【完結】僕の恋人が、僕の友人と、蕩けそうな笑顔でダンスを踊るから

冬馬亮

文字の大きさ
10 / 13

嗚呼、勘違い

しおりを挟む




 夜会会場でパーシヴァルを待つ事にしたダニエルとケイトリンは、グラスを手に談笑するフリをしつつ、壁際で打ち合わせを始めた。


 パーシーに揺さぶりをかけるのはダニエル。彼はパーシヴァルはきっとまだ指輪を肌身離さず持ち歩いている筈だと言った。


「きっと、何か格好のつくシチュエーションとか感動的な言い回しとか考えすぎて、機会を見つけられずにいるんだろう。いっそ、プロポーズせざるを得ない状況に追い込むのも手だと思う」


 取り敢えずケイトリンはいつも通りに振る舞う。

 変な令嬢たちに絡まれたが、今は一旦それを置いておいて、パーシヴァルの指輪の真相を掴もうという話になった。


 そんな風に壁際でこそこそと作戦を立てていた時、まずケイトリンがパーシヴァルの姿を見つけた。

 緊張するケイトリンに、ダニエルがそっと囁く。


「表情が固いよ、ケイトリン嬢。ほら笑って、きっと大丈夫だから」

「・・・はい。よろしくお願いします」


 ケイトリンは一度大きく息を吐き、気持ちを切り替えた。


 そして、戻って来たパーシヴァルに向かって言った。


 「もう、パーシーったらどこに行っていたの? 気がついたらいないんだもの、心配したじゃない」


 ダニエルから見ても、違和感はない。早速、ダニエルも続いた。


「そうだぞ、こんな素敵な令嬢を放っていなくなるなんて」
 

 ケイトリンは、近くの給仕を呼び止め、飲み物の入ったグラスをもう一つ手に取り、パーシヴァルに差し出した。


「それで、どこに行っていたの? パーシー」


 ケイトリンの質問に、ダニエルも大きく頷いた。もしプロポーズするつもりで指輪を持ち歩いているなら、大事な人を残してどこかに行ってしまった理由が謎すぎる。


「・・・新鮮な空気を吸いたくなって、ちょっと庭園に」


 ちょっとパーシヴァルらしくて、でも別な意味でパーシヴァルらしくない返答に、思わずダニエルが突っ込んだ。


「おいおい、余裕ぶって恋人を放置するのは感心しないぞ、行くなら2人で行かないと。夜会会場に令嬢をひとり残して、横から掻っ攫われたらどうするんだ。
 相変わらずの朴念仁だな。お前には勿体ないくらいの素敵な令嬢なんだから大切にしろよ。まあ、今回は俺がついてたから良いけどさ」


 ダニエルとしては、先ほどの令嬢たちの件が頭にあった。ちゃんとしろよという気持ちが、少し口調に出てしまったかもしれない。

 そしてそれはケイトリンも同じだったようで、続いた言葉はつい棘のある言い方になった。


「パーシーにダニエルさまのようなお友達がいてよかったわ。お陰で今夜、楽しく過ごせていますもの」







 その後、会話をしながら様子を観察しているうちに、ダニエルはパーシヴァルがズボンの右ポケットによく手をやっている事に気づいた。


 よくよく見れば、ポケットに小さな膨らみも確認できる。


 ―――やっぱり持ってたじゃないか。


 ならば、とダニエルは考えた。後は、少し後押ししてやれば綺麗に丸く収まるだろう。



 ―――よし、これで問題解決だ。


 と、気を抜いた時。



「僕、ちょっとバルコニーで外の空気を吸って来る」



 ―――は?



「ケイトはダニエルと一緒にいたいでしょ? 僕のことは気にしなくていいから」



 ―――おい、ちょっと待て。何がどうした。



 もの凄い勢いで正反対の方向のバルコニーに向かって行ったパーシヴァルを、2人で慌てて追いかけた。

 そうしたら、何故かパーシヴァルは、バルコニーでこんな言葉を呟いていたのだ。


「あ~あ、フラれちゃった。結局、渡せず仕舞いだったなぁ」












しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる

きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。 穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。 ——あの日までは。 突如として王都を揺るがした 「王太子サフィル、重傷」の報せ。 駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

嘘つきな婚約者を愛する方法

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。 本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。 でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。 それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!! だって昔から大好きなんだもん! 諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。 いつもながらの完全ご都合主義。 ノーリアリティノークオリティなお話です。 誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 作者はモトサヤハピエン至上主義者です。 何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。 あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。 ※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...