転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第20話 気が進まないお誘い

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「……何でしょうか?」

ギギギと音を立てそうな感じで振り返った兄上が、少し溜めてから口を開いた。ハロルド君は、特になんでもない風な雰囲気で言う。

「明日の朝、ネイサン殿下と散策する予定なのだが、案内をしてくれないか?」

ギョッ。謝罪の場で要望を言う?

そう思ったら、ハロルド君の表情が急に曇った。ちょっと哀しそうな空気だ。

「……そんなに嫌なら無理強いはしないよ。」
「?……まだ何も返事はしていませんが。」

ボソリとハロルド君は俯きがちになって言う。兄上が眉を歪めて不思議そうに訊き返した。ハロルド君は少しだけ顔を上げて僕の方に目を向けた。

「弟君はすごく嫌そうだった。」

ハロルド君の言葉を聞いて、兄上が僕の方に振り向いた。兄上、眉がめちゃくちゃ釣り上がってる。どうやってそんなに眉を動かせるの?
え、そんなに顔に出てた?

「……。」

兄上は一瞬、僕の顔を凝視した後、フゥッと溜めていた息を吐いた。それから僕の背中に手を添えてポンと叩く。そしてハロルド君の方に向き直って言った。

「俺だけでよければ。ご同行はしますが、案内ができるほど周辺に詳しくはありません。」
「え?兄上だけ?」

僕はびっくりしてちょっと大きめの声をあげてしまった。ポンポンと兄上が宥めるように僕の背中を軽く叩いた。

「俺は大丈夫だよ。」
「でもっ。権力だよ!力関係が……。」
「……無理強いはしない、と言っている。爵位の差をひけらかすつもりはないよ。」

兄上だけに囁いたつもりだったけど、ハロルド君に聞かれてしまった。
ハロルド君は、残念そうな哀しそうな感じ。それはちょっと心が傷む。でもなぁ……。

ハロルド君の後ろの騎士達と執事は、「逆らうのか?どうしてやろうか。」ってオーラを出してるんだ。

ハロルド君は、男爵家を来訪しているお客様だ。案内を頼まれて、無碍に断る方が良くないような気はする。
危険な狩場を案内しろとか護衛をしろとか言われたら、無茶振りだとは思うけど。そこまで言ってないものね。

多少、威圧的な言い方だったとしても、できる範囲でもてなすのが男爵家の為にもなるんじゃないかな、……とは思ったりするけども。

考えを組み立ててから、ハロルド君に向き直って頭を下げた。

「嫌そうに見えていたらすみません。失礼しました。」
「いや……。構わない。」

頭を上げてからハロルド君の顔を見ると、ちょっと眉が下がっている。困惑気味?
とりあえず謝罪を受け入れてくれたみたいなので、良かった。

兄上の顔を見上げて、言う。

「兄上が案内に行くなら、僕も行くよ。」
「……良いのか?」
「うん。良い色のキノコとか教えてあげられるし。」
「キノコかあ……。ま、そうだな。」

兄上は指先で顎を撫でてちょっと考えた素振りを見せた後に僕の頭にポンと手を乗せた。

「キノコ?」

ハロルド君が怪訝そうに眉を顰めた。
キノコが嫌なら無理強いはしませんよ?
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