気に覗き込む瞳。
「次は、また一週間後・・・ね。恥ずかしいけど、頑張らなくちゃ」
まだ熱の残る頬を両手で抑え、ラエラは静かに呟いた。
◇◇◇
ラエラを見送った後、リュークザインは暫くの間、そこから動けなかった。
呆けていたのである。
・・・柔らかかった。
女性の身体とは、あれほど華奢で柔らかなものだったのか。
身近な家族に女性がいない訳ではない。
母だってシュリエラだっている。
・・・が。
あんな風に抱きしめたことなど、ないものだから。
いや、記憶を遡れば、もしかするとあるのかもしれないが、全く覚えていない。
というか、家族とラエラ嬢とでは、こちらの意識が違ってくるではないか。
いや、待て。意識ってなんだ。意識って。
自分で自分にツッコミを入れながら、前髪をくしゃりとかき上げる。
・・・らしくもない。
何故こうも感情が乱されるのか。
見合い相手の事で頭を悩ませているだなんて、ベルの耳にでも入ったら一生、揶揄われそうだ。
それでも、気を抜くと、つい先ほどの事を思い出してしまう。
抱きしめた時のあの香り。
自分とは全く異なる、細く、華奢な身体。
あれは何かの花の香りだったのだろうか。
再び、抱きしめた時の記憶が蘇り、顔に熱が集まる。
いかん。
ふしだらな眼で彼女を見るようになったら、只の見合い相手に過ぎない私など、きっと軽蔑されてしまう。
最悪、縁談を断られるかもしれない。
それは困る。
それは嫌だ。
彼女は完璧に条件の揃った最高の相手だ。
彼女でなければいけない。
ラエラ嬢でなければ、いや、ラエラ嬢がいいのだ。
はあ、と息を吐いて心を落ち着けて。
次の顔合わせでは、きちんと振る舞わねば、と決意を固めた。
固めていた、のだが。
「・・・失礼。今、何と?」
「口づけをしていただきたい、と、そう申しました」
「・・・」
「・・・」
五回目の顔合わせ。
二人きりの茶会の場に、静寂が降りた。
言われた言葉の意図を測りかねたリュークザインが、じっとラエラの顔を見つめると、ラエラもまた、真っ直ぐにリュークザインを見つめ返す。
「・・・理由をお聞きしても?」
「勿論、相性の確認ですわ」
「それは先週、行った筈では?」
「ええ、確かにその通りです。ですが、あの後、家に戻ってから、少々不安になりましたもので」
「・・・不安?」
「ええ、そうですわ。肌の触れ合いには互いに嫌悪感はないようでしたが、夫婦の営みとなるとそれ以上の事が求められます。ここで安心して確認を怠って、いざ結婚した後に問題が起きたら手の打ちようがありませんから」
「それで・・・く、ちづけ、を、しろ、と」
「はい」
なんと大胆な。
ただただ驚いて、言葉もなくラエラ嬢を見つめた。
心なしか、ラエラ嬢の顔が赤いような気がする。
少し、涙目にも見えるのは、気のせいなのだろうか。
なにを馬鹿な。
思い上がりも甚だしい。
そもそも、私のことなど何とも想っていないからこそ、このように確かめたいと願うのだ。
・・・私に恋愛感情を持つ筈もない。
そんな考えに胸が痛むのもお門違いだ。
これは政略結婚なのだから。
少なくとも、ラエラ嬢は私にそんな感情を持ってはいない。
・・・そうだ、少なくともラエラ嬢は。
「・・・では、この確認が無事済んだら、婚約の話を進めても構わないと?」
「はい」
「・・・わかった。では席を立って、目を瞑ってくれないか」
「わかりました」
ラエラは、すっと席から立ち上がり、そのまま目を閉じた。
リュークザインも席を立ち、そっとラエラに近づいた。
ラエラはじっと大人しく目を閉じてその瞬間を待っている。
リュークは胸の鼓動が速まるのを感じながら、その肩に手を置く。
そのとき、微かだがラエラの肩がぴくっと震えた。
・・・緊張はしてくれるのか。
表情一つ変えずに口づけを、と言ってはいたが、やはりそう簡単に踏み切れる訳でもないのだろう。
そして、ラエラ嬢が微かに震えたことに喜びを感じている自分に気付いて、またそのことに驚く。
・・・こんな事が嬉しいのか、私は。
それが何故なのかを深く考えることは止め、ただ目の前で静かに口づけを待つ女性の顔を眺めた。
こうして見ると、睫毛が長い。
すっと整った眉は、いかにも理性的でこの女性の印象にぴったりだ。
唇はしっとりとしていて柔らかそうだ。
・・・柔らかそう、だ。
見つめているうちに、引き寄せられるように唇を重ねていた。
馬車に乗った瞬間、ラエラは大きな溜息を吐いた。
「良かった。私に触れてもご不快にはならなかったようだわ・・・」
まだ胸の鼓動は収まらないまま。
抱きしめられた時、あんなに近くでリュークザインさまのお顔を見ることになって、心臓が止まってしまうんじゃないかって思ったけど。
「・・・リュークザインさまの頬が少し赤らんで見えたのは、きっと気のせいよね・・・」
思い上がってはいけない。
これは政略結婚なのだ。
リュークザインさまの出した条件に適合する令嬢が、私だった、それだけのこと。
・・・まだ、今は。
「でも思っていた通り、とても真面目な方ね。・・・あんな時でさえも」
触れてくれと頼んだ時の驚愕した顔。
不快な思いをさせないようにと恐る恐る伸ばした手。
大丈夫かと不安気に覗き込む瞳。
「次は、また一週間後・・・ね。恥ずかしいけど、頑張らなくちゃ」
まだ熱の残る頬を両手で抑え、ラエラは静かに呟いた。
◇◇◇
ラエラを見送った後、リュークザインは暫くの間、そこから動けなかった。
呆けていたのである。
・・・柔らかかった。
女性の身体とは、あれほど華奢で柔らかなものだったのか。
身近な家族に女性がいない訳ではない。
母だってシュリエラだっている。
・・・が。
あんな風に抱きしめたことなど、ないものだから。
いや、記憶を遡れば、もしかするとあるのかもしれないが、全く覚えていない。
というか、家族とラエラ嬢とでは、こちらの意識が違ってくるではないか。
いや、待て。意識ってなんだ。意識って。
自分で自分にツッコミを入れながら、前髪をくしゃりとかき上げる。
・・・らしくもない。
何故こうも感情が乱されるのか。
見合い相手の事で頭を悩ませているだなんて、ベルの耳にでも入ったら一生、揶揄われそうだ。
それでも、気を抜くと、つい先ほどの事を思い出してしまう。
抱きしめた時のあの香り。
自分とは全く異なる、細く、華奢な身体。
あれは何かの花の香りだったのだろうか。
再び、抱きしめた時の記憶が蘇り、顔に熱が集まる。
いかん。
ふしだらな眼で彼女を見るようになったら、只の見合い相手に過ぎない私など、きっと軽蔑されてしまう。
最悪、縁談を断られるかもしれない。
それは困る。
それは嫌だ。
彼女は完璧に条件の揃った最高の相手だ。
彼女でなければいけない。
ラエラ嬢でなければ、いや、ラエラ嬢がいいのだ。
はあ、と息を吐いて心を落ち着けて。
次の顔合わせでは、きちんと振る舞わねば、と決意を固めた。
固めていた、のだが。
「・・・失礼。今、何と?」
「口づけをしていただきたい、と、そう申しました」
「・・・」
「・・・」
五回目の顔合わせ。
二人きりの茶会の場に、静寂が降りた。
言われた言葉の意図を測りかねたリュークザインが、じっとラエラの顔を見つめると、ラエラもまた、真っ直ぐにリュークザインを見つめ返す。
「・・・理由をお聞きしても?」
「勿論、相性の確認ですわ」
「それは先週、行った筈では?」
「ええ、確かにその通りです。ですが、あの後、家に戻ってから、少々不安になりましたもので」
「・・・不安?」
「ええ、そうですわ。肌の触れ合いには互いに嫌悪感はないようでしたが、夫婦の営みとなるとそれ以上の事が求められます。ここで安心して確認を怠って、いざ結婚した後に問題が起きたら手の打ちようがありませんから」
「それで・・・く、ちづけ、を、しろ、と」
「はい」
なんと大胆な。
ただただ驚いて、言葉もなくラエラ嬢を見つめた。
心なしか、ラエラ嬢の顔が赤いような気がする。
少し、涙目にも見えるのは、気のせいなのだろうか。
なにを馬鹿な。
思い上がりも甚だしい。
そもそも、私のことなど何とも想っていないからこそ、このように確かめたいと願うのだ。
・・・私に恋愛感情を持つ筈もない。
そんな考えに胸が痛むのもお門違いだ。
これは政略結婚なのだから。
少なくとも、ラエラ嬢は私にそんな感情を持ってはいない。
・・・そうだ、少なくともラエラ嬢は。
「・・・では、この確認が無事済んだら、婚約の話を進めても構わないと?」
「はい」
「・・・わかった。では席を立って、目を瞑ってくれないか」
「わかりました」
ラエラは、すっと席から立ち上がり、そのまま目を閉じた。
リュークザインも席を立ち、そっとラエラに近づいた。
ラエラはじっと大人しく目を閉じてその瞬間を待っている。
リュークは胸の鼓動が速まるのを感じながら、その肩に手を置く。
そのとき、微かだがラエラの肩がぴくっと震えた。
・・・緊張はしてくれるのか。
表情一つ変えずに口づけを、と言ってはいたが、やはりそう簡単に踏み切れる訳でもないのだろう。
そして、ラエラ嬢が微かに震えたことに喜びを感じている自分に気付いて、またそのことに驚く。
・・・こんな事が嬉しいのか、私は。
それが何故なのかを深く考えることは止め、ただ目の前で静かに口づけを待つ女性の顔を眺めた。
こうして見ると、睫毛が長い。
すっと整った眉は、いかにも理性的でこの女性の印象にぴったりだ。
唇はしっとりとしていて柔らかそうだ。
・・・柔らかそう、だ。
見つめているうちに、引き寄せられるように唇を重ねていた。
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