騎士志望のご令息は暗躍がお得意

第3章

第107話 臨時の会合

騎士科の食堂の料理は今ひとつなんだよな。素朴というか‥‥。肉焼いてあればいいでしょって感じで、バリエーションも少ないし‥‥。他の学科から転属してきた二人にはつらいかもしれない。

入り口で話をしていたら、エドワードが駆けて来た。

「マーカス、ジョス、遅いから迎えにきちゃったよ。どうしたの？」
「あ、エドワード。ごめん、遅くなって。」
「うん。大丈夫。あ、ダリス君久しぶり。」

エドワードがトマソンを見て小さく手を振った。トマソンが目を見開いた。ギュンっと眉間に皺がよる。

「え？‥‥もしかして、アインホルン君？なんで？‥‥知り合い？」
「マーカスとジョスは友達だよー。」

エドワードは満面の笑顔で言う。ちょっと照れるな。

エドワードが確保していた席とマーギットさん達がいた席が近かったので、挨拶をしたら、一緒にランチをすることになった。

「機会があったら話を聞いてみたいと思っていたのだよ。アインホルン侯爵領は昨年魔獣の被害にあって大変そうであったのに、今は持ち直しておられる様子。
同様に魔獣の被害にあった領地に所属する者として、どのように乗り切られたのか是非参考にさせていただきたい。」

マーギットさんにぐいぐいとこられて、エドワードはちょっと引き気味だ。

「‥‥父の縁故で、融資をいただいたんです。」
「おお、融資であるか‥‥。縁は大事であるな。してその後はいかように？農地の復旧はどのようにされたであるか？家や職を失った民への対応は‥‥？」

テーブルの向こう側から身を乗り出してくるマーギットさんに怯んだのか、エドワードは俺の身体を寄せてきた。

「ぼ、僕‥‥、あまり知らなくて‥‥。ごめんなさい‥‥。」

エドワードが引き気味な様子に気がついたのか、マーギットさんは体勢をもどして座り直した。顔に手を当て右目を覆うような動作をする。

「失礼した。少し熱くなってしまったである。」
「ククク‥‥、兄上に迫られると怖いでござるよ。ククク‥‥。」

ユリウスは笑っているが、マーギットさんは平然とした顔をしている。優雅な手つきでお茶を一口飲んだ。そしてユリウスの肩をポンと叩く。

「ユリウスの学費にも影響がある話であるぞ。それに民の生活もだ。熱くなってしまうのである。」

そういわれてユリウスは少しはにかんだように眉をハの字にした。

それまで無言だったデリックさんが口を開いた。

「マーギットは前向きですごいな。積極的に領地の事を考えていて感心する。」
「デリック！他人事ではないであるよ。うかうかしているとロセウスに領地を奪われるであるぞ。」

マーギットさんの言葉に、デリックさんがびくりと肩を撥ねさせた。眉間に深く皺がより細かく眉が揺れた。

ちょっと他所に聞かれない方がいい話のような気がしたので消音魔法を発してみた。マーギットさんはすぐに気がついた様子で、ちらりと周囲に目線を走らせた。

「見事な消音魔法である。マーカス殿はぜひ魔導科に来て欲しいである。」
「それは‥‥まあ、置いておいて‥‥ロセウスに領地を奪われるって‥‥？」

王国南西部の地図を頭の中に思い浮かべた。白蛇山の裾野にダリス伯爵領、ロセウス子爵領、アリアス子爵領が隣り合って位置している。真ん中にあるロセウス子爵領が勢力を拡大するということか？

「ロセウス子爵領には、災害時に今まで何度も何度も我が領から支援をしていたのだ。
三年前の旱魃時もロセウス子爵に頼まれて支援をしている。ダリス伯爵家もそうであろう。
それにも関わらず、魔獣被害の後始末の為に我が領が支援を願い出たら、領の境界にある鉱山を寄越せと言ってきたである。あの鉱山は採掘量は小規模だが、農作物の被害を受けている今では我が領の生命線のようなものである。
到底受け入れることは出来ぬ故、父が断った。父も我もロセウス子爵の態度には憤慨しているのである。」