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リュークザインの見合いについて その5
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華やかな夜会の会場で、今もっとも注目を集めているのが、リュークザインとラエラ嬢の寄り添う姿だった。
由緒正しく歴史あるライプニヒ公爵家の当主リュークザインと、当代で子爵位を賜ったばかりの新参貴族令嬢ラエラが並び立つ姿は、誇り高い貴族たちの眼には苦々しく捉えられていた。
その空気をリューク自身も把握していて、先程から片時もラエラを側から離そうとしない。
・・・プライドが高いだけの連中は厄介だからな。
堅物で有名なリュークザインだが、家柄は申し分なく、陛下の覚えめでたい出世頭でもある。
あまたの縁談が舞い込む中、その全てを断り、唯一見合いをしたのがラエラ・カリエス子爵令嬢で。
しかも、それがどうやら上手く進んでいるようだ、とあっては、大半の貴族やその令嬢たちの機嫌がすこぶる悪いのも肯けるが。
随分とあからさまだな。
呆れと怒りがないまぜになった溜息を落とす。
今でこれだと、婚約を発表した後はどうなる事やら。
「やあやあ、リュークではないか。側にいる麗しい令嬢は、もしや噂の見合い相手かね?」
芝居がかった大袈裟な身振りをしながら近づいて来るのは、好奇心で目を輝かせている親友だ。
「・・・なんだ、ベル。わざわざ冷やかしに来たのか?」
じろりと睨むような視線を送ると、ベルは楽しそうに、くく、と笑い声を上げる。
「その言い草は酷いな。お前の愛しい女性を紹介してはくれないのか?」
いつものキラキラしい笑顔でラエラに目を向け、軽く頭を下げる。
仕方なく互いを紹介したが、ラエラは既にベルフェルトの名を知っていたようで、「リュークザインさまの親友でいらっしゃるベルフェルト・エイモスさまですね」と言った。
「よくご存じで」とベルフェルトは肩を竦める。
「リュークザインさまと同じ立場で陛下にお仕えしておられると伺っております。今日はお会い出来てとても嬉しいですわ」
そう言ってカーテシーの礼を取った。
新参の貴族令嬢とは思えない完璧な礼に、ベルフェルトだけでなく、周囲からの感嘆の眼差しが注がれる。
「噂にたがわぬ才媛のようだ。そこらのご令嬢方よりも遥かに美しい作法を身につけておられる」
「わたくしの取り柄は努力だけですから」
ふふ、と笑みを浮かべて答える姿に、リュークの胸は、何故かちり、と痛んだ。
「リュークザインさま。わたくし、少しお化粧を直してまいりますね」
そう言って広間を後にする姿を目で追っていると、隣からベルの面白がる声がした。
「なんだ、その熱のこもった眼は。条件で選んだ政略結婚の相手ではなかったのか」
「・・・なにを馬鹿なことを。私とラエラ嬢ほど政略結婚という言葉が当てはまる組み合わせはないだろう。・・・と、それよりラエラ嬢が」
「ラエラ嬢がどうした? 化粧直しだそうだが」
「一人は危ない。夜会の雰囲気が悪すぎる」
「化粧台までついていく訳にもいかんだろう? お前は男なのだぞ」
「だが・・・」
「分かった分かった。オレが見に行ってやろう。だがな、それもこれも真面目な独身男で通し続けて、ご令嬢方に無駄な希望を抱かせてきたからだぞ。お前は、これ以上彼女に火の粉が降りかからないように、今からでも上手いこと立ち回って来い」
そう言うと、ベルフェルトもラエラを追って広間から出て行った。
ベルフェルトは広間の喧騒から離れ、静かな廊下を進んでいく。
確か化粧台はこちらの方角だった筈・・・。
と、その時、令嬢方の声がベルフェルトの耳に入ってくる。
しかも、どうも声音が穏やかではなさそうだ。
やれやれ、リュークの心配した通りか・・・。
急ぎ足で声のする方へ向かいながら「さて、どうやって事を収めようか」と考えていると、向かっていた先から、バタバタと令嬢方が慌てて戻ってきている。
不審に思って足を止めたベルフェルトにあちらも気付き、同じく足を止める。
「こんばんは。美しいご令嬢方。そんなに急いでどうされたのかな?」
美丈夫で名高いベルフェルトに声をかけられ、令嬢方は一瞬で頬を赤く染める。
「ベルフェルトさま、ごきげんよう。あの、わたくしは・・・」
「親友に頼まれて彼の愛しい人を探しに来たのだけれど、どこにいるか知らないかい?」
令嬢方の一人が嬉しそうに自己紹介を始めかけたところを遮って、ラエラの場所を尋ねる。
その令嬢は、一瞬、悔しそうな表情をにじませたが、すぐにそれを隠して笑顔を浮かべる。
「さあ? 存じませんわ。それより是非わたくしと・・・」
「可笑しいな。リュークから化粧直しに行ったと聞いたのだが。化粧台は確か、この先だったと記憶しているが、間違いだったかな?」
「あ・・・、いえ。そ、そういえば、いらっしゃったかもしれません」
「は、はい。もしかしたら、ですけど」
「わたくしたち、お喋りに夢中で気付かなかったようで・・・」
令嬢方は口々に言い訳を述べると、そそくさと会場へと逃げて行く。
半ば呆れながらその後ろ姿を見送っていると、背後から「ベルフェルトさま?」と自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、化粧台のある部屋から出て来たラエラがそこに立っていて。
化粧直しをしていた筈の彼女の手には、何故かデュールのグラスが握られていて。
「・・・それは?」
視線でグラスのことだと分かったのだろう。
ラエラは、ああ、と頷いて。
「今しがた、令嬢方にこの中身をぶちまけられそうになりまして」
とにこやかに答えた。
由緒正しく歴史あるライプニヒ公爵家の当主リュークザインと、当代で子爵位を賜ったばかりの新参貴族令嬢ラエラが並び立つ姿は、誇り高い貴族たちの眼には苦々しく捉えられていた。
その空気をリューク自身も把握していて、先程から片時もラエラを側から離そうとしない。
・・・プライドが高いだけの連中は厄介だからな。
堅物で有名なリュークザインだが、家柄は申し分なく、陛下の覚えめでたい出世頭でもある。
あまたの縁談が舞い込む中、その全てを断り、唯一見合いをしたのがラエラ・カリエス子爵令嬢で。
しかも、それがどうやら上手く進んでいるようだ、とあっては、大半の貴族やその令嬢たちの機嫌がすこぶる悪いのも肯けるが。
随分とあからさまだな。
呆れと怒りがないまぜになった溜息を落とす。
今でこれだと、婚約を発表した後はどうなる事やら。
「やあやあ、リュークではないか。側にいる麗しい令嬢は、もしや噂の見合い相手かね?」
芝居がかった大袈裟な身振りをしながら近づいて来るのは、好奇心で目を輝かせている親友だ。
「・・・なんだ、ベル。わざわざ冷やかしに来たのか?」
じろりと睨むような視線を送ると、ベルは楽しそうに、くく、と笑い声を上げる。
「その言い草は酷いな。お前の愛しい女性を紹介してはくれないのか?」
いつものキラキラしい笑顔でラエラに目を向け、軽く頭を下げる。
仕方なく互いを紹介したが、ラエラは既にベルフェルトの名を知っていたようで、「リュークザインさまの親友でいらっしゃるベルフェルト・エイモスさまですね」と言った。
「よくご存じで」とベルフェルトは肩を竦める。
「リュークザインさまと同じ立場で陛下にお仕えしておられると伺っております。今日はお会い出来てとても嬉しいですわ」
そう言ってカーテシーの礼を取った。
新参の貴族令嬢とは思えない完璧な礼に、ベルフェルトだけでなく、周囲からの感嘆の眼差しが注がれる。
「噂にたがわぬ才媛のようだ。そこらのご令嬢方よりも遥かに美しい作法を身につけておられる」
「わたくしの取り柄は努力だけですから」
ふふ、と笑みを浮かべて答える姿に、リュークの胸は、何故かちり、と痛んだ。
「リュークザインさま。わたくし、少しお化粧を直してまいりますね」
そう言って広間を後にする姿を目で追っていると、隣からベルの面白がる声がした。
「なんだ、その熱のこもった眼は。条件で選んだ政略結婚の相手ではなかったのか」
「・・・なにを馬鹿なことを。私とラエラ嬢ほど政略結婚という言葉が当てはまる組み合わせはないだろう。・・・と、それよりラエラ嬢が」
「ラエラ嬢がどうした? 化粧直しだそうだが」
「一人は危ない。夜会の雰囲気が悪すぎる」
「化粧台までついていく訳にもいかんだろう? お前は男なのだぞ」
「だが・・・」
「分かった分かった。オレが見に行ってやろう。だがな、それもこれも真面目な独身男で通し続けて、ご令嬢方に無駄な希望を抱かせてきたからだぞ。お前は、これ以上彼女に火の粉が降りかからないように、今からでも上手いこと立ち回って来い」
そう言うと、ベルフェルトもラエラを追って広間から出て行った。
ベルフェルトは広間の喧騒から離れ、静かな廊下を進んでいく。
確か化粧台はこちらの方角だった筈・・・。
と、その時、令嬢方の声がベルフェルトの耳に入ってくる。
しかも、どうも声音が穏やかではなさそうだ。
やれやれ、リュークの心配した通りか・・・。
急ぎ足で声のする方へ向かいながら「さて、どうやって事を収めようか」と考えていると、向かっていた先から、バタバタと令嬢方が慌てて戻ってきている。
不審に思って足を止めたベルフェルトにあちらも気付き、同じく足を止める。
「こんばんは。美しいご令嬢方。そんなに急いでどうされたのかな?」
美丈夫で名高いベルフェルトに声をかけられ、令嬢方は一瞬で頬を赤く染める。
「ベルフェルトさま、ごきげんよう。あの、わたくしは・・・」
「親友に頼まれて彼の愛しい人を探しに来たのだけれど、どこにいるか知らないかい?」
令嬢方の一人が嬉しそうに自己紹介を始めかけたところを遮って、ラエラの場所を尋ねる。
その令嬢は、一瞬、悔しそうな表情をにじませたが、すぐにそれを隠して笑顔を浮かべる。
「さあ? 存じませんわ。それより是非わたくしと・・・」
「可笑しいな。リュークから化粧直しに行ったと聞いたのだが。化粧台は確か、この先だったと記憶しているが、間違いだったかな?」
「あ・・・、いえ。そ、そういえば、いらっしゃったかもしれません」
「は、はい。もしかしたら、ですけど」
「わたくしたち、お喋りに夢中で気付かなかったようで・・・」
令嬢方は口々に言い訳を述べると、そそくさと会場へと逃げて行く。
半ば呆れながらその後ろ姿を見送っていると、背後から「ベルフェルトさま?」と自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、化粧台のある部屋から出て来たラエラがそこに立っていて。
化粧直しをしていた筈の彼女の手には、何故かデュールのグラスが握られていて。
「・・・それは?」
視線でグラスのことだと分かったのだろう。
ラエラは、ああ、と頷いて。
「今しがた、令嬢方にこの中身をぶちまけられそうになりまして」
とにこやかに答えた。
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