【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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お目見え

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「随分と素敵な女性ではないか、リュークザイン。幸せそうで何よりだ」

目を細め、嬉しそうに結婚を祝福する賢者の姿に、まだ新婚半年足らずの二人は、照れを隠せない。

「薄刃のような鋭さを常に纏っていたお前が、そんな柔らかい表情を浮かべるようになるとはな。安心したぞ」

まるで父親のような温かい笑みを浮かべ、ラファイエラスは目の前の二人にそう告げた。

リュークザインが妻ラエラを連れてラファイエラスのもとを再び訪れたのは、先日の再会から三日目のこと。
初日に既に会うことが出来ていたリュークザインは、まずは再会の喜びを他の人たちに譲っていたのだ。

エレアーナやケインバッハ、シュリエラは既に昨日、再会を果たした。

そして漸く今日、リュークザインは新妻を彼に紹介したのだ。

名高い賢者への謁見に流石のラエラも緊張していたが、才女としての好奇心の方が勝ったのだろう、会えば様々な話題に会話が弾んでいた。

そしてリュークたちの次に謁見するのはベルフェルトだ。

退出の際、リュークザインたちはベルフェルトとすれ違う。
その表情には、いつものような余裕はなく、期待か興奮か、それとも高揚なのか、そこには珍しく緊張した面持ちのベルフェルトが立っていた。

「元気だったか?」

入室するなりかけられたのは懐かしい声。
どちらかと言うと抑揚のない平坦なものだが、でも何故か、その声音にベルフェルトは安堵を覚える。

暫くの間じっとベルフェルトの顔を見つめていたラファイエラスは、いきなり口を開いたかと思えば「お前は気負いすぎなのだよ」と言ってきた。

ベルはその言葉に訝しげな表情を浮かべたが、ラファイエラスはそれを気にする事もなく、こちらへ来い、と手招きをする。
その通りに近づけば、更に近くへ、と招かれる。

気がつけば、すぐ目の前にまで寄っていた。
そのままじっとべルフェルトを見つめていたラファイエラスは小さく笑った。

「・・・全くお前は・・・相変わらず自分へのいたわり方を知らないな」

苦笑と共にそんな言葉を告げられて、ベルは何か言おうと口を開くも、言葉を発するよりも早くラファイエラスの手がベルフェルトへとすっと伸ばされた。

ぽん。

・・・え?

子どもに対してするように軽く頭を撫でられ、ベルフェルトの眼が驚愕で見開かれた。
ラファイエラスの眼は、じっと目の前のベルフェルトを見据えたまま。
そしてその口元は微かに弧を描いている。

「たまには自分をねぎらえ。褒めてやるんだ」
「・・・は?」
「よくこの国を守っているようだな。ベルフェルト」
「・・・」

かけられた言葉の意味がよく掴めず、間の抜けた顔のまま立っているだけ。

だがラファイエラスは、別に気にする様子もなく、ただ、ぽんぽんとベルフェルトの頭を撫で続けた。

「・・・ラファイエラスさま」
「なんだ?」
「オレは・・・もう二十三なのですが」
「そうか。そういえばお前の年齢は聞いたことがなかったな」
「いえ、そうではなく」
「む?」

何が言いたいのかを分かって敢えて気づかぬフリをしているか、それとも本当に分からないのか。
ただただ薄い笑みを浮かべたまま、ラファイエラスの手はベルフェルトの頭に乗せられたままで。

ベルフェルトは、なんだか胸がむず痒くなるような感覚に襲われ、それで気づけば口を開いていた。

「もう二十三で十分大人ですので、・・・頭を撫でるのは・・・子ども扱いされているようで少々居心地が悪く・・・」
「お前が十分な大人であることは分かっているつもりだがな。撫でるのを止めるつもりはないぞ」

ラファイエラスが、くくっと喉を鳴らした。

「レオンハルトにはカトリアナがいる。ケインバッハにはエレアーナが、リュークザインにはラエラ、そしてシュリエラにはアッテンボローが。あれらには、疲れたとき、何かを達成したとき、嬉しいとき、いつも側にいて寄りそってくれる者がいるだろう? ・・・惚れた腫れたは当人同士の問題だから、それに口を出すつもりはないが、もしお前がこの先もずっと痩せ我慢を続けるつもりであるならば、せめてこうして頭を撫でるくらいはさせてもらおうかと、そう思ってな」
「・・・ラファイエラスさま?」
「それくらいならば構わんだろう?」

そう言って目を細めた。

・・・ラファイエラスさまは、どうして。
どうして、いつも、そして何もかも、見透かしてしまうのだろうな。

その眼は自分の心の奥底までもお見通しのようで、普段ならばすらすらと流れるように口にする言い訳すら、まったく出て来る気配がない。

だからきっと、こんな本音まで晒してしまうんだ。

「ラファイエラスさま」
「うん?」
「オレは・・・国を守ろうと、守りたいと思っているのです。・・・たとえこの身に危険が及ぼうとも」
「知っている」
「・・・誰かをもし愛してしまえば、オレのそんな決心が・・・揺らぐのではないか、と、そう不安に思ってしまうのです」
「そうか。・・・だが、本当のところはどうなのだろうな」

ラファイエラスは、ベルフェルトの顔を覗き込んだ。

「本当にお前は揺らぐだろうか? そんなにお前が不安になるほど、お前が想う人は弱いのだろうか。なぜならお前はもう、その人を愛しているだろう? どう思う? ベルフェルト、お前の愛する人は弱いか?」
「・・・いえ」

少しだけ迷って、だがその後はきっぱりと、ベルフェルトは答えを返した。

「いいえ、ラファイエラスさま。彼女は強い女性です。オレを守ると言ってくれました。彼女は・・・オレと一緒に闘える人です」
「そうか」

最後とばかりに、ぐりぐりと頭に置いた手を動かすと、ラファイエラスは笑いながら手を引っ込めた。

「なら、やることはもう決まっているな。・・・行っておいで、ベルフェルト」

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