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リュークザインの見合いについて その6
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「ちょっと、そこの貴女」
化粧室で粉を叩いていると、背後から声がした。
鏡越しに視線を送れば、三人の令嬢がこちらを睨んでいる。
ゆっくりとコンパクトをたたみ、笑顔を浮かべながら振り向く。
「わたくしに何かご用でも?」
余裕のある態度が気に入らなかったのか、真ん中にいた令嬢の目が更にきつく吊り上がる。
その令嬢はすっと前に出てラエラの頭から足元までを不躾な視線で眺めた後、口の片端を上げて嘲笑的な笑みを浮かべた。
「貴女でしょう? ラエラ・カリエスとかいう成り上がりの子爵令嬢って。ついこの間まで平民だったくせに、よくもまあ、ライプニヒ公爵家と縁を結ぼうなどと思ったわね」
「本当ですわ。思い上がりも甚だしいですこと」
「リュークザインさまはお見合いをお受けしない事で有名なのに、一体、貴女の家はどんな卑怯な手を使ったのかしら?」
「商売で爵位を買った家ですもの。やり方が汚いのは仕方ないとしても、リュークザインさままで巻き込まないでいただきたいわ」
「そうよそうよ! アナベラさまこそ、リュークザインさまにふさわしいお方なのよ!」
広間を出て行くラエラを衝動的に追いかけてきたのか、その手には飲みかけのデュールのグラスが握られている。
三人の令嬢に囲まれて早口にまくしたてられるも、ラエラの顔色は全く変わらない。
「アナベラさま、とおっしゃったわね。ということは、アナベラ・スカッチ伯爵令嬢でいらっしゃいますか?」
「・・・何故わたくしの名を」
「貴族年鑑に載っている名は、全て覚えておりますので」
「は?」
「先ほどのお話ですけれど、わたくしを婚約者にと望まれたのはリュークザインさまの方ですわ。もしそのご判断に文句がおありでしたら、ご本人にお話しになった方が良いかと」
「なっ! 貴女、アナベラさまにそんな口をきいていいと思っているの!」
「・・・お待ちなさい」
一人の令嬢が手に持っていた扇を振り上げようとするのを静止して、アナベラは冷たい視線をラエラに向ける。
「ケイティに悪気はありませんのよ。どうかお怒りにならないで。わたくしたち、きっといいお友達になれると思いますの」
そう言うと、手に持っていた飲みかけのデュールのグラスをラエラに差し出した。
「友情の印に・・・どうぞ。差し上げますわ」
アナベラの侮蔑のこもった眼差しと冷ややかな口調に、それまで怒りでまくし立てていた他の令嬢たちも馬鹿にした笑い声を上げる。
「・・・いただきますわ」
ラエラが受け取ろうと手を伸ばしたところで、アナベラがぱっとグラスを離す。
グラスは落下しながら、ラエラのドレスにその中身をぶちまける・・・筈だった。
ラエラが空中でグラスを受け止めるまでは。
「なっ・・・!」
下から掬い取るような形で落下するグラスを受け止めたラエラは、自分の目線の高さまでグラス掲げるとくるりとグラスを回した。
ふわりとデュールの芳しい香りが立ちのぼる。
「友情の証、ありがたくいただきますわね」
にっこりと笑って一口含むと、アナベラたちは真っ赤な顔でぎっとラエラを睨みつけ、無言で去っていった。
「・・・きっとあのアナベラさまとやらは、リュークザインさまから見合いを断られたクチね。八つ当たりもいいとこだわ」
ぼそりと呟きながら、デュールのグラスをくるくる回していると今度は何やら廊下の方が騒がしい。
また別の騒動かしら、と出て来たところで、ベルフェルトと遭遇した訳だ。
「それはまた、面白いことがあったのだな。いやあ、見逃したとは残念至極」
「・・・面白がってらっしゃいますね?」
「事実だから仕方ないだろう? ・・・だが、グラスを空中で受け止めるなど、そんな芸当がよく出来たものだ」
「普段から鍛錬しておりますので」
くく、と肩を揺らして笑っていたベルフェルトに事もなげに告げたその返答を聞いて、笑い声がぴたりと止んだ。
「鍛錬?」
「はい」
「君は武芸もたしなむのか?」
「はい。護身術は勿論、武芸、体術も一通り身につけております」
「・・・凄いな。学問だけじゃない、百芸に通じた婚約者をリュークは得たのだな」
「そのためにずっと努力して参りましたから」
「・・・む? そのため?」
「はい。いつの日かリュークザインさまに選んでいただけるように、と。そのためだけに学問も、武術も、芸事も、その他の嗜みも必死で身につけましたので」
ベルフェルトは、一瞬、呆けたように口を開けた。
が、すぐに気を取り直してラエラに質問を投げかけた。
「・・・オレは、れっきとした政略結婚だと聞いていたのだが」
「その通りですわ。紛れもなく政略結婚でございます。・・・・リュークザインさまにとっては」
静かに答えたラエラの顔を見つめ、ベルフェルトは意図を察したものの敢えて問いを重ねた。
「ということは、君は?」
その問いに、ラエラはふっと笑った。
「ずっと恋焦がれておりましたわ。六年前・・・デビュタントであの方に初めてお会いした時から」
化粧室で粉を叩いていると、背後から声がした。
鏡越しに視線を送れば、三人の令嬢がこちらを睨んでいる。
ゆっくりとコンパクトをたたみ、笑顔を浮かべながら振り向く。
「わたくしに何かご用でも?」
余裕のある態度が気に入らなかったのか、真ん中にいた令嬢の目が更にきつく吊り上がる。
その令嬢はすっと前に出てラエラの頭から足元までを不躾な視線で眺めた後、口の片端を上げて嘲笑的な笑みを浮かべた。
「貴女でしょう? ラエラ・カリエスとかいう成り上がりの子爵令嬢って。ついこの間まで平民だったくせに、よくもまあ、ライプニヒ公爵家と縁を結ぼうなどと思ったわね」
「本当ですわ。思い上がりも甚だしいですこと」
「リュークザインさまはお見合いをお受けしない事で有名なのに、一体、貴女の家はどんな卑怯な手を使ったのかしら?」
「商売で爵位を買った家ですもの。やり方が汚いのは仕方ないとしても、リュークザインさままで巻き込まないでいただきたいわ」
「そうよそうよ! アナベラさまこそ、リュークザインさまにふさわしいお方なのよ!」
広間を出て行くラエラを衝動的に追いかけてきたのか、その手には飲みかけのデュールのグラスが握られている。
三人の令嬢に囲まれて早口にまくしたてられるも、ラエラの顔色は全く変わらない。
「アナベラさま、とおっしゃったわね。ということは、アナベラ・スカッチ伯爵令嬢でいらっしゃいますか?」
「・・・何故わたくしの名を」
「貴族年鑑に載っている名は、全て覚えておりますので」
「は?」
「先ほどのお話ですけれど、わたくしを婚約者にと望まれたのはリュークザインさまの方ですわ。もしそのご判断に文句がおありでしたら、ご本人にお話しになった方が良いかと」
「なっ! 貴女、アナベラさまにそんな口をきいていいと思っているの!」
「・・・お待ちなさい」
一人の令嬢が手に持っていた扇を振り上げようとするのを静止して、アナベラは冷たい視線をラエラに向ける。
「ケイティに悪気はありませんのよ。どうかお怒りにならないで。わたくしたち、きっといいお友達になれると思いますの」
そう言うと、手に持っていた飲みかけのデュールのグラスをラエラに差し出した。
「友情の印に・・・どうぞ。差し上げますわ」
アナベラの侮蔑のこもった眼差しと冷ややかな口調に、それまで怒りでまくし立てていた他の令嬢たちも馬鹿にした笑い声を上げる。
「・・・いただきますわ」
ラエラが受け取ろうと手を伸ばしたところで、アナベラがぱっとグラスを離す。
グラスは落下しながら、ラエラのドレスにその中身をぶちまける・・・筈だった。
ラエラが空中でグラスを受け止めるまでは。
「なっ・・・!」
下から掬い取るような形で落下するグラスを受け止めたラエラは、自分の目線の高さまでグラス掲げるとくるりとグラスを回した。
ふわりとデュールの芳しい香りが立ちのぼる。
「友情の証、ありがたくいただきますわね」
にっこりと笑って一口含むと、アナベラたちは真っ赤な顔でぎっとラエラを睨みつけ、無言で去っていった。
「・・・きっとあのアナベラさまとやらは、リュークザインさまから見合いを断られたクチね。八つ当たりもいいとこだわ」
ぼそりと呟きながら、デュールのグラスをくるくる回していると今度は何やら廊下の方が騒がしい。
また別の騒動かしら、と出て来たところで、ベルフェルトと遭遇した訳だ。
「それはまた、面白いことがあったのだな。いやあ、見逃したとは残念至極」
「・・・面白がってらっしゃいますね?」
「事実だから仕方ないだろう? ・・・だが、グラスを空中で受け止めるなど、そんな芸当がよく出来たものだ」
「普段から鍛錬しておりますので」
くく、と肩を揺らして笑っていたベルフェルトに事もなげに告げたその返答を聞いて、笑い声がぴたりと止んだ。
「鍛錬?」
「はい」
「君は武芸もたしなむのか?」
「はい。護身術は勿論、武芸、体術も一通り身につけております」
「・・・凄いな。学問だけじゃない、百芸に通じた婚約者をリュークは得たのだな」
「そのためにずっと努力して参りましたから」
「・・・む? そのため?」
「はい。いつの日かリュークザインさまに選んでいただけるように、と。そのためだけに学問も、武術も、芸事も、その他の嗜みも必死で身につけましたので」
ベルフェルトは、一瞬、呆けたように口を開けた。
が、すぐに気を取り直してラエラに質問を投げかけた。
「・・・オレは、れっきとした政略結婚だと聞いていたのだが」
「その通りですわ。紛れもなく政略結婚でございます。・・・・リュークザインさまにとっては」
静かに答えたラエラの顔を見つめ、ベルフェルトは意図を察したものの敢えて問いを重ねた。
「ということは、君は?」
その問いに、ラエラはふっと笑った。
「ずっと恋焦がれておりましたわ。六年前・・・デビュタントであの方に初めてお会いした時から」
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