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第2章
第332話 領境の騎士達
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『……まあ、とりあえず、何か情報があったら、こっちにも教えてくれよ。協力したんだからさ』
『一存では決められないが、善処しよう……』
「動く写し絵」の向こう側、ゲンティアナの騎士達とアンソラの騎士達の間では、何故か話が落ち着いたみたいだ。
「父上から連絡が行ったのかな?」
「流石に、まだだと思うよ。魔道具も渡していないし……」
僕と兄上が不思議に思って首傾げていると、母様が「フフ」と小さく笑った。
『領境では普段からある程度交流があるから、仲が悪いわけではないのよ。捕縛もちゃんと協力しあっていたでしょう?
こちらからも『どうしても』身柄を引き渡してもらえとは言っていないわ」
「動く写し絵」に映し出されている騎士達の様子を見ながら、穏やかに母様が言う。
ゲンティアナとアンソラ男爵領の騎士達は、仲が悪いわけじゃないらしい。
……王宮騎士とか辺境伯領とかの騎士達とは、あんまり仲良さそうじゃなかったけどな……。やっぱりお隣さんだからなのか。
父上が何か伝えにいかなくても、丸くおさまったみたいに見えたけど、領境側からも捕縛の報告が来るし、元々連絡する必要があったみたいだった。
淡々と黒ローブ達が縛り上げられて、アンソラ男爵領の馬車に乗せられていく。馬車の外で、ゲンティアナの騎士とアンソラの騎士が何か書類みたいなものに書き込んでいた。事務手続きしているみたいな感じだ。
ネロ君は子供だからなのか、大人の黒ローブ達とはちょっと対応が違っていて、諭すように騎士にポンポンと肩を叩かれた後、「規則だから一旦、縛るよ」と諭すように言われて頷いていた。
自分で両手を差し出すようにしたネロ君の手首に騎士が縄を掛けている。
「……ネロ君、どうなっちゃうんだろう」
「まあ、一応、毒を撒いた犯人の一味だからな。連れてかれて尋問とかを受けるんだろう」
「でも、脅かされて言うことを聞かされていたみたいな感じだったよね」
「そんな感じにも見えるから、ちょっと丁寧に扱ってるんじゃないか?逃げようともしなかったし。……それに、悪くないかどうかも、まだわからないからな」
「え?」
僕は「動く写し絵」から目を離して、兄上の方を見た。兄上は長椅子の背に寄りかかって、思考するように顎を指で撫でていた。
「……僕達が見ていたのは、つい最近の様子だけで、その前に川に毒を流す役目をやっていたかもしれないだろ。脅されたとしても実行犯だったらやっぱり罪にはなるだろうけど……。そう言うことを尋問してはっきりさせるんだろう。……ああ、アンソラの騎士達も丁寧に対応しているみたいだし、きっと酷いことにはならないよ」
僕が不安になっているのを感じ取ったのか、兄上が僕の方にチラリと顔を向けて肩をすくめた。
確かに、他の二人は強引に放り込まれるように馬車に乗せられていたけど、ネロ君は後ろの馬車に、促されるようにして乗せられていて、乱暴な感じじゃなかったので、ちょっとホッとした。
年配の黒ローブが捕まったのは、その日の夜だった。
『おい!まだいるんだろう?薬を売ってくれ!』
『お願い!子供が……!』
バンバンバンと扉を叩きながら叫ぶように言う人々。少し遠くから映すようにしてみたら、4、5人の人達が店の前に立っていた。もうすっかり日が沈み、手にしているランプの灯りが、店の前の人達の姿をシルエットのように映し出していた。
『……もう、今日は店仕舞いだ。薬が品切れたんでねぇ。明日の朝にしてくれ』
『そこを何とかならないのか!』
『品切れだと言っただろう。明日の朝だ!朝に出直してこい!』
年配の黒ローブの店には昼間にも薬を求める人が行列を作っていた。母様や兄上の予想では、川に撒かれた毒が影響しているんじゃないかと言うことだ。
黒ローブが売る薬は、毒に効くのだろうか。
閉店後に薬を求めてきた人達は、しばらく扉を叩いたりして交渉をし、売ってもらえないとわかると、少しして帰っていくのだけど、暫くするとまた別の人達がやってきて、扉を叩いていた。
『ふぅ……。やれやれ……』
人の波が一旦治まった頃、薄暗い室内に年配の黒ローブの呟きが響いた。
『……明日は、もう少し強めの痛み止めでも売ってみるか……、うん?』
トントントン トントントン トントントン
軽快に三回ずつノックをする音が聞こえてきた。
『……あいつら、仕事を終えたのか?』
ボソリと呟いて歩いていく足音。
カッ
トントン
カッ
トントン
杖で木を叩くような音と、それに応えるようなノックが繰り返された後に、ギィッと扉が軋みながら開く音。
『……は?な、何だお前達は!』
『薬師セイブル。一緒に来てもらおうか』
表示位置を扉の外に移動させてみたら、薄暗い路地裏にアンソラ男爵領の騎士達が扉を取り囲んでいた。
『一存では決められないが、善処しよう……』
「動く写し絵」の向こう側、ゲンティアナの騎士達とアンソラの騎士達の間では、何故か話が落ち着いたみたいだ。
「父上から連絡が行ったのかな?」
「流石に、まだだと思うよ。魔道具も渡していないし……」
僕と兄上が不思議に思って首傾げていると、母様が「フフ」と小さく笑った。
『領境では普段からある程度交流があるから、仲が悪いわけではないのよ。捕縛もちゃんと協力しあっていたでしょう?
こちらからも『どうしても』身柄を引き渡してもらえとは言っていないわ」
「動く写し絵」に映し出されている騎士達の様子を見ながら、穏やかに母様が言う。
ゲンティアナとアンソラ男爵領の騎士達は、仲が悪いわけじゃないらしい。
……王宮騎士とか辺境伯領とかの騎士達とは、あんまり仲良さそうじゃなかったけどな……。やっぱりお隣さんだからなのか。
父上が何か伝えにいかなくても、丸くおさまったみたいに見えたけど、領境側からも捕縛の報告が来るし、元々連絡する必要があったみたいだった。
淡々と黒ローブ達が縛り上げられて、アンソラ男爵領の馬車に乗せられていく。馬車の外で、ゲンティアナの騎士とアンソラの騎士が何か書類みたいなものに書き込んでいた。事務手続きしているみたいな感じだ。
ネロ君は子供だからなのか、大人の黒ローブ達とはちょっと対応が違っていて、諭すように騎士にポンポンと肩を叩かれた後、「規則だから一旦、縛るよ」と諭すように言われて頷いていた。
自分で両手を差し出すようにしたネロ君の手首に騎士が縄を掛けている。
「……ネロ君、どうなっちゃうんだろう」
「まあ、一応、毒を撒いた犯人の一味だからな。連れてかれて尋問とかを受けるんだろう」
「でも、脅かされて言うことを聞かされていたみたいな感じだったよね」
「そんな感じにも見えるから、ちょっと丁寧に扱ってるんじゃないか?逃げようともしなかったし。……それに、悪くないかどうかも、まだわからないからな」
「え?」
僕は「動く写し絵」から目を離して、兄上の方を見た。兄上は長椅子の背に寄りかかって、思考するように顎を指で撫でていた。
「……僕達が見ていたのは、つい最近の様子だけで、その前に川に毒を流す役目をやっていたかもしれないだろ。脅されたとしても実行犯だったらやっぱり罪にはなるだろうけど……。そう言うことを尋問してはっきりさせるんだろう。……ああ、アンソラの騎士達も丁寧に対応しているみたいだし、きっと酷いことにはならないよ」
僕が不安になっているのを感じ取ったのか、兄上が僕の方にチラリと顔を向けて肩をすくめた。
確かに、他の二人は強引に放り込まれるように馬車に乗せられていたけど、ネロ君は後ろの馬車に、促されるようにして乗せられていて、乱暴な感じじゃなかったので、ちょっとホッとした。
年配の黒ローブが捕まったのは、その日の夜だった。
『おい!まだいるんだろう?薬を売ってくれ!』
『お願い!子供が……!』
バンバンバンと扉を叩きながら叫ぶように言う人々。少し遠くから映すようにしてみたら、4、5人の人達が店の前に立っていた。もうすっかり日が沈み、手にしているランプの灯りが、店の前の人達の姿をシルエットのように映し出していた。
『……もう、今日は店仕舞いだ。薬が品切れたんでねぇ。明日の朝にしてくれ』
『そこを何とかならないのか!』
『品切れだと言っただろう。明日の朝だ!朝に出直してこい!』
年配の黒ローブの店には昼間にも薬を求める人が行列を作っていた。母様や兄上の予想では、川に撒かれた毒が影響しているんじゃないかと言うことだ。
黒ローブが売る薬は、毒に効くのだろうか。
閉店後に薬を求めてきた人達は、しばらく扉を叩いたりして交渉をし、売ってもらえないとわかると、少しして帰っていくのだけど、暫くするとまた別の人達がやってきて、扉を叩いていた。
『ふぅ……。やれやれ……』
人の波が一旦治まった頃、薄暗い室内に年配の黒ローブの呟きが響いた。
『……明日は、もう少し強めの痛み止めでも売ってみるか……、うん?』
トントントン トントントン トントントン
軽快に三回ずつノックをする音が聞こえてきた。
『……あいつら、仕事を終えたのか?』
ボソリと呟いて歩いていく足音。
カッ
トントン
カッ
トントン
杖で木を叩くような音と、それに応えるようなノックが繰り返された後に、ギィッと扉が軋みながら開く音。
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