【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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祝福の花

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軽く触れるだけの短い口づけ。
それが三度、四度、と続いて、ラファイエラスが「今はそれくらいで我慢しろ」止めた後。

カトリアナは、気を取り直す時間が欲しくて、それまでぴったりとくっ付いていた身体を離そうと花婿の胸に両手を置いて軽く押した。

だがレオンハルトは、誓いの口づけの間、彼女の肩に置いていた自分の両手を、今度は自分の胸元に置かれた彼女の手の上に重ねる。

当然すぐに身体を離してもらえると思っていたカトリアナは、驚いた顔でレオンを見上げた。

「レ、レオン、さま?」

微かに震えながらも、必死で紡ぎだされる小さな声。
レオンを見上げるその朱色の瞳は、少し潤んでいるようにも見えて。

・・・ああ、なんて可愛い生きものなんだろう。

カトリアナの手の上に重ねた自分のそれは、ぎゅっと固く彼女の手を押さえ込んだまま。

・・・もう一度。

更に口づけを重ねようと顔を近づけかけたところで。

「・・・このままでは儀式が終わないのだがな。レオンハルト、お前の楽しみが誓いの口づけだけで終わってもいいのかい?」

絶妙なタイミングで、ラファイエラスの制止が入る。

その声に、レオンハルトは仕方なく身体を離したが、その代わりとばかりに手を取って掌に口づけを落とす。

目を回しそうになっている花嫁と、上機嫌で笑みを堪えるのに必死な花婿と、何やら生温い眼差しでそれを見守る参列者たちと。

そんな空気が場を包む中、賢者なるラファイエラスは、厳かに口を開いた。

「・・・では、これより賢者ワイジャーマが、この婚姻を結ぶ二人に祝福の証を天より注ぐ」

切り替えが早いラファイエラスは、すぐによそいきの顔に戻れるらしい。
両手を広く高く掲げ、何食わぬ顔でそう告げた。

すると、会場内にもかかわらず、上から無数の花々が降り始まる。

微かに光を纏った薄紫色の賢者の花が。

それは会場にいた全ての人の上に無数に降り注ぐことになり、突然起こった花のシャワーに参列者たちからわぁっと歓声が上がった。

そしてカトリアナは、前もって言われていた通りに足元に落ちた一輪の花を手に取る。

そしてそれをそっと胸に抱いた。

恐らくは、参列しているエレアーナもそうしている事だろう。

だが気がつけば、当然の事ながら参列者たちも同様に、これが噂の賢者の花かと次々と膝を折っては花を拾い上げている。

無理もない反応ではあるが、賢者が花を降らせた意図を考えると、これはどうにもよろしくない。

「・・・あれはどう致しましょうか?」

レオンハルトが小声でそう伺うと、ラファイエラスは鷹揚に頷いた。

「構わん。どうせあれらはすぐに消える」
「・・・は?」

レオンハルトが怪訝な声を上げたのとほぼ同時に、参列者たちから声が上がった。
だが、今度は感嘆の声ではない。驚き、そして戸惑いの声だ。

もう一度振り返って参列者たちの方を見れば、彼らの手の中には何もない。
今も花が降り続く中、花は床に落ちては暫くして消えていく。

カトリアナの手にある花以外は。

・・・いや、きっと。

視線をエレアーナ・ダイスヒル夫人へと向ける。
果たして予想通り。
その手の中には賢者の花があった。

「私がそれを許した者以外が手にした花は消えて空へと返ることになる。床に落ちたものも同様だ」

ラファイエラスの声が会場の中に木霊した。
場内は、しん、と静まり返る。

「この花は私、ワイジャーマが自ら祝福する者に与える約束の花。許された者にしか持つことが叶わない花である。私が望む者以外はこの花を手にする事は許されぬ。もし、私の意に反してこの花を手中にしようとする者がいるならば、その者には祝福の代わりに呪いが与えられるだろう」

その宣言に、会場内がざわめく。

レオンハルトとカトリアナは、手元に残された賢者の花に目を落とし、今なお消えることなくそこにあり続ける薄紫の輝きを、ただ黙って見つめていた。

こうして、ラファイエラスの降らせた祝福の花をもって儀式は終了とされた。

この日、リーベンフラウン王国の王太子レオンハルト・リーベンフラウンとマスカルバーノ侯爵家に令嬢カトリアナ・マスカルバーノは婚姻を結び、カトリアナは王太子妃となった。

王太子の婚姻の儀において賢者の祝福の花が天より降り注いだ事実は、瞬く間に国内外に知れ渡ることとなる。

そして、リーベンフラウン王国とその王家に対する畏敬と感嘆の念が沸き起こった。
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