【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
246 / 256

待ちに待った日

しおりを挟む
次の日が楽しみすぎて眠れないって、僕は子どもか?

なんて自分で自分に突っ込んでみたって始まらない。

だって仕方ないじゃないか。
あの子に恋をしているって気づいた日から、ずっと。

ずっと望んでいた。
ずっと焦がれていた。

欲しくて、欲しくて、この腕の中に閉じ込めたくて堪らなかった。

初恋のときとは違う、強く相手を求めて止まない欲求。
エレアーナ嬢に抱いていたような淡い憧れとは程遠い、どうあっても自分のものにしたいという強い衝動。

誰かに譲るなんて考えられない。
想像しただけで気分が悪くなる。

あの子がいいんだ。
僕の妃になるのは、あの子がいい。
そう、あの子じゃなきゃ駄目なんだ。

だからね、カトリアナ。
どうか許しておくれ。

こんな大切な日に、寝不足で隈を作って現れた僕を。

しょぼしょぼした目で会堂の奥を見遣る。
そして僕は驚きで目を瞠る。

・・・ああ、綺麗だ。

僕の、僕の愛しいお嫁さん。
可愛い僕の妃。

今日から君は僕のもので、そして僕は君のもの。

足取りが少しおぼつかないような気がするのは、寝不足のせいなのか、はたまた緊張のせいなのか。
胸がドキドキして息をするのも一苦労なのは、顔に一気に熱が集まったような気がするのは。

それは一体、何のせいなのか。

レオンハルトの色を纏ったカトリアナは、それはそれは美しい。
淡い紫の薄地の布を幾重にも重ねたドレスには、胸元と裾に金糸で細やかな意匠の刺繍が施され、細かくカットされた紫水晶があちこちに縫いとめられている。

金糸と紫水晶が窓から差し込む陽の光をきらきらと反射し、カトリアナの姿は文字通り煌めいていた。

---あれは相当な衝撃だぞ。花嫁のドレス姿以外、目に入らなくなるんだ---

うん。本当だね、ケイン。
カトリアナ以外、何も見えないや。

恥ずかしげに俯いていたカトリアナは、視線に気付いたのか、顔を上げてレオンハルトの方を見る。

そして花婿が近くまで来ていることに気づき、瞬時に顔を赤くした。

すぐ側まで行くと、レオンハルトはカトリアナに手を差し伸べる。

王族の結婚は、二人ともに揃って入場するのだがこの国の習わしだ。
参列者が見守る中、二人は歩き始める。
壇上で待つラファイエラスの前まで、静寂が覆う場内を、二人はゆっくりと進んでいった。

ふと、レオンハルトの掌の上に重ねられたカトリアナの手が、小刻みに震えているのに気づく。

・・・良かった。
緊張しているのは、僕だけじゃないんだね。

壇上に立つラファイエラスの前で、二人の足は止まる。

ラファイエラスが二人の婚姻を高らかに宣言する声が会場内に響く。

緊張のせいか、それとも高いヒールのせいなのか、カトリアナの身体が僅かに揺らいだ。

レオンハルトの掌に重ねていたカトリアナの手に、ぎゅっと力が籠り、もう片方の手が更にその腕を掴む。
必然的に寄り添うような形になって。

「も、申し訳ありません・・・」
「・・・大丈夫だよ」

慌てて小声で謝るカトリアナを、レオンハルトは優しく宥めた。

これだけの人の目が自分たちに集中しているのだ。
それを気にするなと言うのが無理な話だろう。

頬を染めて、震える手でレオンハルトに縋りつくカトリアナの姿は、花婿にとってただただ愛らしかった。

・・・でも。

「まだ誓いの口づけの時間には早いよ?」

両手で縋りついたままでいるカトリアナに、レオンハルトは顔を寄せると、そう耳元で囁いた。

「・・・っ!」

耳や首まで赤くしたカトリアナが、思わず両手を腕をぱっと放す。

「・・・両方とも放しちゃ駄目でしょ?」

そう言って、レオンハルトがもう一度手を差し伸べた。

あわあわしながら手を乗せる様は、見ていてとても癒される。

ふふ。可愛い。

緊張でガチガチになっているカトリアナを見ているうちに、レオンハルトの方の緊張はすっかり解けたようで、その表情にはいつもの余裕の笑みが浮かんでいた。

「・・・揶揄うのも大概にしてやれ」

すかさず小声で諭すのは、目の前で祝福の言葉を捧げていたラファイエラスだ。

それに応えてレオンハルトがさりげなく姿勢を正すと、ラファイエラスは呆れたように溜息を吐いた。
そしてその後、ラファイエラスによる祝福の言葉が終わり、いよいよ誓いの口づけを交わす瞬間がやって来た。

レオンハルトはカトリアナの両肩に手を乗せると、そっと顔を近づけ、優しく口づけを落とす。

すぐに唇が離れたかと思ったら、またすぐに口づけが落とされて。
そしてまた離れては、角度を変えて再び落とされる。

三度、四度、とそれが続き、それでもまだ終わる様子がなかったため、仕方なくラファイエラスが小さな声で「今はそれくらいで我慢しろ」と止めさせた。

婚姻の儀の半ばにして、早くも目が回りそうになっているカトリアナを横目に、レオンハルトの機嫌はますます上向きになっていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...