【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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それが意味すること

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---貴方だけがいつも誰かを守る必要はないんです---

初めてそう言われた時は、心底びっくりしたっけ。
あの子に出会うまで、誰かに守ってもらうなんて想像したこともなかったから。

そう、本当に驚いたんだ。

「ベル? 今夜は色々あって疲れているだろうが、もう少しだけ踏ん張ってくれよ?」

よそ事を考えていた事に気付いていたらしい。
リュークザインに釘を刺された。

取り敢えず、拘束したカリューガ家の私兵たちは、主人の命令に従って見知らぬ者たちに対応しただけ、という事で事情聴取の後に殆どが放免。
夜も遅いとあって、子爵家の面々と伯爵家が寄越していた者たち、そしてベイベル国から入りこんだ者たちはそれぞれ別の場所に留置して、明日以降の取り調べとなった。

証拠も証言もたっぷりと揃っている。
言い逃れは出来ないだろう。

あとは陛下に判断を任せるのみ。

一網打尽にするまでは、と、念のために王城に留まってもらっていたカトリアナやシュリエラは、進捗状況が気になるのか、はたまた愛しい恋人に帰る前に一目逢いたいのか、まだ別室にて待っている。

まぁ、そのお陰で、貴族たちの取り調べを明日に廻すという判断にレオンハルトが至った訳なのだが。

そこまで詰めると、レオンハルトは皆に声をかけて労ってから、いそいそとカトリアナの待つ部屋へと去っていった。
アッテンボローも・・・以下同文。

最後に残ったリュークたちが必要書類をまとめれば、本日の仕事はめでたく終了だ。

「ルナ、いる?」

そこへライナスバージが顔を出した。
その声に、書類棚に向かっていた顔をルナフレイアが上げる。

ライナスバージの訪問は予想していなかったのか、目を丸くして不思議そうな顔をしている。

「ライナス? どうしたの?」
「あー、いや、その・・・ちょっとお前に話したいことがあって・・・」
「話?」
「うん、邸まで送るからさ、そのついでに、って思って」
「ふーん? 別にいいけど、もうちょっとだけ待っててくれる? すぐ終わるから」

片していた書類の山はあと残り少し。
それに視線を向けて、ライナスは「ああ、勿論」と頷いた。

そのやり取りを見ていたラエラは、ちらりとベルフェルトを見遣る。
そのベルフェルトは、ただ黙々と机に向かって、明日の事情聴取に使う書類をまとめている。
それはもう、いつも通りに。

「終わったよ、ライナス。お待たせ」
「ああ、じゃあ帰ろうか」

退室の挨拶をしてから二人が出て行った後、残っていた三人も、僅かばかりあった作業を終えて帰り支度を始めた。

先ほどからずっと何故だか執務室を覆っていた静寂を、リュークザインの平坦な声が破る。

「・・・それにしても、今夜のルナフレイア嬢の働きは凄かったな」

誰にともなく語りかけた言葉だったが、それに反応したのはラエラだった。
微かな笑みをたたえながら、リュークザインの言葉に頷き返す。

「ええ、本当に。あの動きは間近で見ていてとても参考になりましたわ」
「いや、君はもう十分よくやってくれている。これ以上は鍛錬する必要はないと思う」
「あらまあ、それは少し残念ですわ」

そんな会話を交わしてみるも、ベルフェルトは珍しく話に入って来ない。

それでラエラは、もう少し直球で行くことにした。

「何のお話があったのでしょうね。ライナスさまは」

ベルフェルトの顔色は変わらなかったが、纏う空気がすこしばかり険しくなる。

効果ありと見たのか、ラエラが言葉を継いだ。

「至極真面目なお顔をされてましたわ。きっと大切なお話がおありなのでしょうね」
「ふむ、そうかもしれないな」

ラエラと違って、その方面の事には非常に疎い堅物男のリュークザインは、何の意図も目論見もなく、ただ素直に相槌を打つ。

「ルナフレイアさまは直にロッテングルム領にお戻りになるとお聞きしました。とても残念ですわ。せっかくお友達になれましたのに」
「ああ、そうだな。デサイファミスにとっても損失だ。非常に有用な人材だったからな」
「お姉さまの執務をお手伝いする、との事でしたけれど、こちらで縁談でもまとまれば、お残りになれるのでしょうか」
「縁談・・・か。そうかもしれないな」

既に確認済みであるにもかかわらず、ラエラはさも何も知りません、といった風を装って話を続けた。

「ああ、そうですわ」

ぽん、と手を打ち、今、思いつきましたと言わんばかりに声を上げる。

「ライナスさまとご結婚なさるのはいかがかしら」
「・・・ライナスとか? ふむ」

真面目男は、ラエラの意図を知らないままに、ここでもやはり真面目に提案を考え始める。

「まあ、従兄妹同士ではあるが無理な話ではない。当人たちにその気があればだが」
「お似合いではないかしら? お二人とも武功に優れてらっしゃいますし、仲も大変お良ろしいようですし、そうすれば・・・」
「・・・確か、その気はないと言っていたぞ」

少し不機嫌そうな声が、ラエラの話を遮った。

「あら、その気がないなんて、ベルフェルトさまは何かご存知でらっしゃるの?」

敢えて問うラエラに、つい口を出してしまったベルフェルトが、仕方なく言葉を継ぐ。

「・・・まあ、その・・・以前、当人たちから、二人の間に恋愛感情はない、と聞いた気がするが」
「まあ、そうだったのですか。先ほどのお二人はとても親密そうでいらっしゃったので、わたくしはてっきり好き合っていらっしゃるかと勘違いしてました」
「・・・」
「あら、でも困りましたわ。そうしたら、やはりルナフレイアさまは領地へお帰りになってしまいますのね。残念ですわ。ベルフェルトさまをお助けできる貴重な方ですのに」

リュークザインが重々しく同意する。

「確かにそうだな。ベルフェルトを助けに行けるほどの人材はそうそういない。何とかしてここに留まって欲しいものだが・・・」
「でしたらリュークさま。どなたか立派な殿方を探して縁談を持ちかけてみてはいかがです? ルナフレアさまがその気になって下さったら、願ったりではないですか」

ベルフェルトが僅かに眉を顰める。
だがラエラは、それに気づかない振りをして、そのまま話を続けた。

「それでもしルナフレイアさまが頷いてくださったら、そのまま話を進めればいいですし。・・・いかがでしょう」
「成程、まあ聞いてみるだけなら、いいかもしれん。早速、ハトたちから候補を見繕ってみよう」

リュークザインの返答に、ラエラはにっこりと微笑んで頷いた。
それを見て、リュークザインも微かな笑み浮かべる。

リュークザインは、すっかり忘れていた。

自分の見合いの時、ラエラがリュークの心を射止めんと陰ながら奮闘していたことを。
そのための布石を置くことを決して怠らなかったことを。

そしてやはり、今回もまた。
お勧めできる将来有望な者はいないかと、ハトたちの面々を思い浮かべるリュークザインは、ラエラの掌の上で転がされている。
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