転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第２章

第289話 広範囲の地形図

魔法紙にはかなり広い範囲までの山や森や集落の位置が写し出されている。

シャル叔父さんの地図と見比べてみると、ノドナスの街もギリギリ写っているみたいだから、アンソラ男爵領とナスタチウム辺境伯領の一部までが写っていることになる。

「え？あの魔道具、こんなに広範囲に表示するのか？」
「ううん。これは実験で作ったやつだよ。風魔石じゃなくて、僕が風魔法で位置情報を取得して、イメージにして写したやつ。魔石の魔力は限られているから」
「……うーん……、それは……。それも内緒にしとけ」
「『位置情報』の魔道具が秘密だから、内緒だよ？」
「それなら、まあ……」

兄上はブツブツ言っていて、父上はなんだか険しい顔で魔法紙を見つめている。
シャル叔父さんは透明カーテンに張り付いていた。

「ねえ……、それ地図というか広範囲の地形図みたいになってる？大丈夫そう？」
「あまり良くはないだろうな……。幸い、他の地図に書かれていない集落のようなものは見当たらないが」
「隠れ里とかないのかぁ。それはそれで残念。……冗談だけど」

父上がジロリとシャル叔父さんに目を向けるとシャル叔父さんは肩をすくめた。

兄上が眉間に皺を寄せたまま、魔法紙に写し出された川のラインを指で示した。

「川の流れている場所もわかるね。こういう地形がはっきりわかる情報は、危険なんだよ。
敵に地形を把握されると狙われやすくなるからね。まあ、隠されている村や街とかがなければ、大体の情報は出ているから地図にも描かれているみたいだけど」

魔法紙の位置情報の図とシャル叔父さんの持っている地図を見比べる。
シャル叔父さんの地図にも山や川を表す図が描かれているし町の名前とか街道名とか記入されていてわかりやすい。

「あ、この地図は商会で作ったもので、一般には売られていないものだよ」

一般的に売られている地図は、町の中だけの地図や、街道を進むときの目印が描かれたものなどが大半だそうだ。

「それと、ダンジョン内部の地図だとかね」
「ダンジョン！」
「ダンジョンの地図はダンジョン攻略に必要だからね。まあ、この国はダンジョンが少ないからあまり重要視されてないけど」

ダンジョンは何階層もあって、階層毎の地図を冒険者ギルドが売っているそうだ。
一度見てみたいなぁ。

「ダンジョンは攻略が推奨されているから、地図を作成したり公表したりするのは別に問題ないんだけど、領地は攻略されたら困るから、詳細な地図は公表したがらないんだよ」
「攻略……、……川に毒を流したりとか？」

ふと、脳裏で以前見た黒ローブの人物が川に何か流し込んでいる光景を思い出して言った。

「川に毒……」

兄上が目を細めた。そして、魔法紙の地形図を指でなぞる。

「川の下流、じゃない？どれも……。ジランを通っている川の下流がアンスで。
ノドナスも山の麓にあって、中心に川が流れている」

「……感染症の原因は毒、だと？」

ピリリと父上が纏う空気が緊張したものに変わり始める。