【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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驚愕

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背後から、引き締まった腕にふわりと抱きかかえられる。

気配も感じなかったから、その突然の抱擁にものすごく驚いた。
今の今まで、目の前でおしゃべりしていたマイセンにしてみれば、きっと私の比較にならないくらいの驚きだったろうけれど。

驚いたと同時に、鼻腔をくすぐるスパイシーな香りに体が勝手に反応して、抵抗するよりも喜びが沸き上がる。

だってそれは、会ってまだ一年にもならないというのに、今やすっかり嗅ぎなれた大好きな人の香りだったから。

そう。だから、振り向かなくても分かってしまう。
この腕は、誰のものなのか。
私を抱きかかえたのは誰なのか。

でも、それとは別の、ふとした疑問がむくむくと頭をもたげてきて。
私はまず、それを口にした。

「ベルフェルトさま? ・・・どうしてここに?」

頭の上から、ふ、と笑みが漏れる。

「いきなり背後から抱きしめられて、まず一番に言う言葉がそれか?」

そう言って、いつも人を煙に巻いてばかりの意地っ張りの伯爵さまは笑った。

いや、だって。
ここにいる筈のない人が突然現れたら不思議に思うのも無理はないと思う。

ベルフェルトさまは、今、王太子殿下の婚姻の儀のために王国を訪れた賢者さまに謁見している最中の筈でしょう?




つい先ほど。
そう、つい先ほどまで、ルナフレイアは王城の外にある騎士寮の近くで、マイセンとお喋りをしていた。

まあ、そこを通りがかったのも仕事帰りの事で、マイセンもまた巡回が終わって寮に戻ろうとしていたところを偶然に会ったのだ。

ルナフレイアは現在、少しばかり時間の余裕がある。

デサイファミスで働くのもあと少し。
新しい案件に手を付けると却って引き継ぎの手間がかかるから、という事で、ルナフレアは進行中の任務と書類仕事のみを扱っている。

そして今、ルナフレイアはその書類仕事の一つを片し終わり、宰相のところへ届けた帰りだった。
執務棟からデサイファミスのあるシャガーン宮の地上階へと戻ろうとしていた道すがら、マイセンに声をかけられたのだ。

あと一か月もしたらロッテングルム領に戻ることは、マイセンにも話してあった。
騎士服の紛失事件は捜査に有用に働いた貴重な情報の一つだったから、そのお礼を言いに行った時についでとばかりに話しておいたのだ。

「休みが重なったらの話なんだけどさ」

照れているのか、頬を赤く染めたマイセンが遠慮がちに話し始める。

「領地に戻っちゃう前に、一緒にもう一回ペカンナットに行かない?」

そう誘われて、武器見物が大好きなルナフレイアが喜ばない筈がない。

「もし良かったらさ、教えてもらいたいんだよね。武器の特徴とか、体格に合った武器の選び方とか。ルナってそういうの、詳しそうだから」
「うーん、上手く休みが合うかなぁ」
「ええとね、僕の直近の休みは明々後日かな。その後だと来週の火曜日なんだけど」

仕事に時間的余裕があるとはいえ、それは仕事そのものが休みという訳ではない。
頭の中で、勤務表とにらめっこしながら、該当しそうな休みの日を考える。

「明々後日は無理。そして来週の火曜日は・・・駄目だわ、仕事が入ってる。その後は・・・」
「その後だと来週末なら休みだけど」

ルナフレイアは「来週末なら自分も休みだわ」と、ぱっと瞳を輝かせる。

だがすぐに、何か閃いたようで、マイセンの顔を悪戯っぽく覗き込んだ。

「な、なに?」
「マイセンは、今日はもう仕事は終わり?」
「え? ・・・うん、今日は早上がりだから」
「なら丁度いいかも。実は私も、今日はもうこれで・・・・・・っ!」
「え・・・っ?」


そして、背後から逞しい腕に包まれたわけである。


「ベルフェルトさま? ・・・どうしてここに?」
「・・・ふふ、いきなり背後から抱きしめられて、まず一番に言う言葉がそれか?」

という会話へと続く。

そしてその後、目の前で顔を赤くしたり、目を丸くしたりして忙しいマイセンに向かってベルフェルトが断りを入れてから、本日これからの予定は譲ってもらうことになり。

「ええと、じゃあ・・・ペカンナットの話は、また後でね?」

そう言って、マイセンは寮へと戻って行った。
その足取りがちょっと寂しげだったことは、多分ルナフレイアは気づいていない。
勿論、ベルフェルトは別だけれど。

そんなマイセンの後ろ姿を見送った後、ルナフレイアはベルフェルトの方へと向き直り、その顔を見上げた。

「それで・・・どうなさったんですか? ベルフェルトさまは今日、賢者さまとお会いになる予定でしたよね?」

きょとんとした顔で、そう問いかける。
でも、そんな呑気な顔を彼女が出来たのは、この瞬間まで。

だって、次にベルフェルトが口にした言葉は。

「・・・その賢者殿に諭されて、君に好きだと言いに来た」

そんな告白の台詞だったから。

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